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働き盛りのメンタルヘルス vol.34

精精神疾患の視点から「困った人たち」を考える 「自己中タイプ」編―②

先月に引き続き、精神疾患を考える4つの分類の「自己中タイプ」について、今月は事例を通じて考えていきます。

※このコラムは「健康保険」2013年1月号に掲載されたものです。

事 例:「自己中タイプ」の部下との付き合い方に悩むAさん

(40代/販売)

Aさんの部下であるBさん(20代女性)は、商品の販売を担当しています。これまで、お客様とケンカになってしまうことや、ミスをした同僚に対してお客様がそばにいる状況であっても、場をわきまえず激しく叱責したりするような出来事が何度かありました。

みかねたAさんは、Bさんの相談に乗ることで問題が好転すると考えました。Bさんが悩んでいることや、困っていることに耳を傾ける時間を取り、いつでも相談にのるとBさんに伝えました。それから、Bさんからの相談回数が増えていきました。内容も個人的な相談が増え、夜遅い時間や休日にも携帯に電話してくる状況に陥りました。

困ったAさんは、「仕事と関係のない話の相談は控えてほしい」とBさんに伝えました。するとBさんは、「いつでも相談して構わないと自分から言ったのに・・・。Aさんからみて仕事に関係ないように見えるだけで、私には仕事に直結する重要な問題です。そんなこともわからないから、あなたは部署をまとめられないんだわ。私を侮辱して・・・パワハラで訴えてやる」と激昂。挙句の果てには泣きだし、収集がつかない状況になりました。Aさんは、これまで通り相談してもらって構わないとBさんに伝え、その場を収めました。

その後、これまで以上にBさんの相談が増え、その対応でAさんは疲れ果て、仕事にも支障が出始めています。

事例のポイント

「自己中タイプ」は、周囲が異常に気になる面と、周囲からは理不尽に見える言動を取る面とを持ち合わせているのが特徴です。弱く繊細で、傷つきやすい自分を守るための行動が、結果的に自分を追い詰めてしまう。そして、自分を取り巻く状況の悪化を、繊細さゆえに感じ取れるため、より傷ついてしまうのです。

事例において、AさんはBさんが起こした問題に対して、まずは話を聞いてみようとしました。この時点では、BさんにとってAさんは「自分の理解者」であって、自分を傷つけるような人物ではありません。

しかし相談がエスカレートし、生活に支障が出始めた段階で、Bさんから距離を取ろうとAさんは考えました。このタイミングで、Aさんに「裏切られた」「傷つけられた」とBさんは感じたようです。そのためBさんは、自分を守るために必要なこと、つまり「自分の理解者」であるAさんを失わないために、攻撃的な言動によって目的を達成しようと考えているように見えます。

その結果、AさんはBさんのペースに乗せられてしまい、Aさんはより厳しい状況に、Bさんにとっては望み通りの状況になりました。今後も同じようなパターンが続く可能性がありますが、遅かれ早かれAさんがBさんの相談に乗り続ける事は難しくなるでしょう。最終的にBさんは、自らの行動によって「自分の理解者」であるAさんを失い、その結果をもたらした自分自身を責めることになります。

精神疾患の観点から「困った人たち」を考える4分類

「自己中タイプ」が罹患しやすい疾病の例

今回の事例で取りあげた、Aさんは「パーソナリティー障害」とされる疾病の可能性があります。「パーソナリティー障害」は精神疾患であって、人格そのものが病気であるとか、人格に問題があることを示唆するものではありません。病気によって、周囲が見えすぎるがゆえに、自分の身を守ろうと過剰なまでの自己防衛を行う。その結果、周囲から孤立し、自分の立場や状況が悪化したことにも気がつき、さらに傷つきを深めていく。このような「わかっているのに、やめられない」それが繰り返されていくつらさを、パーソナリティー障害の人たちは感じているのです。

とはいえ、「パーソナリティー障害」に罹患した人たちから、私たちに寄せられる強烈な攻撃性や、理不尽な言動を理解するのは、難しいのが本音でしょう。彼・彼女らと接する際は、「できること」「できないこと」をしっかりと決めた上で、一定の対応を続けることが大切です。

今回の事例のように、「この人は理解してくれる」という相手の期待値を高めてしまい、最終的に「付き合いきれない」となったケースは、疾病の有無にかかわらず、相手に失望感を感じさせるものです。「相手のためになる」との思いから生じる行動が、周囲との「ほどよい関係」を見出すことが難しい「パーソナリティー障害」に罹患した人達を、傷つけてしまうという意識を持つことが、お互いのよりよい関係のために必要なのです。


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