HOME > 健康コラム > ほっとひと息、こころにビタミン バックナンバー > ほっとひと息、こころにビタミン vol.69

ほっとひと息、こころにビタミン vol.69

精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。

【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕

人生百年時代、どこに生きがいを見出すか

精神疾患のために長期間休職したことのある人と話をしていると、このような生き方もあるのだとあらためて教えられる思いがすることがよくあります。私が診ているある人は、春先になると決まって気分が落ち込むと言います。

それは、同期の人たちが出世しているのに、自分は年度が変わっても昇進する可能性がないという現実が目に入ってくるようになるからです。しかし、その人は、ひとしきりその話をした後に、自分の趣味のスポーツの話をします。

野球とバスケットボールが好きなその人は、仕事の合間を縫って観戦に出かけます。それぞれシーズンが違うスポーツなので、1年を通して楽しむことができると言います。妻と一緒に出かけることも多く、家庭の中でもその話で盛り上がるそうです。

家庭菜園を楽しんでいる人や、田植えに仲間と出かけたりする人もいました。草花が成長するのを眺めたり、土の感触を楽しんだりできるそうです。

精神疾患は誰でもかかる可能性があります。それも思いがけないときにかかって、それまで当然と考えていた仕事中心の生き方ができなくなる人も少なくありません。最初は戸惑い、絶望的にさえなるでしょう。でも、時間がたてば、このように自分の楽しみを見つけることができるようになるのです。

人生百年時代といわれる今、こうした人たちの生き方はとても良いモデルになります。誰もが、定年などでそれまでとは違う生き方をしなくてはならなくなります。そのようなとき、それまで仕事以外の楽しみを持てていない人でも、新しい生き方を見つけられることが分かるからです。

大野 裕(ゆたか)

ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。

バックナンバー