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働き盛りのメンタルヘルス vol.22

なぜ上司と部下は すれ違うのか ―その2

今月は、前回紹介したシチュエーションにおいて、どうすれば上司と部下の双方が納得できるコミュニケーションが成立するのかを考えていきます。

※このコラムは「健康保険」2012年1月号に掲載されたものです。

事例概要

総務部門に勤務のAさんは、新たに配属された同僚のBさんと仕事をすることにストレスを感じています。原因は、Bさんの業務能力の低さ。具体的には、毎日のように書類の作成ミスや締め切りを忘れるなどで、同僚のCさんもB さんのフォローなどで負担が増えています。Aさんたちは同僚らと話し合い、どうしたらBさんが仕事をやりやすい環境を作れるかを検討し、そのうえで自分たちができることを実行してきました。しかし、当のBさんからは問題意識が感じられません。Aさんたちが課長に相談したところ、課長は、「みんなの言い分はわかるが、まだ配属されて間もないのだから、しばらく様子をみるように」と言います。

上司と部下の視点の違い原因はどこにあるのか?

上司と部下の関係が難しいのは、「世代による価値観の違い」「好き嫌いといった、主観的かつ生理的要因」「立場による視点の違い」の3つの要素が複雑に絡み合って、問題の背景にあるからです。まずは「立場によって視点はどれだけ違うのか」を見てみましょう。ポイントは3つあります。

【ポイント①】―― 部下は、目の前で起きている出来事を、過大評価する傾向がある。上司は、部署内全体を見通し、起きているさまざまな出来事の優先順位を考える。

Aさんは、いわゆる「使えない人」であるB さんと仕事をする機会が増えました。そのため、Aさんが抱える問題の中で、Bさん絡みの問題が、その他のものより大きくなっていくのはやむを得ません。しかし、課長の立場から見れば、数ある問題の中の1つにすぎません。課長は自身が抱える仕事の中で、優先順位の高いものから対応していくはずです。そうなると、Aさん、Cさんの負担増を認識していたとしても、業務上の問題が生じていなければ、「他の対応すべき問題に時間を割きたい」と考えるでしょう。部下にとって大きな問題であっても、上司にとってはそうではない場合があるのです。

【ポイント②】―― 般的に部下は、上司と比較すると、仕事の自由度や裁量権が少ない。一方の上司は部下よりも、仕事の自由度や裁量権を持っている。

仕事の自由度や裁量権は、悪いストレスを考える上でも非常に重要です。職場におけるストレスは、仕事の自由度と裁量権が大きければ大きいほど少なくなることが、メンタルヘルスの研究で明らかにされています。職種にもよりますが、自分が気分転換したいと思った時に、自由にコーヒーブレイクをとることができる立場にある人と、そうでない人とを思い浮かべてください。自由度・裁量権の少ない人は自分がストレスフルな状況にあっても、その場から逃れることができないため、ストレスが大きくなりがちだと分かるでしょう。

【ポイント③】―― 部下も上司も、自分の意見は正しいと思っている。

私の経験上、関係が良好でない2人の話を聞いてみると、同じ問題に対する見方が大きく食い違っていることがよくあります。お互いにそれぞれの言い分があるのだとしても、ある出来事について話をしているのであれば、大きな違いはないはずです。

しかし、冷静な時ならいざしらず、問題が発生しているときは、なおさら相手ではなく自分の意見が正しいという思い込みが、問題をより複雑にさせてしまうことが多く見られます。

事例においてAさんは、「自分はちゃんとやっているが、Bさんのせいで迷惑をこうむっている」と考え、その考えが間違っているかもしれないという疑いをもたずに、課長に相談しにいってしまいました。一方、課長にも言い分があるわけで、これではなんらかの解決がなされることはないでしょう。

上司と部下が良好な関係を築くために

部下は、「みんなそう思っているはずだ」という思い込みを捨てて、自分が考えているように上司は考えていないとの前提を持つことが大切です。日々の仕事を同じ場面・立場でしていない上司に、自分たちが置かれている状況を説明し、さらに理解してもらうためには、「私たちは大変なんです」「だからなんとかしてください」ではなく、具体的にどう困っているのかを、明確に説明しなければ上司の理解を得ることは難しいでしょう。現場でおきる問題に対して上司に対応を依頼する場合、部下とは違う視点で日々の仕事をしている上司が、対応・対策の必要性を感じざるを得ないような提案の仕方を試みることが重要です。

上司は、部下が仕事の自由度や裁量権が小さく、視野が狭くなりがちであること、逃げ場がないためストレスがたまりやすいことを理解する必要があります。部下は立場や気持ちを理解してほしいという欲求がとても強いですから、仮に問題が解決しなくとも、上司に話を聞いてもらうだけで、気持ちが落ち着くこともあります。事例に類似したケースにおいて見受けられる上司の失敗の多くは、単なる人間関係の問題であると考えてしまい、「使えない人」によって業務負荷が高まっている部下が、本当に困っている状況を見落としてしまうことです。このような事態を想定し、管理者は「また好き嫌いの話か」と先入観を持って決めつけることなく部下の話に耳を傾ける、その意識を持つことが何よりも重要です。

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