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健康課題への取り組み・対策

ロコモ対策を考える

ロコモ対策を考える

ロコモ チャレンジ!推進協議会委員長の大江隆史氏

ロコモ チャレンジ!推進協議会

自身の運動器の衰えに気付き・知ることがロコモ予防の始まり

世界では長寿化が進展しており、「人生100年時代」の到来が予想されている。こうした中、わが国では、少子高齢化、人口減少という課題に直面し、今後、いわゆる生産年齢人口の減少が見込まれ、健康寿命の延伸や、高齢者の社会参加、就労(雇用)促進といった施策が進められており、その1つの課題に「ロコモティブシンドローム」がある。

そこで今回は、ロコモ チャレンジ!推進協議会委員長の大江隆史氏に、ロコモティブシンドローム対策の現状や課題を聞いた。大江氏は、現代社会では自身の運動・移動能力の衰えに気付く機会が減少していることを指摘し、自身の現状の運動器の程度を知る必要性や、働く若い世代の認知度向上と対策の開始が重要であることを強調した。

移動機能は加齢とともに低下し個人差が拡大

ロコモ チャレンジ!推進協議会 委員長 大江 隆史 さん
ロコモ チャレンジ!
推進協議会 委員長
大江 隆史 さん

「ロコモティブシンドローム」(以下、ロコモ)とは、運動器の障害のために移動機能の低下を来した状態を指します。つまり、立ったり歩いたりすることに何かしらの困難を抱えているということです。

この移動する機能というのは、若いときは個人差が小さく、日常生活では誰も気に留めないようなことですが、加齢とともに低下し、特に高齢者では大きな個人差がみられるようになります。

われわれが実施した全国の20〜80歳代の1万人を対象にしたロコモ1万人調査の結果をみると、40歳代以下では、ロコモに該当する者は非常に少ない。例えば、立ち上がりテストの結果をみると、パイプ椅子くらいの高さである40㎝の台から片脚で立てない者、これはロコモの始まりといえる状態ですが、40歳代以下ではこれができない人は本当に少ない。

しかし、40歳以上になると片脚で40㎝の高さから立ち上がることができない人が出てきて、高齢者ではできる人とできない人で大きく分かれてくる。

この1万人調査の対象者は入院患者や施設入所者ではなく、調査会場に来ることができる、日常生活圏で普段暮らされている方がたです。このことを高齢者の就労に当てはめて考えてみると、就労の場は、例えば、工場であれば段差がある、高いところに上る、素早く移動するなど、日常生活圏域よりも厳しい環境や場面に多く遭遇することになりますが、そうした中に一定程度、移動に支障を来しているロコモの高齢者が存在しているということになります。

しかし、問題は、こうしたことに本人も含めて気付いていない、知らない、ということです。

自身の衰えに気付く機会が減少

学生時代は体力テストといったものが定期的にあり、自身の運動能力を測る機会がありましたが、社会人になるとそのような機会は用意されておらず、運動習慣がない人は自身の運動能力が現状どの程度なのか分かりません。

また、一昔前であれば、日常生活の場で衰えに気付く機会が多くありましたが、現代社会ではなくなりつつあります。例えば、和式トイレで手すりをつかまないと立ち上がれなくなった、エレベーターが整備されていない街中や建物内の階段を上りきるのが大変になった、買い物で重い荷物を持ち帰れなくなったといったことで、自身の衰えに気付くことができました。

しかし、トイレは洋式に代わり、そこかしこにエレベーターが設置され、家の近くにはコンビニエンスストアができ、また、インターネットで注文すれば、今では食事も配達してくれる。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大によって、移動する機会の喪失が加速化しました。

そうしたことで、現代社会では、自身の運動・移動の能力がどの程度なのか、衰えてきているのか気付くことや知ることができる場面・出来事が減少しています。

こうした中で、高齢者にも安全に、長く健康に働いてもらうためには、自分自身のこれらの能力がどの程度なのか知ってもらう必要があります。これは就労の場を提供する側、働き方を管理する側にとっても重要なことだと思います。高齢者の特性を考慮した「エイジフレンドリー」な職場づくりも大切ですが、それだけでは不十分で、おのおのの状態を知らなければ、実際の現場では対応ができないと思います。

状態を知ることで適切な対応が可能に

このため、われわれは自分自身の衰えに気付き、知ることができる「ロコモ度テスト」を提案しています。

テストは3つあります。1番目は「立ち上がりテスト」で、下肢筋力を調べます。40㎝、30㎝、20㎝、10㎝の台から、片脚または両脚で座った姿勢で反動をつけずに立ち上がれるかで判定します。大まかでよければ、40㎝の高さ、だいたい普通のパイプ椅子程度の高さからの片脚立ちと、20㎝からの両脚立ちができるかで分かります。前者ができなければ、あなたはすでにロコモの状態にありますし、後者ができなければ、ロコモが進行しています。

2番目は「2ステップテスト」で、歩幅から調べます。できる限り大股で2歩歩いてもらい、その距離を身長で割った値で判定します。3mくらいの実施スペースと歩幅を測るメジャー、そして計算のための電卓があれば実施できます。

3番目は「ロコモ25」という25項目の問診で、体の状態・生活状況を調べます。高齢になったらこの25問に回答するだけでも、気付きが得られると思います。

テストの結果によって、ロコモ該当なしと、程度に応じたロコモ度が3段階で分かります。ロコモ度1の軽いレベルであれば、自己トレーニングで改善が見込めますが、最も重症なロコモ度3は、自立した生活ができなくなるリスクが非常に高く、また何らかの運動器疾患の治療が必要になっている可能性あるので診療を勧める必要があります。

ロコモ予防対策をする上で、「高齢者だから」といって一律に対策を講じるのは非効率的ですし、現実的にも難しい。個々人の状態を知ることで、適切な対応や介入が可能となり、対策も最大限の効果が得られると思います。

ロコモ度テストの詳しい方法はわれわれのホームページで紹介していますし、個人利用向けにスマートフォンで使える「ロコモ年齢」判定ツールを開発したので、活用していただきたいと思います。

メタボ健診の1つに運動器をみる実技を

メタボリックシンドロームは広く国民に健康問題として浸透していますが、高齢期における健康問題であるロコモやフレイルはなかなか広がっておらず、また、正しく理解されていない現状にあります。臨床現場でも、それぞれの領域が異なることから、これまで深く議論が行われていませんでした。

こうした中、2019年に日本医学会のシンポジウムで関係者が集まる機会があり、ロコモとフレイルについて、関係学会の当事者により領域横断的に議論することになり、2022年4月にその成果をまとめた「フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言」を発表しました。この宣言は80の学会・団体が名を連ねる画期的なものです。

宣言では、フレイルとロコモは、人生100年時代における健康寿命延伸のための健康増進と医療対策のために克服すべき状態であると位置付けた上で、フレイルは「老化に伴い抵抗力が弱まり体力が低下した状態」、ロコモは「関節など運動器の機能が低下して移動が困難になる状態」と定義しました。

また、人生という時間軸で考えた場合、加齢に伴い移動することが不自由なロコモの状態になり、高齢になってロコモが重症になると体力の衰えが増えるフレイルの状態に、そしてさまざまな病気の進行と相まって徐々に生活機能が低下して1人では身の回りのことをするのが不自由な要介護の状態に陥るとして、その都度で適切な介入を行い、生活機能の維持・改善を目指す必要性を指摘しています。

小児期から食育や運動教育等のアプローチを行うことが必要ですが、ロコモやフレイルの発現にはメタボリックシンドロームと痩せの問題が深く関わっており、そのことを踏まえれば、現在40歳以上を対象として実施している特定健康診査・特定保健指導と併せたロコモ予防対策が非常に有効ではないかと考えています。

われわれとしては、この特定健康診査の中に1つでも運動器に関する実技試験を入れてほしい。問診でもある程度は分かりますが、運動器の機能に関わる問題ですから、パフォーマンスを見ることが重要ですし、個々人の実体験としても実技は非常に印象に残ると思います。例えば、40㎝の台からの片脚立ちを職場の集合健診で「皆さんできますか?」といって実施したら非常に盛り上がるはずですし、それぞれの記憶にも残ると思います。

この40㎝程度の高さのパイプ椅子からの立ち上がりであれば、特別な準備をしなくても、工夫すれば健診会場での順番待ちや医師の診察の際の流れの中で、今すぐにでも取り入れることができるのではないでしょうか

働く若い世代の認知度向上が対策に直結

国の「健康日本21(第2次)」の中に、ロコモの認知度向上が目標として掲げられています。目標値は80%と非常に高く設定されました。

当初の認知度は17.3%で、健康日本21(第2次)が始まったころはわれわれの取り組み等によって認知度が向上し、4割に達しましたが、中間評価以降は停滞し、最終的に44.8%で5割の壁を超えられませんでした。

その要因を調べてみると、高齢者の認知度は高く7割近くの方が知っている一方、「ロコモはまだ関係ない」と思っている、働く若い世代の認知度が低いことが分かりました。こうした働く若い世代の認知度を上げていくことが、今後のロコモ予防対策に直結していくと考えており、やはりそのためには、特定健康診査や事業所健診、人間ドックの機会にロコモ度を判定する実技を1つでも組み入れていくことが必要だと思います。

ロコモの認知度向上と対策の推進に向けて40㎝からの片脚立ちに取り組む動画やロコモ予防動画を作成し公表していますし、協賛企業の皆さまと一緒にさまざまな取り組みを進めています。

最近ではロコモの普及啓発のため、「移動時間の質向上」に資するサービスの創出として、民間事業所との共創による旅支援サービス「LOCOTOMO(ロコトモ)」の実証事業を開始しました。

こうした取り組みを通じて、多くの国民にロコモを知ってもらい、その予防対策を推進していきたいと思います。

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