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働き盛りのメンタルヘルス vol.1

このコーナーでは、臨床心理士の時盛昌幸先生に「働き盛り」世代との面接で実際に扱ってきた事例などを取り上げながら、実際に役立つメンタルヘルスの知識を解説していただきます。

心の病で悩む人が最も多い30代を中心に、「働き盛り」世代を部下にもつ方々の参考になるような内容を、毎月お届けしていきます。

メンタルヘルスの問題は、もはや他人事ではない

2009年に厚生労働省から発表された「患者調査」によると、うつ病にかかっている人が2008年時点で104万人に達し、96 年時の調査結果の2・4倍になったことが明らかとなりました。うつ病はもはや国民病と言ってよい程、身近な病となりつつあります。もっとも、うつ病をはじめとした心の病に対する偏見が減少したこと、メディア等でうつ病の知識啓蒙がなされてきた背景もあります。それゆえ、うつ病患者の中には通院が不要でも通院・服薬しているといった軽症事例も多く含まれ、実際はこれほど多くはないと考えられています。しかし、うつ病をはじめ、メンタルヘルス不調と呼ばれるストレスの増加により生じる心的不調は、増加の一途をたどっていることは間違いありません。

財団法人 社会経済生産性本部の上場企業を対象とした調査、「『メンタルヘルスの取り組み』に関する企業アンケート」では、最近3年間におけるメンタルヘルス不調者の増減傾向について報告がなされています。この調査によると、半数以上の企業が心の病にかかる人、すなわちメンタルヘルス不調者が増加していると回答しています。さらに、心の病はどの年齢層で最も多いかについての質問では、30代が最も多く、その次に40代との回答があり、それらを合わせると実に8割を超えます。本連載で対象としている「働き盛り」世代にとって、メンタルヘルス対策は他人事ではなく自分の問題として考えていく必要があるといえます。

心の病はどの年齢層で最も多いか

「働き盛り」が置かれている状況

このように最もメンタルヘルス不調者の多い「働き盛り」のビジネスマン。連載を始めるにあたり、まずは「働き盛り」のビジネスマンは人生においていかなる時期にあり、またどのような状況に置かれているのかを考えてみましょう。今回は、35歳の一般的なビジネスマンをイメージしてみます。

事例:ある働き盛りのビジネスマン

大学卒業後、現在の会社に入社。仕事も一通り経験し、自信も付いてきた。

職位は課長代理。上司から後輩の育成も委ねられ、自分の能力を試されていると感じている。30歳で結婚。2年前に長男が誕生し、それを期に広めのマンションを購入した。文字通り一家の大黒柱となった自分を感じている。

このような「働き盛り」世代は、仕事においても家庭においても、責任が大きい世代であるといえます。たとえば20代では、結婚していても仕事上の責任は30代、40代ほど大きくないでしょう。50代では、子どもも成人して手がかからないことも多く、家族に対する責任が減少していると考えられます。以上を踏まえると、「働き盛り」のビジネスマンの課題は大きく次の3つに分類されます。

①ビジネスマンとしての課題(キャリアの問題)
仕事の全体像が把握できるようになり、将来のキャリアが見えてくる時期です。たとえば転職を考えた場合、自らの可能性を追い求め、決断するには35歳はひとつの目安となるでしょう。また会社に残る場合、どのようにキャリアを積み重ねていけばよいのかを考える時期でもあります。

②家庭人としての課題(住宅、子どもの教育、老後、親)
プライベートの面でも、さまざまな不安要素が高まる時期です。金銭面では子どもの教育費の問題、住宅ローン、老後の蓄えなど、そのほかでは親の病気や介護といった経験をすることが多くなってきます。

③自分自身の問題(自己実現、自身の健康維持)
「この先、自分はこのままでよいのか?」という人生の悩みを抱えるのも、おそらくこの時期でしょう。趣味や新たな人脈作りなど、「働き盛り」は自らのさまざまな可能性を試すことができる、気力と体力が備わっている時期です。

いうなれば「働き盛り」は、公私ともに人生における充実期であると同時に、悩みの絶えない時期であるといえます。孔子は「四十にして惑わず」との言葉を残していますが、いろいろなストレスに苛まれている現代人にとっては「四十にして惑いだす」と考えてもよさそうです。

人生における課題が津波のように押し寄せてくる働き盛りのビジネスマン。公私ともに充実を図るためには、自身のメンタルヘルスを高めていく必要性があります。若い世代のメンタルヘルス不全が増えてきている昨今、自分自身のためだけではなく、上司・先輩として心のケアに関する知識を得ておくことも、働き盛りのビジネスマンには必要です。かくいう私も「働き盛り」世代の1人です。さまざまな悩みやストレスを抱える、同じ「働き盛り」世代の一員として、等身大の連載にしていきたいと思いますので、ご愛読をお願いいたします。

※このコラムは「健康保険」2010年4月号に掲載されたものです。

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