企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

野村證券株式会社

健康経営の推進で社会全体のWell-beingを実現

野村證券株式会社は、わが国を代表する証券会社として、個人投資家・企業に資産運用・資金調達サービスを提供している。また、同社の持ち株会社である野村ホールディングスは、「健康経営優良法人2022(ホワイト500)」に選定されており(4年連続5回目)、社員、顧客、社会全体の「Well-being」を目指し、健康経営の推進に取り組んでいる。その特徴の1つとして、クラウド健康管理システムにより情報・データを共有し、社員・家族の健康維持・増進に向けた取り組みに活用している。同社の取り組みについて、野村證券株式会社人事企画部ヘルスサポートグループエグゼクティブ・ディレクター兼グループ長の水野晶子さん、野村證券健康保険組合常務理事の播磨俊郎さん、株式会社WellGo代表取締役の原田大資さんに話を聞いた。

【野村證券株式会社】
設 立:2001年5月
本 社:東京都中央区日本橋1-13-1
代表取締役社長:奥田健太郎
従業員数:14,148人(2022年3月末現在)
2016年7月に「NOMURA健康経営宣言」

──各種データに基づき健康行動を促す


野村證券株式会社 人事企画部
ヘルスサポートグループ
エグゼクティブ・ディレクター兼グループ長
 水野 晶子 さん

水野さん ▶

 当社の創業者、野村徳七は自叙伝『蔦葛』の中で、「健康は吾人の最大の資本なり」と述べており、創業当時から、社員の健康が重要であるという精神は、根底に流れていたといえます。その精神を引き継ぎ、2016年に野村グループとしての「NOMURA健康経営宣言」を採択し、社員の健康保持・増進を経営的な視点で捉え、主体的に取り組んでいく方針を打ち出しました。健康経営推進最高責任者(CHO)の下、組織的・戦略的な健康経営の取り組みを進めています。

 2016年には、当社と健保組合、産業医・保健師等医療職による健康経営推進協議会を設置しています。現在はグループ各社も参画し、一体となって取り組んでいます。


野村證券健康保険組合
常務理事 播磨 俊郎 さん

播磨さん ▶

 健保組合では従来から人間ドック費用の補助を行うなど、社員の健康管理を全面的にサポートしてきました。健康経営宣言を行った2016年からは、コラボヘルスの取り組みを本格的に開始しています。組織として健康経営に踏み込んでいくためには、その土台として、今、何が課題なのかを把握し、それをしっかりと可視化する必要がありました。このため2016年からは健保組合で「健康白書」を作成し、グループ内の社員に対し発信しています。

水野さん ▶

 肥満、血糖値、肝機能など健診結果にみられる健康リスク、運動不足、多量飲酒傾向、喫煙率の高さなどの生活習慣といった健康課題に対応が必要であると認識しています。

 年に1回、社員に対する健康意識調査も実施しています。「健康経営という言葉を知っていますか」といったことも含め、健康に関する意識について、さまざまな質問を毎年重ねて聴いていくことで、経年変化をみることができます。講じた施策がどの程度浸透しているかを判断する目安としても分かりやすいですし、健康課題の把握にもつながっています。

 また、社内ベンチャー企業が開発した「WellGo」を導入し、各種データを一元管理し、社員の健康行動を促す取り組みを進めています。


株式会社WellGo
代表取締役 原田 大資さん

原田さん ▶

 株式会社WellGoは、野村ホールディングスと野村総合研究所のビジネスコンテストで入賞し、社内ベンチャーとして立ち上げたものです。

 会社人事部門と、健保組合の事務作業の効率化そしてDX化(デジタルを中心に業務を再構築すること)に取り組んでいます。

 当社で開発・提供するクラウド健康管理システム「WellGo」は、コラボヘルスのプラットフォームとなるものです。健診結果の経年管理、医療費分析、特定保健指導申込管理、精密検査などの各種案内、アプリによるポピュレーションアプローチなど健保組合の業務の効率化を図ることができます。また、社員・家族の健康増進に向けた取り組みについて、「WellGo」のスマホアプリは、運動・食事・睡眠等の状況の記録(ライフログ)、健診結果の確認、健康総合ランキングの表示、会社の健康イベントへの参加等、さまざまな機能を有しています。

 情報の匿名化でセキュリティー対策を徹底しており、グループ内での導入だけでなく、多くの大手企業でも採用していただいています。

播磨さん ▶

 「WellGo」では、会社の人事・組織情報も共有されているため、組織分析等も可能ですし、部店対抗の健康イベントにも活用できます。その他健保組合の取り組みに関しては、特定保健指導の予約をはじめとした加入者とのコミュニケーションの手段としても活用しています。

──二次検査受診等へ向けた取り組み

水野さん ▶

 具体的な取り組みの1つとして、オンラインのウオーキングイベントがあります。元々はポピュレーションアプローチの一環として、「NOMURA健康チャレンジ」というかたちで、部署ごとに健康課題を考えて、試行錯誤しながら、それぞれで取り組みを進めてきたのですが、現在は、運動習慣の定着に特化して、「WellGo」を活用して歩数を記録し、部署ごとの平均歩数で競い合う「ノム☆チャレWALK」というイベントを毎年実施しています。

原田さん ▶

 「WellGo」には投稿機能もあり、歩いている時に撮った写真をコメント付きで投稿できます。全国に支店がありますので、いろいろな綺麗な景色の写真がアップされて、それに「いいね!」が付く、といったことで非常に盛り上がります。イベントへの参加者の平均歩数に応じた金額を子ども食堂等へ寄付するといった社会貢献活動にもつながっています。

水野さん ▶

 社員の喫煙率の高さも大きな課題となっています。禁煙費用の補助や分煙対策の強化により徐々に喫煙率は低下してきましたが、20歳代男性は2017年度で45%と、全国平均よりも高い状況にありました。

 健康意識調査では、「職場で喫煙に関して不快に感じること、体調が悪くなることがある」との回答が約4割に上り、禁煙対策として求める内容として、「就業時間内禁煙」「喫煙室の廃止」が4割強となり、職場環境の改善が課題でした。

 こうした中で2021年10月から、国内の野村グループ全体で「就業時間内禁煙」「喫煙室の廃止」を実施しました。「就業時間内禁煙」は在宅勤務中も含まれます。また、昼食休憩中に喫煙した場合は、喫煙後45分以内にはオフィスに戻らないよう推奨しています。

 2025年度における当社全体の喫煙率の目標は12%と設定しています。まだまだ改善の余地があると認識していますが、2021年10月の「就業時間内禁煙」導入で、20歳代男性の喫煙率は35%程度となり、10%程度低下しているなど、少しずつ成果は出ていると思います。今後は、会社として禁煙対策を重視しているという姿勢を、さらに周知していきたいと考えています。

播磨さん ▶

 健保組合から禁煙プログラムへの補助を実施してきましたが、2021年10月に「就業時間内禁煙」を打ち出したタイミングで、年度末までに禁煙プログラムへの参加申し込みをされた方は、費用全額を健保組合が補助することにしました。また、禁煙成功者に対する健康ポイントを付与するといった取り組みも実施しています。

水野さん ▶

 生活習慣病対策については、健康診断・人間ドック受診率100%を目標として設定しています。20歳代の定期健康診断、30歳以上の人間ドックの費用を会社と健保組合で全額補助しています。人間ドック受診時は「人間ドック休暇」(有給)の取得を可能としています。

播磨さん ▶

 定期健康診断、人間ドックの検査結果の全データは、「WellGo」に集約、一元的に管理されており、会社、健保組合で共有する仕組みになっています。ハイリスクアプローチとして、会社が行う産業保健における事後措置と、健保組合が行う特定保健指導や重症化予防の取り組みがありますが、これらについては、集約されたデータを基に、ターゲットになる対象者を判断しながら実施しています。

水野さん ▶

 ハイリスク者への対応としては、健診後の二次検査受診率が課題となっていました。2025年度目標100%の達成に向け、2020年度からは二次検査を受診しない社員に対し、結果を報告するまで、医療職と人事、上長が段階的に勧奨するフローとしました。また、それまでは高リスク者に重点的に連絡をしていましたが、対象を全員に拡大しました。二次検査受診率は2019年度の82.2%から2020年度には99.8%に改善し、おおむね目標を達成することができました。

野村證券株式会社の二次検査受診率の推移

──健康経営の取り組みを社会に広げる

水野さん ▶

 健康経営の取り組みとしては、1つひとつの課題、例えば喫煙率を下げたい、生活習慣病を減らしたいなど、個人をより健康にしていくということにフォーカスしていました。また、今年度は特に、女性の健康や、がん対策、治療と仕事の両立支援に力を入れています。

 さらに今後は、健康経営の取り組みを社会に広めていきたいという思いがあります。野村グループの健康経営のゴールは、社員、お客様、社会全体が単に健康になるだけではなく、肉体的にも精神的にも、社会的にも満たされた状態、「Well−being」となることです。

 そのためには、まず社員が「Well−being」な状態で、生き生きと働き、能力や個性を十分に発揮できる環境をつくることで、会社も収益を上げていくことができるようにしなければなりません。そして、そうしたことが世の中も波及していくというところまで目指していきたいと思っています。健康という概念を大きく超えて、豊かな社会の実現に取り組んでいきたいと考えています。

原田さん ▶

 データ活用による野村證券の産業保健の体制、取り組みは、かなり先進的なものになっています。社会への普及という意味では、さまざまな企業や健保組合に「WellGo」が導入されることで、野村證券で培ったノウハウが「WellGo」を通じて、伝播していくことを期待しています。

播磨さん ▶

 当面の課題として、当然、特定健診・保健指導など個別の事業について丁寧に実施していくことが求められています。また、女性の健康問題や、メンタルヘルス対策などに健保組合としてどのように取り組むかも課題としてあると思います。その中で、会社が目指す「Well−being」に向けた取り組みと平仄を合わせて、健保組合としての事業を実施していくことが重要になっていると思います。

健康コラム
KENKO-column