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健康コラム

健康課題への取り組み・対策

女性の健康問題について考える

女性の健康問題について考える

日本マクドナルド健康保険組合の皆さん。右から、保健事業課・大藤欣也さん、常務理事・鳥潟美夏子さん、保健師・北田早苗さん、統括保健師・山下裕加里さん、保健師・須藤真実さん、保健事業課・廣瀬愛さん、保健事業課長・平野義昭さん

日本マクドナルド健康保険組合

保健師活動を要に女性の健康課題への理解を促進

日本マクドナルド健康保険組合は、日本マクドナルド株式会社を母体とする単一健康保険組合で全国のフランチャイズを含めて174社(2022年9月時点)が加入する。約2万人の被保険者のうち約6割を女性が占め、20歳代が最も多いが、年齢層は幅広い。まずは女性被保険者の健康の現状と課題を把握することから始め、5名の保健師が要となって、女性の健康課題についてのリテラシー向上に取り組んでいる。日本マクドナルド健保組合における女性の健康支援の取り組みについて、常務理事・鳥潟美夏子さん、保健事業課長・平野義昭さん、統括保健師・山下裕加里さん、保健師・北田早苗さん、保健師・須藤真実さんに話を聞いた。

症状を我慢して働く女性の実情を知る

――日本マクドナルド健保組合の特徴や、女性の健康課題についてお聞かせください。

日本マクドナルド健康保険組合常務理事 鳥潟 美夏子 さん
日本マクドナルド健康保険組合
常務理事
鳥潟 美夏子 さん

鳥潟さん ▶

被保険者の約6割が女性というのが1つの特徴で、若い世代から子育てが一段落した方、リタイア後の方まで幅広い年代の女性が全国の事業所で働いています。まずは今年度、健康課題を把握するため、被保険者の半数を占める日本マクドナルド株式会社をはじめ8事業所の協力を得て、アンケート調査を実施しました。

平野さん ▶

アンケート調査は、女性比率が高く、女性の健康課題に関心を持っている事業所に協力を仰ぎ、コラボヘルスの1つとして実施しました。

須藤さん ▶

アンケート調査で分かったことは、月経痛等の婦人科系の症状がひどくても受診していない人が多いという現状です。例えば、PMS(月経前症候群)の症状がある人は約7割いますが、医療機関を受診している人は4%程度でした。また、月経痛やPMS様症状、更年期様症状で医療機関の受診が必要な人は約5割いたのですが、そのうち受診している人は約3割でした。婦人科系の症状はなかなか他人と比較ができないので、不安に思っていたり、逆に当たり前のことだから受診するものではないと思っていたりして、症状があっても我慢している状況がみえました。

まずは、そういった方々に婦人科受診が必要であることを知ってもらうことが重要です。今年度は健康課題に「気付く」、来年度は「学び」を深めてリテラシー向上を図り、適切に医師と「つながる」行動がとれるようにする。こうしたステップを踏んでいきたいと考えています。

また、月経痛がつらくても男性の管理職に言いづらいという声もありますので、女性だけでなく、男性や管理職の方にも理解していただき、女性が必要なときに受診行動をとれる環境づくりをしていくことが必要です。

鳥潟さん ▶

月経痛やPMS、更年期症状による仕事のパフォーマンスの低下を多くの人が自覚していることも分かりました。「こんなにも我慢しているのか」と感じましたし、事業主も同様の意見でした。適切に医療機関につなぐことがとても大事です。

被保険者の約6割が女性とはいえ、全国の店舗の店長はまだまだ男性比率が高いのが現状です。その中で女性が男性と対等に渡り歩くためには、女性特有の不調があっても我慢して仕事に打ち込んだり、逆にキャリアを諦めてきたりしたのだと思います。しかし、どんな人もキャリアのチャンスを得るには、女性の健康にも目を向けて、キャリアを前向きに捉えられる環境を整えることが企業として重要だと思いますし、そうした企業の取り組みを支えていくことが健保組合の役割だと考えています。女性の声をどう拾い上げるか、いかにして女性が声を上げられるようにしていくか。それが最初の一歩だと思っています。

啓発冊子を制作 保健師が地道に啓発

――女性の健康課題への気付きを促すためにどのようなことに取り組んでいますか?

鳥潟さん ▶

全国にチェーン展開している企業の健保組合で異業種情報交換会を持っているのですが、女性の労働力が増えている中で、皆さん、女性の健康に対して漠然とした課題を感じていることが分かりました。なるべくコストをかけずにできることを考えて、6健保組合で小冊子『女性の健康応援BOOK』を制作しました。

日本マクドナルド健康保険組合 保健師 須藤 真実 さん
日本マクドナルド健康保険組合
保健師
須藤 真実 さん

須藤さん ▶

『女性の健康応援BOOK』は、生活習慣編、ホルモン編に続き、現在「がんと就労」をテーマに3冊目を制作中です。6健保組合の方々と、各健保組合の課題を踏まえて内容を検討して制作しています。共通の課題としては、体力勝負であるということ、シフト制のため不規則な生活で家事・育児等も忙しく、食べられるときにたくさん食べるといった生活習慣がありました。また、女性は自分のことより家族や仕事、若い人は遊びを優先して、自分の健康のことは後回しにしてしまいがちです。冊子では、まずは自分の健康状態に目を向けていただくこと、健診を受けていただくことの大切さを伝えています。

山下さん ▶

健診の案内をするときに、『健診のしおり』と一緒に『女性の健康応援BOOK』を全女性加入者に送っています。健保組合が提供する巡回健診では保健師が常駐して全受診者に保健指導を実施していますので、その場で婦人科検診のことや、ご自身の月経や更年期症状の悩みなどについてお聞きしたり、冊子を見ながら保健指導をしたりしています。

健診のときが最も自分の健康に目が向いているときですから、その機会を逃さないようにします。

婦人科検診は、乳がんと子宮頸がんの発生率をもとに見直し、子宮頸がん検診は全年齢を対象に、乳がん検診は35歳以上を対象に実施しています。婦人科検診を受けない人には保健師が理由を聞いて、必要に応じて自治体のがん検診の利用を勧めたり、婦人科検診を受けることの重要性をお伝えしたりします。すると「やっぱりきちんと受けたほうがいいんだ」と改める方もいらっしゃいます。


6健保組合で制作した『女性の健康応援BOOK』

日本マクドナルド健康保険組合保健事業課長 平野 義昭 さん
日本マクドナルド健康保険組合
保健事業課長
平野 義昭 さん

平野さん ▶

こうした地道な取り組みの効果もあり、健診受診率、婦人科検診受診率、特定保健指導実施率は年々上がっています。婦人科検診受診率は、乳がん検診66.7%、子宮頸がん検診64.6%です。また、事業所から健康教育の依頼も徐々に増えています。

鳥潟さん ▶

当健保組合の強みは、保健師が常駐しているということです。日本マクドナルド株式会社の各地区人事担当とフランチャイズ法人の健康管理担当にそれぞれ担当保健師をつけて、女性の健康問題に限らず、気になることがあればすぐに相談できる環境を整えてきました。この強みを最大限に活かした保健事業を組み立てていきたいと思っています。

ダイバーシティーや健康経営の推進とともに

――男性や管理職の理解促進のために工夫されていることはありますか?

鳥潟さん ▶

『女性の健康応援BOOK』では、女性の部下を持つ男性上司を登場させ、3冊通じて男性管理職の目線を忘れないように編集しています。

また、今春には、母体企業のイベントで『女性の健康応援BOOK』のパネル展示をして、保健師が常駐して質問等を受けるということをしました。

平野さん ▶

パネル展示では興味を持っていただける男性管理職もいましたが、女性の活躍推進が図られる中で、女性の健康への配慮を男性もなんとかしたいけれど、どうしたらよいか分からない、というのが現状だと思います。

須藤さん ▶

男性も当たり前に、女性の健康に目を向けることができる環境を醸成していきたいと思います。管理職にもアンケート調査結果をフィードバックして、実態を知っていただくことも必要だと思います。今後は、気軽に参加できるセミナーやeラーニングも提供していけたらと考えています。

鳥潟さん ▶

今後の課題は、事業所の管理職層に対するヘルスリテラシー向上のアクションをどう起こしていくか、ですね。母体企業が女性のキャリアアップ推進という点で取り組んでいるダイバーシティー&インクルージョンの活動とコラボしていけるとよいと考えています。

また、梃子になるのは健康経営です。積極的に取り組む事業所も増えていて、保健師がそのサポートをしています。健康経営度調査を軸にすることで、会話もしやすく、取り組みも進むと思います。

平野さん ▶

事業所には、スコアリングレポートのような事業所ごとの健康データを提供しています。健診受診率や要精検者数、運動や喫煙など生活習慣の状況等を他の事業所との比較で自事業所の位置が分かるように示しています。保健師が事業所訪問の際に持参して、現状と課題を説明しています。

日本マクドナルド健康保険組合 統括保健師 山下 裕加里 さん
日本マクドナルド健康保険組合
統括保健師
山下 裕加里 さん

山下さん ▶

健康データを踏まえて事業所としてどのような取り組みをするか、事業所の健康管理委員と話し合いながら年間のプランを組み立てています。

健康経営に取り組んでいる事業所は健康意識が高いのですが、女性の健康について具体的に何をすればよいか分からないという声もありました。例えば、社内に女性の相談係を設置して健診の案内をしてもらうなど、スモールステップで進めています。

須藤さん ▶

『女性の健康応援BOOK』の認知度や被保険者の皆さんの意識は上がってきていると実感しています。事業所の健康経営推進へのサポートを通じて、健保組合に相談できる窓口があることをもっと知っていただければと思っています。

情報をいかに届けるか〝現場を動かす力〟に期待

――今後、取り組みをステップアップしていくためにどのようなことをお考えですか?

日本マクドナルド健康保険組合 保健師 北田 早苗 さん
日本マクドナルド健康保険組合
保健師
北田 早苗 さん

北田さん ▶

私が5年前に入社したときは、「健(検)診って受ける必要あるの?」という認識が多かったのですが、定期健診や婦人科検診を受けることの必要性をずっと周知し続けてきて、今では「検診は必ず受けないといけない」という意識に確実に変わってきています。発信し続けること、周知し続けることがいかに大事か、実感しました。女性の健康についてはどう発信していくかを考える必要はありますが、周知し続けていくことはとても大事だと思っています。

平野さん ▶

マクドナルドでは〝人を大切にしていく〟ことは昔から根付いており、人材の育成・確保・定着などに対しての思いや行動は大きいです。その人材投資に〝従業員の健康〟がフォーカスされるようになっており、現場も少しずつ変化しています。女性の健康支援の取り組みはまだ土壌づくりの段階ですが、定期健診と婦人科検診を受けること、その結果に基づいて必要な受診をすることは自己投資であるという雰囲気がつくれればと思います。

鳥潟さん ▶

忙しく働く皆さんに、健康情報をどう提供するか、いかに見てもらうかは広報の大きな課題です。必要な情報を必要な人にしっかりと届けるために、冊子、ポータルサイト、イントラネット、LINE、アプリなどいろいろなチャネルを用意してアプローチを試みています。その中で、保健師という専門職の存在はとても心強いものになっています。

健康は大事だと思っているけれどなかなか時間を割くことができない環境においても、特定保健指導実施率や精密検査受診率等は上がってきています。これは保健師の地道な活動が大きく影響していると思っています。保健師が持つ〝現場を動かす力〟を生かして保健事業を展開し、女性の健康に関するリテラシーの向上、適切な受診、受診しやすい環境づくりにつなげていきたいと思っています。

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