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働き盛りのメンタルヘルス vol.36

これからのメンタルヘルスのために

会社や家庭等あらゆる場面において、主要な役割を担う「働き盛り」世代。本連載は、ストレスの大きな環境におかれている、30~40代を中心とする「働き盛り」世代はもちろん、「働き盛り」世代を部下に持つ方々に対して、メンタルヘルスを考えるヒントの提供を目指し、スタートしました。最終回として、これからの「働き盛りのメンタルヘルス」について考えてみたいと思います。

※このコラムは「健康保険」2013年3月号に掲載されたものです。

メンタルヘルスについて私たちが考えてきたこと

これまで、次の3つのテーマから「働き盛り」世代のメンタルヘルスについて考えてきました。

■メンタルヘルスとは何か?

錯綜するメンタルヘルスに関する知識整理を行い、「働き盛り」世代のメンタルヘルスを様々な視点から考えました。

■メンタルヘルスをコミュニケーションから考える

職場における主要なストレスである人間関係。その基盤となる職場内コミュニケーションに焦点を当てて、「働き盛り」世代のメンタルヘルスを考えました。

■精神疾患によって、会社の中の「困った人」化した人たち

メンタルヘルスとコミュニケーションへの理解を深めてもなお、職場での対応や扱いに悩む、こころの病気である精神疾患によって、「困った人」化した人たちへの理解を深めました。

これらの視点、言及を通じて私が申し上げたいことは次の3つです。

●メンタルヘルスとはこころを元気にする行動や心がけのことである。

●心身のサインに気づき、自分にゆとりを持つことが、部下を持つ立場である「働き盛り」世代にとっては何よりも重要。

●メンタルヘルス問題は、個人の問題ではなく組織の問題。人がイキイキと働ける労働環境整備こそが、組織と働く人にとってwin―winの結果をもたらすことのできる唯一の処方箋である。

今後もさまざまな変化が生じてくるものと思われますが、メンタルヘルスに対する基本的な考え方は変わりません。

働く人のメンタルヘルスの現在

連載開始から3年を迎え、「働き盛り世代」を取り巻くメンタルヘルス事情にも大きな変化が生じています。

3年間のメンタルヘルスに関する主な出来事

◆4大疾病に精神疾患が加わり5大疾病に
精神疾患の患者数が、増加していることを踏まえ、国の医療方針としてとくに重点を置いているがん・脳卒中・心臓病・糖尿病の4大疾病に精神疾患が追加される方針が示されました。

◆新型うつ病が社会問題化
従来のうつ病(メランコリー型うつ)とは異なる性質が見られる、いわゆる新型うつ病(ディスチミア型うつ)の罹患者が急増しています。

◆ストレスチェック義務付けの方向が打ち出される
労働安全衛生法の改正により、従業員に対するストレスチェックの義務付けや、希望する従業員に対する面談の義務付けが検討されています。

企業や組織は、働く人のメンタルヘルスに真剣に取り組む必要性が、以前に増して高まっています。その理由は複数あると考えられますが、間違いなく言える事は「4つのケア」を中心としたメンタルヘルス対策の効果が、十分ではないということです。

もし、対策にしっかり取り組んでいるのに、メンタルヘルス不調者が増え続けている、または減少が見られないということであれば、組織におけるメンタルヘルス対策には何らかの問題があると言えます。

そのような時は、そもそも何のためにメンタルヘルス対策をしているのか、根本に立ち返ってメンタルヘルス対策の目的を考え直す時期が来たと捉えることが、効果的なメンタルヘルス対策を考えていくうえで重要です。

「働き盛りのメンタルヘルス」の向かう先

メンタルヘルス対策の拡充がますます求められている一方で、社員を退職に追い込むための「追い出し部屋」や「退職面接」についての話題がメディアを騒がせています。このような、多くの社員に不安を感じさせ、メンタルヘルスを高めるどころか労働意欲までも奪いかねないやり方は、百害あって一利なしであると断言できます。

こうした事例は、ごく一部の企業の問題であると考えたいものです。しかし、今後も社員に対して成果や結果をより求める傾向は避けられず、「働き盛り」世代の労働環境は厳しさを増していくことは疑いようがありません。

これから先、働く人と組織におけるメンタルヘルスの課題はより複雑化し、解決が難しいものとなるでしょう。「復職支援プログラムを導入している」「相談窓口を完備している」「産業医がいる」・・・だから対策は万全だ。そんな形式だけを整えた、企業や組織の「ひずみ」を都合よく解決するためのツールとしてのメンタルヘルス対策の時代は、終わりを告げようとしています。

「メンタルヘルス問題に、真剣に取り組まなければならない状況が続いていくことは、組織や働く人にとって望ましいものではない」それが、多くの人にとっての偽らざる本音でしょう。しかし、そのような状況は、組織と働く人の関係性に向かい合い、そしてメンタルヘルス不調を発生させない、よりよい労働環境とは何かを見つめ直す、またとない機会であると捉える事もできるのです。

そんな時こそ、メンタルヘルスを「こころの健康」としてではなく、「心を元気にするための行動や心がけ」として捉える考え方を大切にする姿勢が、求められることになるのです。

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