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企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

ブラザー工業株式会社

健康宣言で、既存の健康づくりに拍車

 モノ創りを通して優れた価値を創造し、世界中の顧客に製品やサービスを提供するため、グローバルに活躍しているブラザーグループ。従業員が長期にわたり才能とスキルを発揮するためには、一人ひとりの健康管理が重要であるとの考えから、これまでも積極的に健康づくりに取り組んできました。2016年には「ブラザーグループ健康経営理念」を策定。さらに、最高健康責任者(CHO)を設置するなど、企業と健康保険組合、労働組合が三位一体となった活動はさらに勢いを増し、2017年には健康経営銘柄に選定され、また、2年連続で健康経営優良法人に認定されました。その具体的な取り組みについて伺いました。

【ブラザー健康保険組合の概要】
加入事業所数:19事業所(2017年3月末現在)
加入者数:1万7211名 ※被扶養者8,248名を含む

──健康づくりに取り組まれたきっかけや背景などをお聞かせください。

ブラザー工業 ▼

ブラザー記念病院(外観)の写真
ブラザー記念病院

 ブラザー工業では、創業者が従業員に豊かで幸福な生活を送ってもらいたいと考えていたことが、社風として根付いています。その象徴として、1954年にブラザー病院(現:ブラザー記念病院)が設立され、ブラザー関係者は就業時間内でも、体調が悪いときや定期健診などで利用できます。私どもは、そのときどきに生じる健康課題に真摯に取り組むなど、地道に従業員の健康づくりを行ってきました。12年前にブラザー工業健康管理センターを設立し、産業医4名と保健師6名を抱え、全国や世界に広がる従業員の健康管理がしやすい体制を整えました。さらに、健康経営銘柄など、世の中の流れに後押しされて、2016年には社長が健康経営理念を宣言しました。また、社長が最高健康責任者(CHO)を務めることで、経営会議で従業員の健康の話題が取り上げやすくなり、トップや役員を巻き込んだ健康づくりを行っています。

ブラザーグループ健康経営理念:ブラザーグループは、従業員一人ひとりの心身の健康こそ大切な「財産」ととらえ、『明るく・楽しく・元気に』、活き活きとさまざまな能力を発揮できることが、グループの成長につながると考えています。従業員一人ひとりが健康であることは、ブラザーグループの継続した発展の礎であるとともに、健康寿命の延伸など社会の要請に応えるものです。健康経営の実現のため、会社・労働組合・健康保険組合が一体となり、従業員の健康の保持・増進に戦略的に取り組みます。

健保組合 ▼

 ブラザー健康保険組合は、今から20年以上前、愛知県内のなかでは、健康保険料率が高く、財政状況が悪かったため、保健事業にもっと力を入れないといけないという課題がありました。時を同じくして、母体企業でも、メンタルヘルス不調者が増えたことで、健康管理の重要性が高まっていました。

ブラザーグループ健康管理体制の図
ブラザーグループ健康管理体制

 そこで、健保組合専属の保健師を配置した保健推進センターを立ち上げ、従業員の病気を未然に防ぐため、予防活動に力を入れ始めました。また、従業員はブラザー記念病院で健診を受けているため、健診結果やレセプトなど、従業員の健康に関するデータが蓄積されています。そこで、データを活用してハイリスク者にアプローチするといった保健事業を行ってきました。どういった事業を行うかは、ブラザー工業の健康管理センターと連携して決めています。

──具体的にはどのような取り組みをしていますか。


ブラザー工業株式会社
人事部安全防災グループ健康管理センター
センター長 武藤 清 さん

ブラザー工業 ▼

 メンタル不調を未然に防ぐため、「ブラザーメンタルヘルス5カ年計画」を立てて、心の健康づくりに取り組んでいます。具体的には、入社時と25歳、30歳、35歳……と、5歳刻みのタイミングでその年齢に該当する従業員を対象としたセルフケア教育を実施しています。また、3年に1度、管理職向けのメンタルヘルスケア教育(ラインケア)を実施して、部下の不調に気づくといった、メンタル疾患の予防や早期発見、早期対応を目指しています。受講率は95%ほどで、仕組みとして従業員に広く浸透しており、講習を受けたあとは、健康管理センターへ相談に来る人も増えています。

「ブラザー健康生活月間」や「わくわく健康カーニバル」などの健康イベントのチラシ

 ブラザーグループでは、毎年10月と11月を「ブラザー健康生活月間」として、健保組合と労働組合、人事部が協力して、さまざまな取り組みを行っています。たとえば、従業員同士でウォーキングの歩数を競ったり、会社が保有する体育館で「わくわく健康カーニバル」という玉入れや健康測定、エクササイズなどを行う健康イベントを開催しています。

 そのほかに、健康生活月間の2カ月はほぼ毎日、各地の事業所に保健師が出向いて、健康教室を開催しています。10年以上続けている事業ですが、希望者による申し込み制で行っていたところ、健康意識の高い層のリピーターが多いことがわかり、3年前に見直しをして、部署単位での申し込みに変更しました。そうすることで、無関心層の参加が増えました。

 また、喫煙率がなかなか改善しなかったことから、2016年にワーキンググループ(WG)を立ち上げ、1年かけてミーティングをしたり、アンケートをとったりして、禁煙に向けた5カ年計画を立てました。WGはメンバーを喫煙者と非喫煙者が5:5の割合になるよう構成し、喫煙者にも納得感のある施策になるように工夫しました。16年に建物内禁煙を実施しましたが、20年の敷地内全面禁煙に向けて今まさに取り組んでいます。


ブラザー健康保険組合
常務理事 山田 儀行 さん

健保組合 ▼

 健保組合では、1996年から禁煙サポートに取り組んでいますが、ブラザー工業が禁煙に力を入れるようになってからは、健保組合でも取り組みを強化しました。具体的には、禁煙外来コースや自力で取り組む禁煙コースなど禁煙メニューを増やし、補助を手厚くしたり、インセンティブを見直したりして、禁煙をサポートしています。これによって、例年20名ほどだった参加者が、建物内禁煙を実施した2016年は100名まで増えました。

 また、データを基に医療費を分析した結果、がん患者の増加や夫婦ともにメタボであるケースが多いなど生活習慣病に起因する課題が浮き彫りになりました。そこで、▽メタボ対策▽がん対策▽喫煙対策▽健康的な生活習慣の定着――の4つを柱に保健事業を展開しています。高リスク夫婦については、食習慣の改善をめざして、奥さん向けの食事セミナーを実施しています。グループ会社を活用し、会場を繁華街にあるカラオケボックスのパーティールームにして、ランチ付きのセミナーを行うことで参加率の向上を図っています。

──第2期データヘルス計画に向けた取り組みについて、お聞かせください。


健康スコア 健康改善計画書

健保組合 ▼

 データヘルスにおける新たな取り組みとしては、健康データをもとに、事業所ごとの健康スコアをつけました。それによって、グループ会社のなかで何位に位置しているかという順位づけをしています。このスコアを持って、各事業所に説明に行き、そのあと、各事業所に健康改善計画書を書いてもらいます。その指標として、「健康ブラザー2025」という目標値を掲げました。さらに、健康経営推進協議会を立ち上げて、ブラザー工業をはじめとし、ブラザーのグループ企業が集まる会議体をつくりました。その会議では、各グループ企業が、健康づくりの進捗状況や結果を報告します。こうすることで、事業所ごとに改善スコアを設定し、PDCAサイクルを回せる仕組みを構築しました。

 17年度からはグループ会社に、健康経営優良法人にエントリーするよう働きかけています。その結果18年度は、大企業部門で4社、中小企業部門で4社が認定されました。小規模の会社では、社長がその気になると、従業員に社長自らが積極的に働きかけて独自の健康づくりを行ってくれると実感しています。

──現状の課題や今後の取り組み、要望などがありましたら、お願いします。


ブラザー健康保険組合
保健推進センター センター長
中根 弥枝 さん

 当健保組合では、高齢者医療への拠出金が支出の半分を超えています。前期高齢者に高額な医療費が発生すると、途端に前期高齢者納付金の額が跳ね上がる現在の仕組みでは、年度ごとの納付金のバラツキが大きすぎて、予算が立てにくいのです。2年後に精算されるものの、各年度で支払うためには、積立金の取り崩しが必要です。この仕組みには頭を悩ませています。

 私どもでは、この不安定な支出要因を少しでも緩和させようと、前期高齢者を対象に健康相談のために訪問するなどの活動にも注力しています。こうした取り組みの結果、前期高齢者になる前の段階でアプローチすることが効果的だとわかってきたので、だんだんと年齢を引き下げてアプローチしています。

 さらに、新規参入の事業所の健康意識の向上も課題です。ブラザー健保組合の健康風土になじんでもらうよう、健診受診の促進から始め、事業所に出向いて、血圧や内臓脂肪などの測定会を実施するなど、少しずつ健康意識を高めるようにしています。

 健保組合は、コツコツと日々従業員の健康づくりを行っています。従業員にとっては、それが当たりまえなので、とくに健保組合の存在を意識することはありません。普段は縁の下の力持ちでいいですが、健保連などで、保健事業における優良健保組合表彰を実施するなど、健保組合が日の目を見る機会があってもいいように思います。

ブラザー工業株式会社 人事部安全防災グループ健康管理センター センター長 武藤 清 さん
「2017年に健康経営銘柄に認定されたことで、健康づくりを進める環境が整ったように感じています」

ブラザー健康保険組合 常務理事 山田 儀行 さん
「健康づくりの推進にあたっては、まずは事業所が協力しやすい環境整備が大切です。健保組合ではその仕組みづくりを行っています」

ブラザー健康保険組合 保健推進センター センター長 中根 弥枝 さん
「これまで地道に健康づくりを行ってきたことで、母体企業だけでなく、グループ企業の担当者との距離感が近く、事業を推進するうえで良好な関係を築けていると感じています」

健康コラム
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