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働き盛りのメンタルヘルス vol.31

精精神疾患の視点から「困った人たち」を考える 「未成熟タイプ」編―①

今月、来月は、精神疾患を考える4つの分類の「未成熟タイプ」について考えていきます。

※このコラムは「健康保険」2012年10月号に掲載されたものです。

「いま時の若者」はエイリアンか?

ここ数年、管理職の方から、新入社員を中心とした、若い世代とどう接したらよいかといった悩みを寄せられることが増えています。しかしながら、「若い世代が理解できない」といった悩みは、近年になって目立ち始めたわけではありません。エジプト時代の石碑にも、「近頃の若者は・・・」といった文言が記されていたとの話もあります。

自分達とは、異なる社会背景で育った世代を理解できない。このような悩みは、現代に限られたものではなく、あらゆる時代においてもあてはまる、普遍的なテーマであると言えるでしょう。

ところが、昨今の若い世代が理解できないといった問題は、単なるジェネレーションギャップでは済まされないものであるかもしれません。たとえば、「指示したこと以外の仕事をしない」「注意すると、教わっていないからできないと反論する」「注意すると落ち込んで会社を休む」など、従来の価値観では理解できないケースが目立ってきています。

管理職は、このような対応を当然だと感じる若い世代を、自分たちとは全く異なる価値観を有する、エイリアン(異星人)であると考え、対応に困惑しているように見えます。

悩んでいるように見えない「未成熟タイプ」

仕事をする上で、時に大変な思いや大きなストレスを感じることは、世代にかかわりなく理解できるでしょう。長い社会人生活の中で、仕事がうまくいかないケースは少なくありません。自分がしてしまった失敗から逃げ出したくなる時もあれば、ひどく落ち込むこともあるでしょう。私達の多くは、困難や失敗を乗り越えていく過程を通じて、悩みつつ成長していくのだと考えています。

しかし先にあげた、単なるジェネレーションギャップと言いきれないケースでは、仕事上の大きな失敗をしても、反省していない、または反省しているように見えない点に特徴があります。明確な反省の言葉は聞かれず、自分のおかしたミスのせいで、周囲に迷惑をかけていることをわかっているのか、わかっていないのか、今一つはっきりしません。ミスをした当人が、反省の色も見られず、悩んでいるようにも見えない。この状況で周囲の理解が得られないのはもっともだと思われます。

精神疾患の観点から「困った人たち」を考える4分類

このような特徴は、今回のテーマである「未成熟タイプ」に多く見られます。「未成熟タイプ」は、周囲から見ると、状況把握(アセスメント)ができているように見えず、また状況に自分を合わせる努力をしているように見えない点に特徴があります。それゆえ、「悩んで当然」だと感じられる状況に置かれていても、周囲からは本人が悩んだり、困っているようには見えません。実際は、何も考えていないわけでも、全く困っていないわけでもなく、その人なりに困っている状況であると考えられるのですが、本人の「困り感」を周囲が認識できない。つまり、問題を起こした当人が、問題と向き合い、悩んでいるように、周囲からは見えない点に怒りや困惑を感じているのだと言えます。そのため、周囲が「未成熟タイプ」とどのように付き合っていけばよいのか、わからない状況が生じてくるのです。

「悩める」ことは当然ではない

ここで1つ確認しておきたいのは、問題に直面し悩むことは、誰もが当たり前にできるのではないということです。つまり、「悩んでいるように見えない」状況を考える上では、「悩む力があるのに悩んでいない」ことと、「悩む力がないので悩めない」ことを、しっかりと区別する必要があります。前者は当人の怠慢ですから、周囲が怒りを感じるのも当然のことであると言えます。しかし、後者に対しては、周囲も一定の理解を示し対応を検討する必要があります。

仕事上の問題が起きた際の、「未成熟タイプ」の認識は、「なんだかよくわからないけれど、うまくいっていない」状態です。その背景には、問題を問題と認識できていない、状況把握(アセスメント)ができていないことが見受けられます。そもそも問題を感じていない状態ですから、悩むことができません。それゆえ、当然のことながら、現状に対してなんらかのアクションを取ろうという意欲もわいてきません。

悩むことができない「未成熟タイプ」は、周囲から見ると、状況判断ができておらず、周囲に合わせようとする意識もない、自己中心的な人物に見えてしまいます。しかし、「未成熟タイプ」は、悩むことを放棄しているのではなく、様々な事情で悩むことができない人達なのです。次回は事例を通じて「未成熟タイプ」について、より理解を深めていきます。

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