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働き盛りのメンタルヘルス vol.19

「使えない社員」は本当に使えないのか?

職場のお荷物・厄介者とみなされ、「使えない社員」というレッテルを貼られている人が、あなたの周囲にいませんか? 今月は、こうした人たちは「本当に使えないのか」をテーマにコミュニケーションを考えていきます。

※このコラムは「健康保険」2011年10月号に掲載されたものです。

どこにでもいる「使えない社員」

職場で何気なく使われている「使えない社員」という言い方は、人によって受け取り方がさまざまです。仕事のミスが多かったり、作業が遅いことを「使えない」ことの条件と考える人もいれば、気がきかなかったり、要領が悪い人に対して、「使えない」と表現する方もいるでしょう。または、仕事上の問題ではなく、自信過剰であったり、プライドが高かったり、協調性を欠いているなど、本人のパーソナリティによるものが含まれるかもしれません。ではそもそも、私たちが感じる「使えなさ」とは何を意味しているのでしょうか。ここで一度、「使えない」とはどういうことであるか、を整理してみましょう。

「仕事のミスが多い」ことを「使えない」とした場合、それはどの程度ミスが多いことになるのでしょうか。たとえば、ある作業を10回のうち9回失敗するとすれば、明らかに仕事ができないといえます。この状況は「使えない」というよりも、その職場で仕事を続けることがもはや困難な段階にあると考えられますから、「使えない」という言葉で語る範囲には含まれないはずです。

ならば、「あいつはいつも失敗ばかりしている」と思われている社員は、常に失敗しているという事実に基づいてそうみられているわけではないことがわかります。むしろ、なんとなくそういうイメージがある、その程度の話に過ぎないケースが多いのです。しかし、社内・部署内で「使えない」と思われてしまう人が、職場内で一致することは多くみられます。明確な指標や基準から考えて「使えない」というわけではないのに、価値観の異なる人たちの間で、結果がおおむね一致するのはなぜでしょうか。

「使えない社員」化していくメカニズム

現在「使えない社員」とされる人たちにも、そういう評価がされない時期があったはずです。入社してすぐ、または配属されたその日から、あいつは「使えない」という評価になることはまずないでしょう。だとすれば、職場で過ごす時間が増えていくにつれて、その職場で「普通」として共有されている空気感、つまり「ふるまいや感覚」からのズレが目立ってしまう人が、やがて周囲から「使えない社員」であると認識されていくのだと考えられます。

そして、その感覚のズレを拡大させるのが、本連載の8月号で触れた、相手に悪影響を与えるマイナスのフィードバックです。普通の人がたまたまミスをしてしまった際に、言葉や態度で「使えない人だな」というマイナスのフィードバックが向けられる機会が増えると、どうなるでしょうか。人によっては自信を失い、いつしか本当に「使えない人」になっていきかねません。

人の悪い面は良い面よりも目につきやすいものです。そして、組織の中で共有されやすいのも、人の良い面についての話題ではなく、悪い話やうわさ話であることが多くみられます。「人の不幸は蜜の味」という言葉が表わしているように、他人の成功話などの幸せな物語よりも、「自分たちよりも劣っている」「かわいそうに…」といった話題のほうを面白いと思うのは、人間の性なのでしょう。

もちろん、そういった話題に花が咲いてしまう機会が時にはあるとは思います。しかし、日々このような「相手の欠点探し」的な話題が中心の職場環境が健全であるとは考えられません。メンタルヘルスが悪化している組織や企業では、とりわけ「他人の悪い所探し」の話題が多くみられます。つまり、日々「使えない人」「自分たちより劣っている人」を探し続けている状態は、いつ自分が「使えない社員」だと周囲から思われるかわからない環境に身を置いていることになります。

大事なのは「欠点探し」だらけの職場環境を変える努力

人の評価に関しては、「ハロー効果」(halo effect)という理論があります。ハロー効果は、人が他者を評価する時に、わかりやすい特徴を過大評価しすぎてしまい、他の特徴の評価が過小評価されるというものです。たとえば、有名企業に勤めている人や有名大学を卒業した人は、そうでない人よりもあらゆる面で優れていると考えてしまうような例を指します。有名企業に勤務していることや有名大学を卒業した事実と、たとえば、性格の良し悪しとは無関係であるにもかかわらず、対象者を好意的に評価してしまう経験がある方は多いと思います。そして、このハロー効果は人の失敗についても同様に見出されるのです。

「あいつは使えないな」と考えてしまったときに、一度振り返ってみてください。「欠点探し」だらけの職場なら、自分もそう見られてしまっているということを。そして、自分は常にミスや失敗を犯すことがないのかどうかを――。

われわれは人の弱点や欠点ではなく、良い面を見出していけるような努力をしていきたいものです。そうした1人ひとりの地道な努力が、よりよい職場のコミュニケーション環境を作り上げていくのです。

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