健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
東レ株式会社
現場主義の施策を健康経営推進チームで戦略的にサポート
2026年4月に創立100周年を迎えた東レ株式会社は、繊維、機能化成品、炭素繊維複合材料、水処理・ヘルスケアその他の製品の製造・加工および販売事業を展開している。社員1人ひとりの心身の健康支援のため、各拠点の健康課題に応じた「現場主義」の取り組みを実施している。2025年10月の「健康経営宣言」を契機として、各拠点の取り組みを組織的にサポートする体制を整備し、健康施策を再始動させた。2026年に「健康経営優良法人(大規模法人部門)」に認定(「ホワイト500」を含め9年連続)されている。同社の健康経営の取り組みについて、同社勤労部シニアマネージャーの中山恵介さん、同部健康経営推進チーム事務局の進藤航さん、大阪本社保健師の山内麻美子さん、滋賀事業場保健師の池田明美さん、東レ健康保険組合専務理事の奥村栄二さん、同事務次長の蘆田英幸さんに聞いた。
【東レ株式会社】
設立:1926年1月
本社:東京都中央区日本橋室町2−1−1 日本橋三井タワー
代表取締役社長:大矢 光雄
従業員数:7,027人(2026年3月末現在)
2025年10月に「健康経営宣言」
──こころとからだの健康、働きやすい環境が基盤

東レ株式会社 勤労部
シニアマネージャー
中山 恵介 さん
中山さん ▶
当社では、社員の働きがい、ウェルビーイングを重視しており、「人」を企業経営の基本と位置付けています。また、企業行動指針の中でも「社会と社員の安全と健康を守る」ことを明示しており、当社の健康施策はこれらの理念に基づくものです。
外部環境の変化や社員の属性・キャリア観が多様化する中で、従来実施してきた労働災害の防止、疾病予防の取り組みに加えて、社員の健康を経営的視点から捉えた「健康経営」を推進するため、2025年10月に代表取締役社長の大矢から「健康経営宣言」を発出しました。「東レグループは『こころの健康』『からだの健康』『働きやすい環境』を基盤に、社員と企業がOne Teamで成長を続け、幸福感を得ることができる『真のサステナブルな会社』を目指します」というものです。
実際にはそれまでも、それぞれの現場でしっかりと健康施策に取り組んできましたが、「健康経営宣言」を機に、One Teamの推進体制を整え、改めて現場の取り組みを戦略的に後押ししていくこととしました。

東レ株式会社 勤労部
健康経営推進チーム 事務局
進藤 航 さん
進藤さん ▶
健康経営の推進体制については、現場レベルで実態的に機能していたものを、「健康経営宣言」発出にあわせて「健康経営推進チーム」として再構築し、全社共通の優先課題や取り組み、各拠点に対する支援を主導する役割を担うこととしました。同チームは、各拠点の労務担当部署・産業医・保健師、健保組合、労働組合、生産本部スタッフ、勤労部(事務局)で組織・連携しています。
当社の健康施策の強みは「現場主義」にあります。当社は東京・大阪本社と、事業(工)場、研究開発拠点のあわせて国内16拠点を有していますが、拠点ごとに社員の構成や働き方が異なるため、当然、健康課題も多種多様です。本社と工場での違いはもちろん、同じ工場でも働く職場によって勤務態様が異なります。そうした中で健康経営推進チームには、各拠点の産業医・保健師にも参画していただき、「現場」で生じている健康課題を皆で共有し、各拠点の取り組みをサポートする上での最適解を日々模索しています。
中山さん ▶
「健康経営宣言」を経て、トップのコミットメントが大切だということを改めて感じました。「従業員の健康」の重要性を経営層にも再認識してもらい、自ら宣言を発出することで、全社的な機運が生まれ、これまで十分に支援しきれていなかった現場の健康施策の一層の後押しにつながりつつある実感があります。これは大きな前進だと思っています。

東レ健康保険組合
専務理事 奥村 栄二 さん
奥村さん ▶
健保組合ではデータヘルス計画を基本として取り組みを進めていますが、健康経営推進チームにも参画し、会社と連携して効率的・効果的な健康施策を推進しています。会社・労働組合・健保組合の三者会議や全社健康管理スタッフ会議への参加等を通じて、拠点ごとに異なる健康課題の把握と共有に努め、その解決に向けた施策を実行しています。
蘆田さん ▶
現場から吸い上げた内容を踏まえ、現在の重点課題として、「①病気の重症化予防」「②歯の健康」「③女性特有の健康課題への対応」を推進しています。
「①病気の重症化予防」に関しては、病気の早期発見、早期治療および生活習慣病の予防のため、被保険者の人間ドック受診、被扶養者健診の費用補助を拡充しています。特定保健指導については、昨年度(2025年度)にWEBによる食事系、運動系のプログラム、指導員による対面・WEB選択プログラムから自分にあった保健指導を選択していただけるよう改善しました。健康イベントとしては、個人・チーム参加形式のウォーキング大会等も実施しています。

東レ健康保険組合
事務次長 蘆田 英幸 さん
「②歯の健康」については、口腔の健康が全身の健康に影響するという観点から、その維持・改善の重要性を周知するとともに、各自が自身の口腔状態を正しく認識して、改善につなげていただくことを目的として健康教育セミナーを実施しました。
「③女性特有の健康課題への対応」は、女性だけでなく、男性も学ぶことが大切であり、女性の健康課題への理解を深めて、誰もが働きやすい職場環境整備を促進することを目的に、昨年度、会社と健保組合のコラボヘルス施策としてeラーニングを実施しました。
──勤務体制も考慮し健診・保健指導を実施

東レ株式会社
大阪本社 保健師
山内 麻美子 さん
山内さん ▶
大阪本社は営業職の社員も多く、外出や出張もありますので、保健指導は親切・丁寧・正確な対応を基本にして、簡潔に短時間で、個別性に応じて対応するよう心掛けています。メールの場合も明快に、分かりやすくといったことを特に意識しています。
大阪本社で働く社員の健康課題としては、動脈硬化性疾患のリスクが高い傾向が見られます。産業医と相談しながら、動脈硬化を進行させるリスク因子への介入に力を入れています。特に定期健診で有所見の人には、重症化の手前で早めに医療機関を受診するよう積極的に促しています。健康な会社生活はもちろん大事ですが、退職してからも、健やかな血管を保って老後生活を過ごしていただきたいという思いで取り組んでいます。
池田さん ▶
滋賀には製造、研究開発をはじめとする複数の職場があり、勤務体制も職場ごとに異なりますので、健診や保健指導もそれぞれの状況を考慮した柔軟な実施を心掛けています。
滋賀で働く社員の年齢が徐々に高くなってきた中で、脂質、血糖の有所見は増加傾向にあります。滋賀では、2023年の定期健診でLDLコレステロール値が高かった人に対して、集中的に受診勧奨や保健指導を行いました。医療機関受診の結果は、治療や指導の内容、追加検査の結果等を書面で報告してもらっており、今後この結果・データがどう推移していくか、しっかりと検証していく必要があると考えています。
若年時から肥満傾向にある人は、年齢が上がるとともに生活習慣病のリスクが高くなりますので、2025年度から特定保健指導対象前の39歳以下の世代を中心に、BMI値の高い人への保健指導を集中的に実施しています。
また、製造現場の社員はある程度活動量はある一方で、デスクワーク中心の事務職、研究開発職の社員は、活動量が少ない場合もありますので、運動に関する高い意識を持っていただくため、各種イベントの周知にも取り組んでいます。
進藤さん ▶
健保組合とコラボしたウォーキング大会や体力測定などの健康増進イベント、産業医による講演会、ラジオ体操の実施等、全社的な取り組みと各拠点独自の取り組みを有機的に連携・推進し、社員の健康意識の向上を図っていきたいと考えています。
健康施策は、効果が出るまでに時間がかかる面もあり、中長期的な観点で取り組むという覚悟も肝要になりますね。
蘆田さん ▶
例えば、人間ドックの費用補助増額により自己負担が軽減することで受診率は上昇すると考えています。この目的は疾病の早期発見・予防であり、重症化予防、健康寿命の延伸につなげていくことです。過去のデータも含め受診者のデータは膨大なものになりますので、それを追跡・分析し最適な施策につなげていくことが重要です。

東レ株式会社
滋賀事業場 保健師
池田 明美 さん
池田さん ▶
定期健診の結果については、受診者数、年齢構成、各項目の有所見率の年次推移、喫煙、飲酒等の問診結果をまとめて事業場内の安全衛生委員会で説明しています。2024年度から35歳未満の全員に特定健診と同様の血液検査を導入し、データもより正確に取れるようになり、保健指導をしやすくなりました。これで経年変化も見やすくなりますから、5年、10年という長いスパンで結果を見ていく必要があると思っています。
山内さん ▶
治療が必要な社員、保健指導が必要な社員を1人ずつ着実にフォローしていくことで、その方々の数値自体は年々改善しています。一方でいまだ改善が見られなかったり、新規で介入が必要になった社員も一定数いますので、引き続き丁寧に対応していくこととしています。
──健診データを分析し効果的な健康施策に
奥村さん ▶
健保組合は被保険者の保険料で事業を実施していますので、やはり無駄はなくしていかなければなりません。より効果のある疾病予防対策、健康推進対策が求められているということです。データ分析を基に、PDCAサイクルを回して、より有効な施策へと改善していく必要があります。
健康への投資は効果が現れるまでに時間がかかると思いますが、会社の明るい未来のための先行投資と捉え、会社には、長い目で見て、粘り強く継続的な施策を実施してほしいと考えています。会社の健康経営の取り組みと、健保組合のデータヘルス計画に基づく取り組みによる相乗効果を発揮できればと思います。
蘆田さん ▶
健診データの提供や保健師との連携により健康課題を見定め、コラボヘルスによる実効性の高い健康づくりを進めたいと思っています。重症化予防、歯の健康、女性特有の健康課題、喫煙対策、睡眠改善などテーマはさまざまですが、健保組合として加入者の健康維持・増進、ウェルビーイングの向上を目指して取り組んでいきます。
進藤さん ▶
健保組合からは、健診データをはじめとする膨大なデータの分析、疾病予防の知見を踏まえ、会社単独では得がたい示唆をいただき、当社の健康経営、健康施策をより良いものへとブラッシュアップしていきたいです。加えて健保組合は、家族(被扶養者)に対する効果的なアプローチも可能ですので、会社とは違った立場から健康に関する意識付けやPRをしていただくことで、健康施策が全体としてより強固なものになっていくことを期待しています。
中山さん ▶
会社としては、2025年の「健康経営宣言」を契機として健康施策をいわば再始動させたところですが、当面の課題として、1つには「エイジフレンドリーな職場の実現」があります。会社全体として社員の高年齢化が進んでいる中で、高年齢層に加え若年層からの予防も含めて、支援・啓発を強化していきたいと考えています。2つ目は「女性を中心とした性差に応じた健康課題への対応」、3つ目が「労働時間対策(全社員の働き方の行動変容)」です。これら3つの課題は昨年度から継続して取り組んでいるものですが、直近の健康スコアリングレポートや健康経営度調査も踏まえて、2026年度からは、生活習慣病・メンタルヘルス対策などについても、健保組合とも歩調を合わせ一層推進していきたいと考えています。