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企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

富士フイルムエンジニアリング株式会社

健康ビジョンを具体化 仕掛けて突破! 全員巻き込む健康経営

富士フイルムのグループ会社である富士フイルムエンジニアリングは、富士フイルムグループ各社の新規設備投資の最適化やコストダウンを行うほか、より生産を効率化するための課題を解決する役割、既存生産設備の保全を担っている。健康保険組合作成の「健康通信簿」などを契機として、社内の健康課題を強く認識し、2018年から「健康経営」への取り組みを本格的に開始、19年からは「健康経営」と「働き方改革」を車の両輪として取り組んでいる。19年から2年連続で「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」に認定された同社の健康経営の取り組みについて、富士フイルムエンジニアリング経営企画・総務部マネージャーの小川能寛さん、富士フイルムグループ健康保険組合常務理事の篠原正泰さんに話を聞いた。

【富士フイルムエンジニアリング株式会社】
創 立:2014年4月
本 社:神奈川県南足柄市中沼210
代表取締役社長:土井喜道
従業員数:309人(2021年2月末現在)

──健保組合作成の「健康通信簿」を契機に健康課題を強く認識


富士フイルムエンジニアリング
経営企画・総務部マネージャー
小川 能寛 さん

小川さん ▶

 健康経営に取り組むことになったのは、従業員本人や家族の健康問題で事業運営の変更を余儀なくされたことがきっかけです。また、2018年に健保組合が作成した「健康通信簿」で、他のグループ会社と比較して当社の成績が良くないことを目の当たりにし、「これはまずい」と思い、健康課題を強く認識しました。

 当社は、優れた生産設備を世に送り出し、それを現場で長く安定的に使い続けていただくことが使命です。言い換えれば、「設備の健康寿命を延ばす」「設備をより健康にする」ことに全力を傾けています。これを続けていくためには、従業員一人ひとりが健康であることが重要になります。

 元々、安全に対する意識が高い会社であり、安全には相当のエネルギーをかけています。このため、新たに健康に関する活動を起こすというよりも、それまでの安全にかけるエネルギーや意識を健康に振り向けられないかと考えました。

 そうした中で、健保組合の資料でグループ会社数社が「健康経営優良法人」(以下、優良法人)認定にチャレンジすることを知りました。従業員の健康に対する意識を高め、行動を変えるための旗印、従業員全員で担ぐ御神輿(おみこし)の位置付けで、当社も優良法人認定へのチャレンジに手を挙げました。

 チャレンジにあたっては、健保組合から当社社長宛にレターを出していただいたところ、社長の了解が得られ、健康経営の取り組みを本格的に開始することができました。

 優良法人認定に向けた活動を開始するにあたり、社長からは「健康経営に取り組んでいることを全従業員が実感できる活動にしてほしい」といったお題が下りてきました。ただし、実際に活動を始めてみると、職場のリーダー層の反応が思わしくありませんでした。「健康は個人の問題」「何か起きてから対応すればよい」「仕事を増やすな」といった感じでした。

 そこで、まずはリーダー層のマインドチェンジに狙いを定め、健保組合と産業医に協力いただき、役職者対象の健康セミナーを2回実施しました。大変インパクトのある内容のセミナーだったこともあり、リーダー層の意識、風向きを変えるきっかけになりました。


富士フイルムグループ健保組合常務理事
篠原 正泰 さん

篠原さん ▶

 富士フイルムグループ全体の健康経営もかなり進んできていますが、その前の段階で、状況を打開するべく健康経営の取り組みを開始したことは、グループの中でもパイオニアといえます。取り組みにあたっては、かなり苦労されていたようですが、それだけに価値も高かったと思います。

小川さん ▶

 19年からは、「健康経営」と「働き方改革」を車の両輪として取り組んでいます。社長は日頃から「元気で活き活きとした社員が集う会社にしたい」と言っています。

 そこで社長が方針として説明したのが『富士フイルムエンジニアリングの「健康経営」「働き方改革」への想い(次頁図)』です。全ての基盤が「健康」であり、その上に「仕事」「社会生活」「個人・家族」という3本柱がバランスよく乗ることで、当社が目指す姿である「成長・革新・チャレンジ」を実行・実現できる。言い換えると、土台である「健康」がぐらつく、あるいは3本柱の大きさや長さのバランスが崩れると、理想とする目指す姿を乗せることはできません。

篠原さん ▶

 方針を打ち出し、しっかりと絵にしたのは、グループ会社の中でも富士フイルムエンジニアリングが初めてでした。大変素晴らしい取り組みだったといえます。

──健康ウェブサービスを最大限に活用して展開

小川さん ▶

 健康経営を推進するにあたり、当社は従業員数300人規模の会社で、お金もリソースも限られているため、世の中の既存の仕組みを最大限に活用し、風を捉えて社内に徹底展開することを基本に考えています。

 具体的には、健保組合提供の健康ウェブサービス「kencom」のウォーキングイベントである「みんなで歩活(あるかつ)」(以下、歩活)などの活用を徹底的に周知し、参加者・仲間づくりを行ってきました。

 歩活は、グループ会社との対抗戦方式としています。対抗戦方式導入前の歩活の参加率は1%程度でしたが、導入後には70%を超えました。これが健康経営を一気に加速させる起爆剤になりました。

篠原さん ▶

 健保組合としても歩活は何年間も展開してきましたが、対抗戦方式を導入してくれたのは、本当に素晴らしいと思いました。対抗戦方式にするため、小川さんが同じ敷地内のグループ会社に声を掛けて回っていました。その結果、富士フイルムエンジニアリングを含めた5社が参加することになりました。

 対抗戦方式という競争原理を導入することで、富士フイルムエンジニアリングや他の4社も励起されるなど、1つの起爆剤になったと感じています。

小川さん ▶

 現在、「kencom」の登録率は9割超、歩活の参加率も約9割、さらに禁煙外来挑戦者数は富士フイルムグループの中でもトップレベルの実績です。この3項目は全て健康行動であり、多くの従業員が健康行動を実践しています。

 また、役職者対象の健康セミナーで効果がみられたため、一般従業員向けの意識・行動変容の取り組みを仕掛けました。当社には定期の「安全ミーティング」という場があり、その場を活用して、1話10分の専門家によるセミナー動画を流しました。「生活習慣病予防の活動を行うと、将来の認知症予防につながる」といった内容でしたが、相当インパクトがあったようです。

 視聴後のディスカッションでは、「健診結果をもう一度見直した」「歩活に参加したい」「有酸素運動が大事」などの声が聞かれたように、健康無関心層にもメッセージが届き、意識・行動変容につながるところを垣間見ることができました。

──健康経営と働き方改革を車の両輪で推進

小川さん ▶

 当面は、「健康経営」と「働き方改革」を車の両輪で進めていきます。当社はグループ会社内で発生する建設計画や設備計画などを実行するエンジニア集団で、業界的にも長時間労働の従業員が多くいました。14年の会社設立以降、ワークスタイルの見直しを行い、所定外労働時間も4割ほど減少していますが、まだ道半ばであり、しばらく力を入れて取り組みます。

 また、健保組合から、被扶養者の健診受診率が低いといったデータをいただきました。結局、家族が健康でないと、従業員本人も持てる力を発揮することは難しいです。このため、被扶養者の健診受診率を高める施策を実施したいです。20年度に1つの取り組みを行っているのですが、まだ結果が出ておらず、検証も行えていません。このため、今回の取り組みでよいのか、あるいは別の取り組みが必要なのか、今後検討していきます。

篠原さん ▶

 家族が病気だと、従業員本人もしっかり働くことができません。富士フイルムエンジニアリングの19年度の被扶養者健診受診率は55.1%で、全グループ会社平均の58.2%を下回っています。このため、「もう少しがんばらないといけない」といった問題意識に基づく取り組みが必要だと思います。

小川さん ▶

 最終的には、従業員やこれから入社する従業員が〝イキイキ、ワクワク、バリバリ〟働いている姿を目指したいです。今いる従業員が元気に働いている姿が、当社への応募者に魅力となる正のスパイラルとなっている状況を描きたいです。

 従業員募集にあたって、優良法人認定は大きなアピールになりますが、世の中には業績拡大、ダイバーシティや人材育成を高いレベルで実現している企業があります。他社の成功事例を研究して具体的な課題に落とし込み、さらに取り組みを進めていきたいです。

──健康経営の横展開でコラボヘルス推進を

小川さん ▶

 健康経営に取り組み始めて、健保組合の存在は本当に近くなりました。当社はkencomの登録率を高めることに成功したのですが、その後、kencomを中心に置いた「健康スコア見える化キャンペーン」を実施しました。kencomを使用する頻度を高めて、従業員が「正しい知識を持つ」「自分の状態を知る」「健康行動につなげる」ことでヘルスリテラシーを向上させることが狙いでした。

 そのために、ウェアラブル端末の活用を軸に展開しました。このときに、健保組合から購入補助の支援をいただいたほか、機種選定やデータ連携など、さまざまな面で協力いただき、キャンペーンもうまくいきました。

 また、歩活の対抗戦では、期間中の実績集計や順位発表といった行司役を健保組合に依頼したところ、丁寧に対応していただき、成功裏に終えることができました。

 当社はグループ会社の中でも小規模ですが、小規模だからこそ試せる面白い企画を健保組合と一緒に取り組みたいです。上手くいったこと、いかなかったことを含め、知見を吸い上げていただき、ぜひ他グループ会社への横展開、ひいては富士フイルムグループ全体の健康経営の推進につなげていただければと思っています。

篠原さん ▶

 健保組合が横から何か言っても、組織人である従業員としては、やはり会社と一緒でなければ動かないものです。つまり、事業主側の協力を得られないと前に進むことはできません。それを先端的、開拓的に進めてくれたのが富士フイルムエンジニアリングであり、コラボヘルスの重要性を再認識することができました。

 今後の健保組合は、データヘルスの取り組みも大事ですが、最も大事なのはコラボヘルスだと思っています。いかに事業主と近い存在となり、「健保組合が助けてくれた」「健保組合のお陰でこうできた」と言われるように支援することが健保組合の生命線になると考えています。

健康コラム
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