HOME > 健康コラム > ほっとひと息、こころにビタミン バックナンバー > ほっとひと息、こころにビタミン vol.61

ほっとひと息、こころにビタミン vol.61

精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。

【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕

あらためてレジリエンスを考える

昨年の12月号でも書きましたが、レジリエンスというのは、逆境に置かれたときに発揮される地域や組織、人間の強さを表す言葉です。「曲がっても折れない力、曲がっても元に戻る力」と表現されることもあります。

私たち誰もが持っているといわれるレジリエンスですが、新型コロナを巡る人びとの対応をみていて、私は、あらためてその存在を感じました。在宅勤務がその良い例です。感染対策上の理由で、多くの企業で在宅勤務が導入されました。

ところが、同僚との交流が突然断ち切られたように感じて、人目につかないようにそっと出社する人がいました。勤務経験のほとんどない若い人たちは、すぐに質問できる人が周りにいなくて困っていました。その一方で、体の負担が減ったという理由で在宅勤務を喜んだ人もいました。「自分だけの世界で、自分のペースで仕事ができるようになって良かった」と言っている人もいました。

マスクについても、個別性を考える必要があります。マスクが感染対策の役に立つといっても、アレルギーのためにマスクを着けられない人への配慮はもちろん必要です。屋外や、屋内でも混雑していなくて会話をする人がいないところまでマスクをする必要はなさそうです。

もちろん、ほかの人と一緒に仕事をしたり活動したりするためには、どこかで自分を抑えて周りに合わせる必要があります。しかし、無理をしすぎると本来の自分の力を発揮できなくなります。コロナ禍の体験をもとに、それぞれの人が、個別性を尊重して、レジリエンスを生かせる社会へと進化していくことが期待されます。

大野 裕(ゆたか)

ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。

バックナンバー