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ほっとひと息、こころにビタミン vol.1

精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。

【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕

新しい環境で不安を生かす工夫を

新年度や新学期を迎えて、気持ちを新たに仕事や勉強に取り組もうと考えている人も多いと思います。このように年度の区切りは、それまでの生活からひと息ついて、新しい生活に向かっていく気持ちの切り替えができる良い機会になります。

その一方で、就職や異動、進学と環境の変化が大きいときには不安な気持ちにもなります。とくに慣れない環境に置かれると、私たちは不安を感じやすくなります。

できれば不安など感じたくないと考える人もいるかもしれませんが、不安というのは自分を守るために必要な感情です。極端なことをいうと、不安は自己保存本能から生まれると考えることができます。

不安を感じないとどうなるでしょうか。不安の中枢と呼ばれる扁桃体を働かなくさせた猿の実験があります。その猿の行動を観察すると、危険なことを平気でするようになるのです。ヘビに不用意に近づいたり、他のグループの猿のテリトリーの中で行動したり、危険を危険と感じていないような行動をするようになりました。

同じような危険な行動は、脳炎などのために扁桃体が働かなくなった人間でも見られるといわれています。こうした実験や観察から、不安は私たちを危険から守る「こころのアラーム(警報器)」の働きをしていることが分かります。新しい環境に入ったときに不安になるのはそのためです。

心配な気持ちが強くなったときには少し立ち止まって、何か問題はないか冷静に振り返ってみると、不安をうまく生かせるようになります。

大野 裕(ゆたか)

ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。

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