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働き盛りのメンタルヘルス vol.13

メンタルヘルスをコミュニケーションから考える

2010年度は、錯綜するメンタルヘルスの知識整理を下敷きに、働き盛り世代のメンタルヘルスをさまざまな視点から考えてきました。今月からは、職場における大きなストレスの1つである人間関係、つまりはコミュニケーションに焦点を当てて、働き盛り世代のメンタルヘルスを考えていきます。

※このコラムは「健康保険」2011年4月号に掲載されたものです。

「職場の人間関係」が大きなストレスに

2007年度の労働者健康状況調査(厚生労働省)では、回答者の半数を超える労働者が「職場で強いストレスを感じている」と回答しています。そして、労働者が感じているストレスの内容は、「仕事の量」「仕事の質」「職場内の人間関係」――の問題、この3つが男女ともに上位となっています。

とりわけ職場の人間関係によるストレスは、女性が感じるストレスの1位で全体の50.5%、男性においても2位で30.4%と、労働者にとって最もストレスを感じさせる要因であると考えられます。

人間関係のストレスといっても、そこには多くの意味合いが含まれています。価値観の異なる他者、世代や立場の異なる他者との付き合い――いうなれば人間関係とは、他者とどう付き合っていくのかということであり、すなわち、コミュニケーションの問題であると考えられるわけです。

メンタルヘルス対策の多くは的外れ

ところが、現在行われているメンタルヘルス対策の多くは、労働者が感じているストレスに対応できていないのが現状です。高度化・複雑化しているビジネス環境下で、ストレスが生じるのはやむを得ませんから、職場の実状をより正確に把握したうえでメンタルヘルス対策を講じることが欠かせません。

こうした前提に基づいて、企業が労働者にストレスから身を守るための方法論や資源を提供すること、さらには、労働環境整備は事業主が責任をもって行うという考え方が、メンタルヘルス面における「安全配慮義務」のベースとなっています。それゆえ、研修や相談サービスなどのセルフケアの拡充、管理者へのメンタルヘルスに対する知識啓蒙・職場の環境整備等を目的としたラインケアが重視されているのです。

しかし現実には、企業が問題解決を目指せば目指すほど、企業と労働者の感覚のズレは拡大し、問題解決から遠ざかっているように思えます。メンタルヘルス施策を充実しても状況が改善しないケースにおいては、問題の捉え方と具体的な施策の設定に誤りがあると考えるのが自然でしょう。

厚労省の調査結果に示されているように、労働者のメンタルヘルスを悪化させているのは人間関係、つまりはコミュニケーションによるストレスの影響が大きいと考えられます。

職場内の人間関係によるストレスが過重な職場環境においては、出勤自体が強いストレスを伴います。このような状況下で、ストレスの発生源であるコミュニケーション環境を改善せず、相談機能の充実といったメンタルヘルス対策を拡大しても、効果があがらないのはある意味当然だといえます。このように、仕事以外の事象がストレスとなり、その対応に労力を割くことが求められる職場環境においては、仕事自体に集中することが難しいものです。そうした環境下で、たとえば仕事の量や質というストレスの原因にメスを入れたとしても、その効果は限定的でしょう。

企業や組織が考えなければならないことは、まず第一に労働者の大きなストレスになっている職場内のコミュニケーションを円滑にするための環境整備です。このコミュニケーション環境の整備が前提にあり、既存のメンタルヘルス対策、そして労働者の意欲を引き出す人事制度等の成長施策の効果がはじめて現れると考えられるのです。

これからのメンタルヘルス対策には、不調者への対応に主眼をおいた対症療法的な対策に加え、その原因である企業や組織のコミュニケーション環境の問題点を特定し、その解決を図っていく ことが求められています。

心の健康対策を実施している事業所の取り組み内容(上位5つの抜粋)

職場の基本構造モデル(イメージ)ーーコミュニケーション環境は職場の土台

職場内のコミュニケーションにみんなが悩んでいる

コミュニケーションというテーマは数多くの雑誌や書籍で頻繁に取り上げられ、目にしない日がないほどです。セミナーや研修でも、コミュニケーションをテーマにしたものは大人気です。程度の差はあれ、多くの人がコミュニケーションの悩みを抱えているからこそ、関心の高いテーマであるのでしょう。

一般的に、コミュニケーションをテーマにした情報提供の多くは、コミュニケーションスキルの紹介、すなわち「How To」的な内容が多くを占めています。

たとえば、成功者が成功までの道筋を記した本を読んで、成功できる人が少ないように、残念ながらコミュニケーションも、「How To」を知れば(スキルを身につければ)うまくいく種類のものではなさそうです。だから、多くの人が同じようなセミナーに通い続けているのでしょう。それでは、どうしたらコミュニケーションの悩みを解決できるのでしょうか?

本年度の連載では、働き盛り世代の多くにとって悩みの種である〝職場内のコミュニケーションとどのようにして向き合っていけばよいのか〟――を中心に、働き盛り世代のメンタルヘルスを考えていきます。

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