健康コラム
健康課題への取り組み・対策



左から、ファイザー健康保険組合 翠川麻子さん、事務長・木村昌樹さん、常務理事・小川佳政さん、寺門美穂さん
−ファイザー健康保険組合−
積極的な予防医療や相談環境の整備で女性の健康課題解決を
世界的な医薬品・ワクチンメーカーを母体企業とするファイザー健康保険組合は、約3,300人の被保険者とその家族の健康を支えている。母体企業で社員が志願して行うDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の活動にも呼応し、連携、協働しており、2020年度からは「女性の健康支援」の取り組みも本格化させた。
施策と相互関連するセミナーの開催、積極的な予防医療への取り組み、ドクターに相談しやすい環境づくり、独自のポイントシステムやユニークな付録付きの広報誌等、加入者のヘルスリテラシーを高めることで、女性が持てる能力を最大限に発揮できる環境を整える取り組みを推進している。取り組み開始当初は利用者が少なかった事業も、創意工夫で関心を高め、リアクションを増やしている。同健康保険組合常務理事の小川佳政さん、事務長の木村昌樹さん、寺門美穂さん、翠川麻子さんに、その歩みと取り組みへの姿勢を伺った。
女性の健康支援への取り組みを内外に宣言

常務理事 小川 佳政 さん
小川さん ▶
当ファイザー健康保険組合では、2020年から「女性の健康とライフステージ」支援を本格化させました。私は2019年に、健保組合へ着任しましたが、保険者向けの外部セミナーで産婦人科医の講義を聴き、月経困難症や更年期障害が女性のパフォーマンスに与える影響の大きさを知って衝撃を受けました。女性の不調は男性と比較して心理的・社会的な影響と密接に結び付いており、仕事上のパフォーマンスばかりか、自己肯定感の低下にもつながります。会社が休暇制度等の施策を講じても、健康課題という根底の問題を放置したままでは、真の女性活躍は実現できないと確信しました。そうした中で、2020年4月発行の機関誌で、健保組合として女性の健康支援に全力で取り組むことを加入者に宣言しました。
取り組みの開始に当たって、不調を放置しないという意識付けとともに、相談しやすい環境・医療機関を受診しやすい環境の整備が必要と考えました。取り組みの1つとして、当時サービスをスタートした、女性向けヘルスケアサービス「FEMCLE(フェムクル)」を2021年から導入しました。
寺門さん ▶
ニーズを確認するためのパイロットとして、対面での医師への相談を想定し準備を始めましたが、時期的に新型コロナウイルス感染症の影響を受け、実施が難しくなってしまいました。そこで、担当医の先生に了解をいただき、オンラインでの相談に切り替えて社内に周知したところ、案内からわずか2日で予約枠が埋まり、女性加入者がいかに多くの悩みを抱えているかを痛感し、すぐに正式導入を決めました。
小川さん ▶
現在も、FEMCLE上でオンライン相談やセルフチェック(問診)を実施しています。実際に問診を行うと、半数以上が「要医療」と判定され、多くの女性が月経痛や更年期症状を我慢して働いている実態が浮き彫りになりました。医師に相談しやすい環境が整っていれば、適切な治療につながりやすくなるのではないでしょうか。妊娠・出産にとどまらず、月経困難症、婦人科疾患、更年期の体調変化等継続的に相談できる伴走者的な存在として、女性が「産婦人科のかかりつけ医」を持つことが必要と考えています。現在は、専門医とオンラインで10分間、直接対話できる「FEMCLE10分ドクター」のサービスも追加されました。医療機関へのハードルが高いと感じている方に、相談できる接点となります。
図 ファイザー健康保険組合の女性特有の健康課題に関する施策


翠川 麻子 さん
翠川さん ▶
これらは、徐々に利用が広がってきていると感じています。問診型セルフチェックは導入以来300人以上が利用し、毎年継続して利用するユーザーも100人以上います。今後さらに利用を広めるとともに、利用できるツールがあるということを周知し、全体的な意識の底上げを図っていきます。
寺門さん ▶
当初は被保険者のみが対象でしたが、その後、被扶養者まで拡大し、今は12歳以上の女性が利用できます。
小川さん ▶
女性特有の健康課題はライフステージごとに変化していきます。性差医療の研究が進み、同じ疾患でも女性特有の症状があることが分かってきています。一方で、我慢や諦めから、悩んでいても未治療の人が多いという傾向もあります。しかし、症状があれば早めの対処が重要なことは明白です。「産婦人科のかかりつけ医を持つこと」をマイルストーンとし、不調を我慢せず、主体的に相談先を選んだり、治療法を選択できる環境を整えるとともに、意識を高めていくことが女性活躍につながると考えます。
機会損失を防ぐ積極的な予防医療
木村さん ▶
当健保組合では、子宮頸がんワクチンをはじめとした、「ワクチンの全額補助」等、予防医療にも積極的に取り組んでいます。私自身も健保組合に着任するまでは、1人の加入者としてこうした手厚い支援に「ありがたみ」を感じていました。
翠川さん ▶
予防医療ということでは、本人が「受けたい」と思った時に障害にならないプログラムの設計を重視しています。例えば、自宅でできる自己採取型のHPV(ヒトパピローマウイルス)検査キットの導入や、乳がん・子宮頸がん検診の年齢制限は「なし」にしています。
小川さん ▶
わが国の職域におけるがん検診に関するマニュアルでは受診を勧奨する年齢が定められていますが、当健保組合の加入者は、母体企業で抗がん剤を扱っていることもあり、がん検診や治療に関する情報リテラシーが高い人が多く、デメリットも理解した上で受けていただいていると認識しています。このため、年齢で線を引くことによる機会損失を防いで、手厚い補助を行うことのほうが、加入者の健康づくりに寄与すると考えています。
「直接つながる」オンライン健康セミナーの工夫

寺門 美穂 さん
寺門さん ▶
「積極的な予防」については、継続して実施しているオンライン健康セミナーも重要視しています。新型コロナウイルス感染症の影響で母体企業が原則在宅勤務となり、加入者の身体活動量が激減した影響を危惧して、2020年度から開始しました。単なる健康情報の提供にとどまらず、健保の施策を知ってもらったり、健保の存在を認識してもらう機会と位置付けています。子宮頸がん・乳がん、更年期障害、女性ホルモンとの付き合い方等女性の健康課題をはじめ、幅広いテーマを扱っています。
木村さん ▶
母体企業の休憩時間を利用して行うオンライン健康セミナーは、健保組合施策の高い認知度を支えています。開始当初は視聴者が少ない時期もあったようですが、目を惹くようなチラシを作成したり、キャッチコピーを工夫したり、改良を重ねていく中で、徐々に参加者が増えています。
寺門さん ▶
リアルタイム視聴者には、健保独自のポイントシステムである「健康ポイント」を付与しており、「聞き逃したら、お得な機会を逃すかもしれない」と、インセンティブにもなっています。現在は、リアルタイムで200〜300人が参加する規模になり、大きな前進だと感じています。
また、セミナーの最後には、必ず関連する他の健康プログラムも告知し、そちらへの参加につなげる動線を作っています。
小川さん ▶
年2回発行する機関誌には開封を促す目的もあって付録をつけています。
翠川さん ▶
例えば、トレーニング方法が印刷された「ロコモタオル」や、安眠チェッカー付きの睡眠ハンドブック、ブラウンバッグ(服薬中の薬や残薬を薬局に持ってきてもらう)やデンタルミラー・デンタルフロス等も付録にしました。直近では、メタボ対策をテーマにした食のセミナーに関連して健康レシピの小冊子を付録とする等、アイデアを出し合っています。
寺門さん ▶
そして、オンライン健康セミナーで講師の先生にその付録の使い方を説明してもらう等、記事や企画と連動させる工夫もしています。
理解が進み職場に変化をもたらす

事務長 木村 昌樹 さん
木村さん ▶
母体企業であるファイザー社には、社員の自発的な参画による5つの社員リソースグループ(CRG)があります。活動内容は社員それぞれが決め、取り組んでいます。「組織文化の土壌」をつくるこのCRGを、主体的に健康づくりを行うための重要なパートナーと私たちは捉えています。
例えば、女性活躍を支えるグループは男性管理職を対象とした「生理痛疑似体験研修」を実施しました。実際に痛みを体感することで、女性の体調への気遣いや、休暇取得への理解が進みました。会社の休暇制度も「生理休暇」からPMSや不妊治療でも取得できる「ライフサポート休暇」に変更しました。現在では、「長時間の会議を避ける」「女性の健康を意識する」等、徐々に浸透しており、職場に変化をもたらしていると感じています。
寺門さん ▶
健康ポイントは、健康無関心層を巻き込むことにも役立っています。CRGや各事業所が独自に企画した健康増進活動に対し、健保がポイントを付与するコラボヘルスを推進しています。健康診断の結果が優良な方や、特定保健指導を終了した方にポイントを付与する等、「ポイ活」感覚で、健康に興味を持つ1つのきっかけとなっています。
翠川さん ▶
2026年4月からは、新しく妊産婦を対象にした健康管理プログラムサービスを開始予定です。ウェアラブル端末を用い、妊娠中・出産後の歩数や体調を助産師がモニタリングし、LINE等で個別アドバイスを行う伴走型の支援です。
寺門さん ▶
女性の安全な出産をサポートすることに加えて、配偶者である男性加入者も助産師に相談できるので、職場だけでなく家庭環境の改善にもつながると考えています。
小川さん ▶
2026年度においては、「遺伝子検査」の実施も予定しており、自身の潜在的な健康リスクに「気付く」きっかけを提供したいと考えています。今後、検査結果を基に、加入者自らが食事や運動の目標を設定し、翌年の健診で変化を確認する健康のPDCAサイクルを確立したいと考えています。
女性特有の健康課題への取り組みは、医療機関への受診を促すことになるため、短期的には医療費を押し上げるかもしれません。しかし、早期発見やQOL(生活の質)の向上は、長期的に見て組織の生産性を最大化させます。単なる医療費抑制の枠に収まらず、全ての加入者が1人ひとりの能力を最大限に発揮し、イキイキと働き続けられる環境を、これからも健保組合として支え続けたいと思います。