HOME > 健康コラム > 働き盛りのメンタルヘルスベストセレクション > 働き盛りのメンタルヘルス vol.6

働き盛りのメンタルヘルス vol.6

「働き盛り世代」のメンタルヘルスを具体的に考えていくために

今回は、次回からの事例編に向けたイントロダクションとして、職場におけるメンタルヘルスの問題を改めて整理します。

そもそも他者とは分かり合えない

ストレス(刺激)の質や量と個人の感じ方によって、ストレス反応にはその内容や程度に違いが出てきます。職場のメンタルヘルスを考える場合、刺激、すなわち仕事内容や労働環境など職場環境の要因と、個人のストレス耐性とのかけ算によってストレス反応が異なってくると考えられます。

当然のことですが、職場・個人の要因はどちらも時代や社会の変化と極めて密接に結びついています。たとえば、今日においては転職が一般的になり、以前に比して一生同じ会社に勤め続けるという価値観は共有されにくくなりました。大変なことがあっても同じ会社でがんばっていくことが常識だと考えられていた時代と比べて、現在では「もしかしたら自分に合っている環境が別にあるのかもしれない」と感じる人が増えたことは、むしろ自然であるといえるでしょう。このように、今は比較的価値観が共有できる世代においても、共通の認識が持ちにくい時代であるともいえます。では、従来とまったく異なる価値観にさらされて育ってきた世代が入社してきた時、「働き盛り世代」はどのように彼らを受け入れたらよいのでしょうか?

若手社員から仕事に対する熱意が感じられない、彼らが何を考えているのか分からない、といった話をよく耳にします。まず、彼らが怠けものであるとか、または新型うつ病ではないのか、などと考える前に、単に一生懸命に取り組む必要性を感じていないだけなのだと考えてみてはいかがでしょうか。

そんなことがなぜわからないんだ、と感じる「働き盛り世代」の方々は大勢いらっしゃると思います。しかし、ご自身の時代でも先輩に怒られたり、教えてもらったりしながら、さまざまな学びを得てきたのではないでしょうか。そうした学びの具体的な形や方法が、今の若者は「働き盛り世代」とちょっと違う、ただそれだけのことなのです。

職場におけるストレス反応発生のイメージ

職場に限らず、人間関係における問題の多くは、個人が抱く常識や価値観を他者と共有できない所から始まるように思います。常識や価値観というものは、同じ時代を過ごした人たちの間であっても、共有できるとは限りません。他人に対する怒りやいらだちは、このような自分の思い・考えを「わかってもらえない」ことから生じます。しかし、生活環境や人生経験、それに性格も異なる他人と「理解しあえる」「分かりあえる」ということが、そもそもありえるのでしょうか? もし、他人とは常識や価値観が違うのだというところを踏まえて、相手を理解する努力を始めたとしたら、「最近の新入社員は何もできない」と感じるでしょうか? また同僚に「あいつは何をやらせてもだめだ」と感じるでしょうか? 他者と分かり合えることが当然ではないからこそ、コミュニケーションを重ね、お互いを理解しようとする行為が重要なのではないか――私はそう信じています。

本当にメンタルヘルスの問題なのかを考えてみる

社会が高度・複雑化すると、人も環境も従来とは大きく変化します。とりわけ経済成長にかげりが見え、先々これまでのような継続的な成長を社会が遂げるとは考えにくい時代に入ろうとしています。不確実な時代などともいわれますが、要するに社会や国家がどのように変化していくのかが、従来の物事の捉え方では予想が難しい時代になったといえます。

このような社会的背景があるなかで、これまでの考え方、価値観では理解できない事柄が、さまざまな領域で発生しています。本連載のテーマであるメンタルヘルスの問題もその1つであるといえるでしょう。問題なのは、これまでの考え方では理解できない事象の原因をメンタルヘルスの問題にすり替えてしまってはいないか、という点にあります。

職場のメンタルヘルスで考えてみると、本来、上司が部下と向き合い、コミュニケーションをしっかりとれば解決する種類の問題であっても、向かい合おうとしなかったり、コミュニケーション量が圧倒的に不足しているなどの原因で、部下のスキルが上がらなかったり、職場に行きたくなくなる場合があります。つまり、本来はメンタルヘルスが直接の原因ではないものまでも、まるでメンタルヘルスにその原因があるかのように置き換えてしまっているケースが多く見られます。

今、皆さんの職場で起きているメンタルヘルスの問題は、本当にメンタルヘルスの悪化から起きている問題なのでしょうか? こういった点を踏まえて、次回から具体的な事例を参考にしながら「働き盛りのメンタルヘルス」を考えていきます。

※このコラムは「健康保険」2010年9月号に掲載されたものです。

ベストセレクション