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健康コラム

健康課題への取り組み・対策

変化に対応する保健事業

変化に対応する保健事業

左から、PwC健康保険組合 保健師・山田美和さん、常務理事・上原京子さん、事務長・須賀陽子さん

−PwC健康保険組合−

エビデンスを踏まえた健診事業の見直しと健康リテラシーの向上を

PwC Japanグループの12法人が加入するPwC健康保険組合では、2024年から健診事業の見直しに着手し、2026年4月に全面リニューアルした健診メニューによる定期健診・特定健診が始まった。また、同健保組合ではこの間にも、インセンティブ・ディスインセンティブを用いた健診受診率向上策や、やせの女性対策に取り組んでいる。

そこで健診事業の見直しの背景やその考え方、健診メニューの全面リニューアルまでの過程や、保健事業施策の方向性について、PwC健康保険組合常務理事・上原京子さん、事務長・須賀陽子さん、保健師保健事業担当・山田美和さんに伺った。

【PwC健康保険組合】
設立:2009年10月1日
加入事業所数:12法人
被保険者数:約13,500人
被扶養者数:約8,000人(2026年4月現在)

健康経営やデータヘルスをきっかけに見直しに着手

常務理事 上原京子さん
常務理事 上原 京子 さん

上原さん ▶

当健保組合の被保険者の平均年齢は男女ともに35〜36歳と比較的若く、ボリュームゾーンもこの年代ですので、日本の世の中とも少し違う状況にあります。

健保組合が2009年10月に設立してから16年がたちますが、設立当時から福利厚生的なものは健保組合に寄せていく、また、メニューも幅広く豊富にしていこうという考え方があり、それをよしとする文化がありました。

しかし、健康経営やデータヘルスといった考え方や施策が広がり、それらを意識して取り組もうとしたときに、「私たちの保健事業はこのままでよいのだろうか?」と疑問に思うようになりました。また、「『データヘルスが重要だ』といわれるがまま取り入れるのも違うのではないか?」と感じました。

そうしたことを考える中で、やはり健保組合の保健事業のベースは健診事業であると思い、見直しに着手しました。

須賀さん ▶

それまでもさまざまな保健事業に取り組んできましたが、当時はデータ分析ができる、それらを踏まえて企画・立案できる医療専門職がおらず、保健事業を見直すに当たってはそうした人材が欲しいと考え、採用したのが山田さんです。

上原さん ▶

入職後早々に、保健事業をこうした視点で見直したいので、まずは健診項目を全部、一度洗い出ししてほしいとお願いしました。

山田さん ▶

2024年に入職し、健診項目の見直しを進めていくことになりましたが、入職当時に一番驚いたことは、すでにインセンティブ・ディスインセンティブを用いた健診受診率向上策や、PHRを利用した保健指導に先進的に取り組んでいたことでした。

ナッジ理論を活用し健診の早期受診を促進

山田さん ▶

加入者には1年に1回、好きな時期に、自身で健診機関を予約して受診してもらっていますが、健診結果を踏まえた事後対応や、予約が取れずに未受診になってしまう可能性を考えると、年度末の受診は避けてほしいというのが率直な気持ちだと思います。

実際、年度末に受診しようと思っていたら予約がいっぱいで危うく未受診になるところだったなどのケースもあります。また、被扶養者の健診受診率の低さも課題としてあり、この状況を改善するため、ナッジ理論を活用した改善策を実施していました。

上原さん ▶

当健保組合では、ポイント制度を導入しており、被保険者本人に毎年4月と10 月に、それぞれ1万8000ポイントを付与し、被扶養者も含めて、健診項目にオプション検査を追加する際やMRI・CTによる専門ドックの受診の費用、医療品や健康食品等の購入などに利用することができます。

事務長 須賀陽子さん
事務長 須賀 陽子 さん

須賀さん ▶

このポイントを活用して、健診受診や早期受診の行動変容を促すため、被保険者と20歳以上の被扶養者を対象に、12月末までに受診した場合には5000ポイントを付与する一方、被保険者と40歳以上の被扶養者が未受診となった場合、対象者1人につき6000ポイントを減額する仕組みを2023年度に導入しました。

この結果、健診受診者数の月次推移を過去のデータと見比べると、それまでは年明け1月から3月にかけてできていた健診受診者数の大きな山が、2023年度は見事に動いて12月がピークになり、また4月から12月までの各月の健診受診者数もおおむね過去の数字を上回っており、ねらいどおりの行動変容が確認できました。

健診受診率についても、対象者全体で2022年度は86.3%でしたが、2023年度は91.5%に上昇しました。特にポイント増減に敏感と思われる40歳以上の被扶養者は66.7%から78.1%と、導入1年で11.4ポイントも上昇しました。

山田さん ▶

2025年度に実施した施策、やせの女性対策については、インナービューティーという表現で、管理栄養士による面談やアプリを使って健康をサポートする保健事業を開始しました。「やせの女性の健康指導」と宣伝しても響かないのでネーミングを工夫し、プログラムの案内でも「やせ」という言葉は使わずに、「貧血症状に悩んでいる」「BMI18.5未満」「めまいやだるさを感じている」といった事例を挙げ、こうした方々におすすめですよ、という紹介をしています。

須賀さん ▶

このプログラムを始める前には、全グループの関係者が参加する衛生委員会で、「非肥満者にも健康リスクのある人はいる」ということを健診レベル判定分布の円グラフを用いて分かりやすく説明し、「メタボじゃないから大丈夫というのは間違い」ということを伝え、非肥満者であっても保健指導が必要な人がおり、健保組合としては今後、そうした人たちに介入していきたいということをアナウンスしました。

上原さん ▶

監査やコンサルティングなどの専門性の高い業務に携わっている被保険者が多く在籍しており、エビデンスやアカウンタビリティといった点に敏感なので、丁寧に時間をかけて周知広報し、1つひとつ段階を踏んで施策を進めています。

健診メニュー見直しを自身の健康を考える機会に

保健師 保健事業担当 山田美和さん
保健師 保健事業担当
山田 美和 さん

山田さん ▶

健診項目の見直しに当たっては、保険者機能を推進する会の健診事業のあり方研究会に参加させていただき、その中でがん検診の精度管理や職域がん検診について講演を聞いたときに、「検査にはメリットだけでなくデメリットも存在する」「ケースによってはデメリットのほうが大きい可能性がある」という説明にとても腹落ちしました。やはり健診を見直す際にはそうしたエビデンスに基づいている必要があると感じましたし、当健保組合の加入者にもマッチすると思いました。

また、これまでの経験から、健診は受けたらそれでおしまい、健診結果を踏まえた事後の行動変容や、必要な再検査・受診につながっていない部分を改善したい、そのために効率的・効果的な健診事業にしていきたいと考えました。

須賀さん ▶

見直し前の健診では、29歳までを対象とした若年健診、30歳から39歳までを対象とした生活習慣病健診、40歳以上は人間ドックを受けてもらい、その健診項目も、例えば、30歳以降では、法定健診の必須項目ではない眼底検査やクレアチニン検査なども対象者全員に実施していました。

山田さん ▶

こうした当健保組合が実施している健診項目1つひとつについて、専門家の助言も得ながら、エビデンス、また、効率性・効果性を確認し、何度も話し合いを重ね、強化するものと縮小するものを選定し、新たな健診メニューを組み立てました。

2026年4月からは、34歳までを対象とした若年健診を実施し、35歳以上には、奇数年齢の際は人間ドックを、偶数年齢の際はスタンダード健診と、それぞれ隔年で受診してもらいます。

見直しによって、これまで毎年実施していた法定外の健診項目の一部が隔年の実施になるものもありますが、前述のポイントを利用して追加することもできます。人間ドックも受けられる年齢層を拡大し、35歳からとした一方、実施頻度は隔年になりますが、これも同様にポイントを活用して検査項目を追加することができます。

また、がん検診についても、厚生労働省「職域におけるがん検診に関するマニュアル」を参考に刷新しました。福利厚生的な意味合いからメリット・デメリットにかかわらず全員共通としていたメニューをスリム化しつつ、各自が個々のリスクに応じてオプション検査を追加してもらうことを始めていきます。

加入者には、今回のこうした変更をよい機会と捉えて、改めて自身の健康について考えてほしい、健康リテラシーを身に付けてほしいというねらいもあります。

上原さん ▶

健診の見直しの内容自体は、実は2024年度中に固まっていましたが、2025年度は周知広報期間と位置づけ、2026年度から健診のリニューアルを全面実施することにしました。

この間、社内のさまざまな場で健診のリニューアルを説明したり、機関誌で見直しの目的と内容、オプション検査を選ぶ際の参考となるよう考え方をまとめたフローチャートやFAQを掲載したり、がん検診に関しては専門家によるWebセミナーを開催するといった取り組みを続けてきました。

健康支援普及者を新設し社内で情報発信

山田さん ▶

2026年度からは健康アンバサダーというプロジェクトを開始、健康支援普及者の役割を新設します。2025年度にモデル事業を実施しました。

須賀さん ▶

これまでも保健事業や広報を実施していますが、その参加者やデータをみると、健康に興味のある層、すでに何かしら取り組んでいる層のサポートになっており、本当に参加してほしいターゲットへの介入につながっていないという課題があります。

山田さん ▶

このためモデル事業では、12月末までの健診予約済み、健保組合が実施している「ぴぃさんぽ」というウォーキングイベントへの登録とその歩数実績、マイナ保険証の利用登録済みの3つを応募要件として被保険者からモニターを募集し、応募者のデータ分析を行うとともに、抽選でアクティビティや健康に気を遣った食事つきの宿泊体験ができる旅行をプレゼントする事業を行いました。

モニター応募者のデータ分析や応募状況をみると、この事業により一定の行動変容が見込めると体感を得ることができました。

須賀さん ▶

健康アンバサダープロジェクトは、特設サイトをつくってゲーム感覚で楽しみながら取り組めるように工夫しています。2026年度は健診結果がみえるサイトへのアクセスの実績や健康に関する推奨動画の視聴といった要件を加え、インセンティブとなる副賞も設定するとともに、当選者には健康アンバサダー=健康普及支援者として1年間社内で活動してもらい、体験記や健康にまつわる情報を社内SNSなどで発信してもらいます。

これにより、行動変容へのきっかけ待ち層や健康無関心層を動かしていき、長期的には自立実践層を広げていきたいと考えています。

上原さん ▶

将来的には健康に関わる各種データが自動で集まるダッシュボードができて、リアルタイムで自身の健康状態や課題が見える化できるといいなと考えています。

また、イベントなどを通じて、施策を進めていく上では従業員である被保険者本人だけでなく、その家族の重要性をひしひしと感じます。その意味でも、当健保組合では、広報誌などは自宅に郵送し、開封してもらえるように工夫しています。また、今回の見直しとは話が逸れますが、トランスジェンダーの従業員も安心して健診を受診できる体制を整えています。

健保組合としては、「この会社にいてよかった、引き続きいたい」と思ってもらえるよう、企業と連携して健康施策に取り組んでいきたいと思います。

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