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働き盛りのメンタルヘルス vol.30

精精神疾患の視点から「困った人たち」を考える 「不安タイプ」編―②

先月に引き続き、精神疾患を考える4つの分類の「不安タイプ」について、事例を通じて考えていきます。

※このコラムは「健康保険」2012年9月号に掲載されたものです。

事 例:「不安タイプ」の先輩Aさんとの付き合い方に悩む新入社員Bさん

(20代/営業)

Bさんは、営業部門に配属された新入社員です。入社して半年がたち、ようやく仕事に慣れてきました。最近は、自分に多少余裕が出てきたこともあり、先輩であるAさんの仕事ぶりが気になります。

Aさんは、残業や休日出勤がとても多いようなのです。入社当初から気が付いていたのですが、Aさんは単なるハードワーカーなのだとBさんは考えていました。しかし、職場の状況がわかってくるにつれ、どうやらそれだけではなさそうだと感じ始めました。Aさんが残業して取り組んでいる仕事は、急ぎのものではなかったり、Aさん自身がやらなくても良い仕事が含まれているように見えます。

他の社員と雑談する機会があった際に、Aさんについて自分が感じていることを話してみました。すると、以前一緒に働いたことがある人からこんな話を聞きました。「すごくいい人なんだけどね。困ってるときは助けてくれるしね。でも自分でさ、仕事抱えすぎちゃうんだよね。」

Bさんは、Aさんの仕事が手に負えない状況に見えた時に、「手伝いましょうか?」とAさんに伝えてみました。しかしAさんは、「大丈夫。この仕事、慣れてるから任せといてよ。」という感じで取り合ってくれません。

事例のポイント

「不安タイプ」は、自分や周りが見えていない、自分の能力やキャパシティー、つまり仕事における自己イメージと、実際の能力やキャパシティーとの間に大きなずれがある点が特徴です。そのため、周りからは「限界を超えている」状態に見えても、本人はそう感じていないということが起こり得ます。このように、自分で自らの限界やゴールがわからない状態では、心身ともに、限界を超えるまでがんばり続けてしまう事もあるでしょう。「不安タイプ」は、そうなって初めて、自分が頑張りすぎていたのだと気がつきます。

今回の事例では、Aさんは限界を超えていながら、さらに過剰な努力を続けているように周囲からは見えます。このことから、実際の能力やキャパシティーと自己イメージとのギャップが感じられます。そして、Aさんを手伝おうとしたBさんの申し出を、後輩ということもあると思いますが、拒否しています。

「不安タイプ」のAさんにとっては、プラスであってもマイナスであっても、評価されること自体が、「もっと頑張らなければ」というメッセージになってしまいます。仕事が出来ているのであれば、もっと頑張って、周りに喜んでもらいたいと感じてしまう。反対に、仕事が出来ていないのであれば、より努力して、周囲に役立てるようになりたいと考えてしまう傾向があるのです。それゆえ、今回のBさんからの申し出は、自分は仕事が出来ていないのだというメッセージとなり、Aさんに伝わってしまったと考えられます。

精神疾患の観点から「困った人たち」を考える4分類

このままの状態が続けば、Aさんのこころと体は悲鳴をあげ、突然、出社できなくなるというような事態も予想されます。

「不安タイプ」が罹患しやすい疾病の例

事例の同僚の話にあったように「不安タイプ」は、困った時に助けてくれるような、責任感の強い、頼れる人物であることが少なくありません。このような人物は、気分障害いわゆるうつ病にかかりやすい性格であるといわれています。そのほかにも、完璧主義的であったり、まじめで融通の利かない面がある等の特徴が見られます。

うつ病は、多くの人がメンタルヘルス不調で思い浮かべる疾病の一つであり、「こころの風邪」と言われ、広く知られるようになりました。しかし、うつ病は風邪のように簡単には治りません。罹患すると、精神的には不安や意欲の低下等を感じ、何をやってもつまらないと感じる毎日を過ごすことになります。さらに身体的にも、不眠や強い肩こりなどさまざまな症状に悩まされ、疲労がとれない日々が続きます。うつ病は治療と休養によって、必ず状態が改善する「治る病気」であるといわれていますが、元気を取り戻すには相応の時間が必要となります。

うつ病は、自分の限界を超えて頑張りすぎたために、エネルギーを使い切ってしまった状態です。それゆえ、エネルギーを回復するための、長い休息が必要になります。

強い疲労感や、なかなか眠れないといった心身の不調は、「あなたは頑張りすぎている」という心と体からのメッセージです。うつ病を防ぐためには、そのメッセージを受け止め、自らの頑張りを労い、自分を大切にしようとする心がけが何よりも大切なのです。


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