企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

富士通株式会社

知識醸成と行動変容促し データに基づく施策展開で社会に役立つ方向性提示

富士通株式会社は、1935年に創業し、グローバルで12万人、国内で8万人の従業員を抱えるなど、世界で上位10位以内に入る売上規模のITベンダーであり、近年はDX等の新しい情報産業分野にも参画している。「健康経営優良法人2023(ホワイト500)」には7年連続で選定され、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」ことをパーパスに、そのための方策の一環として健康経営の推進に取り組んでいる。特徴的な施策としては、健康に関する知識の醸成に向け、全社的なe-learningを実施、行動変容につなげることを目指しているほか、職場環境整備の一環として、各組織長への「健康通信簿」の提供等を行っている。同社の取り組みについて、富士通株式会社Employee Success本部Employee Relation統括部シニアディレクターの鱸裕子さん、富士通株式会社健康推進本部健康事業推進統括部長の東泰弘さん、富士通健康保険組合シニアアドバイザーの伊藤均さん、富士通健康保険組合常務理事の板倉和寿さんに話を聞いた。

【富士通株式会社】
設 立:1935年6月
本 社:東京都港区東新橋1-5-2
代表取締役社長:時田隆仁
従業員数:124,200人(2023年3月末現在)
2017年8月に「富士通グループ健康宣言」制定

──健康経営の推進で世界の持続可能性に貢献する


富士通株式会社
Employee Success本部
Employee Relation統括部
シニアディレクター 鱸 裕子 さん

鱸さん ▶

 当社では、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」ことを「パーパス」とし、その実現に向け、「人権・多様性」、「ウェルビーイング」、「環境」、「コンプライアンス」、「サプライチェーン」、「安全衛生」、「コミュニティ」という7つの経営課題を掲げています。

 健康経営については、「ウェルビーイング」の中の重要な施策として位置付けています。従業員と家族の健康の保持・増進、社員一人ひとりが心身ともに健康でいきいきと働くことができる職場環境の整備に取り組むことで、最終的には生産性が向上し、財務指標にも反映されることで、「パーパス」の実現につながることを目指しています。

 2017年には、従前からの各種健康推進の取り組みをより明示的なものとする「富士通グループ健康宣言」を制定しました。「健康経営優良法人(ホワイト500)」には7年連続で認定をいただいています。

 健康経営の実施に当たっては、企業の人事部門である「Employee Success本部」、医療関係の専門職が集まる「健康推進本部」、「富士通健康保険組合」が三位一体となり、健康経営の方針策定から施策の決定、実行までを全てリードしていることが特徴です。

 健康経営の施策は、第1期の2018〜2020年、第2期の2021〜2023年、第3期の2024年以降の3つのフェーズに分けて展開しており、現在はその第2期に当たります。第2期では、第1期で健康の重要性の認知・理解は進んできたことから、どうしたらその理解を行動変容につなげることができるのかということを最大のテーマとしています。

 併せて、コロナ禍で当社の社員は、新しい生活様式であるリモートワークには慣れても、それに合わせた新しい健康維持・増進活動への対応は十分ではない状態にあります。このため2023年度は、生活習慣病や慢性疾患など運動不足がもたらす影響を社員にメッセージとしてしっかり届けるとともに、行動変容を促していくことが重要であると考えています。

 年齢階層の違いや、健康意識の高低によって、同じメッセージを発信しても受け取り方が変わります。このため、相手の状況に合わせたアプローチを行い、行動変容につなげるなど丁寧な施策を行うよう心掛けています。


富士通株式会社
健康推進本部健康事業推進統括部長
東 泰弘 さん

東さん ▶

 2017年に健康宣言を行う以前から、当社では健康に関する取り組みを進めてきましたが、その始まりは1944年に企業立の診療所を開設したことです。そして1970年前後から、産業保健体制を確立し、健康管理スタッフ、健保組合、企業が連携して社員の健康の確保に取り組む体制ができました。当時は従業員の平均年齢も20代であった中、将来に禍根を残すような健康課題を出さないという意味で健康診断をしっかり充実させる、あるいは安全衛生全体の取り組みをしっかり行うということをテーマに、取り組みが続けられてきました。

 「コラボヘルス」という言葉ができる以前からこのような取り組みを行ってきましたが、平均年齢が上がってくる中で、2000年代前半からは生活習慣病やがんの増加、ICTの推進等に伴う仕事の複雑化によるメンタルヘルス疾患の増加等がみられ、健康課題が明らかになってきました。

 これらも踏まえ、当社の健康経営における重点施策としては、①生活習慣病・がん対策、②メンタルヘルス対策、③口腔・歯の健康対策、④ヘルスリテラシー・健康意識向上・生活習慣改善、⑤職場環境整備――という5つの領域を掲げています。

 このうち、③口腔・歯の健康対策については、将来のQOL、全身の健康に大きく影響することから、口腔内を健康な状態に保つことの重要性等について教育するとともに、歯科健診等を通じて予防行動につなげるなどの取り組みを行っています。

 ④については、従業員の知識を一層醸成し、行動変容を促すという意味で、2019年からeラーニングで全従業員向けの健康教育を実施しています。これまで、「がんの予防と両立支援」、「頭痛の正しい知識と対処法」、「腰痛から学ぶ身体活動」をテーマに実施してきましたが、2023年度は「睡眠」をテーマとする予定です。

 なお、これらの重点施策については、最終的に「経営そのものにどのように寄与していくか」を考えたうえで、プロセス指標やアウトカム指標だけでなく、生産性の向上や組織の活性化に係る指標、アブセンティーズムとプレゼンティーズムの指標、ワークエンゲージメントの指標、離職率などの指標を設定しています。


富士通健康保険組合
シニアアドバイザー 伊藤 均 さん

伊藤さん ▶

 健保組合では、3つの大きな柱を置いて取り組みを進めています。1つ目は予防施策の強化、2つ目は健康診断の取り組みの充実です。健康診断については、企業の「健康推進本部」における医療関係のスペシャリストを中心に、受診率向上に向け、ナッジ理論を活用した健康意識の醸成、健診受診の呼び掛け等を行っています。加えて、健保組合では、扶養者の健診の受診率向上や内容の充実にも取り組んでいます。

 3つ目は、これらの活動を継続して実施するためのさまざまな基盤の充実が重要です。この際には、もちろん財政基盤のしっかりした裏付けも必要です。その一例として、健保組合では、全国に7つの保養所があり、従業員や家族のリフレッシュに活用するほか、最近はワーケーションのベースへの活用を進めています。自治体とも協力してさまざまなプランをつくり、ワーケーションを通じた働き方改革、地域とのコミュニケーションにも取り組みたいと考えています。

 前述の重点施策のうち、生活習慣病予防については、まず特定健診・保健指導は重要な取り組みであるといえます。さらに、実施率自体も課題ではありますが、平均年齢の増加に伴う有所見率の増加もみられることから、ヘルスリテラシーを高め、健康の重要な要素である運動と食事と睡眠にフォーカスした取り組みを進めています。毎年春と秋には、ウォーキングイベント「みんなで歩活」を開催しています。初めは参加率も7〜8%程度でしたが、2022年度の参加率は33.5%になりました。

 職場環境の整備については、各組織長に対し、従業員の健康状態を示す「健康通信簿」の取り組みを行っています。国のスコアリングレポートを参考にしつつ、さらに細分化して所属・部門ごとの健康状態(健診結果、ストレスチェック、健康づくり活動参加、医療費等のデータ)をフィードバックしています。各組織長は、通信簿の結果を踏まえ、人事部門や医療関係のスタッフとともに健康課題に関するディスカッションを行い、健康意識の醸成、職場環境の整備につなげます。

──eラーニングの充実で知識醸成し 行動変容を促す

東さん ▶

 このほか、力を入れて取り組んでいる主な施策として、女性の健康に関する取り組み、禁煙対策、仕事と治療の両立、「頭痛プロジェクト」があります。

 女性の健康に関する取り組みについては、イントラネット内に「女性の健康ポータルサイト」を開設し、さまざまな情報を提供するとともに、毎年10月のピンクリボンデー、3月の女性の健康週間に合わせて、全社的なセミナーを開催しています。また、育児休職からの復帰直後の社員および育児中社員を部下に持つ上司を対象とした、育児と仕事の両立に関するセミナーにおいても、女性特有の健康について取り上げています。

 さらに、婦人科健診(子宮頸がん、乳がん検診)は、女性社員全員を対象として、自己負担なしで受診することができます。1986年から取り組みを開始しましたが、会社の法定健康診断とセットでの受診や、契約医療機関での受診、かかりつけ医での受診など受診方法も選択可能となっており、受診機会の拡充、さらなる受診率向上に努めているところです。

 禁煙については、1998年に社内の分煙化、2009年に喫煙室の集約化を行い、2013年に建屋内禁煙、2020年に事業所内禁煙とするなど、世の中の流れよりも先行して取り組みを進めてきました。2018年からは、喫煙者本人への個別支援・教育のみならず、より集団的なアプローチとして、喫煙者と非喫煙者がチームとなって禁煙に取り組む「みんなで禁煙チャレンジ」を行うようになりました。この取り組みには、合計で1000人程度の方が参加し、700人以上の方が禁煙に成功しています。

 仕事と治療の両立支援については、「きちんと治療して治してから仕事に復帰する」ことを基本的な考え方として、3年程度までは治療に時間をかけられるなど、安心してお休みできる環境を整備するとともに、フレックスタイム制やテレワーク(在宅勤務含む)、短時間勤務等を利用しながら柔軟な就労ができるようにしています。

 「頭痛プロジェクト」については、頭痛がプレゼンティーズムとアブセンティーズムに大きな影響を及ぼすものであることから、全従業員に対して「頭痛」に関するeラーニング、希望者への頭痛専門医による頭痛相談を行いました。その取り組みが評価され、2022年3月に国際頭痛学会の患者支援連合から、世界で初めて頭痛対策プログラムの世界的リーダー企業として認定を受けました。

──従業員の多様なデータを活用し 有効な施策を検討

鱸さん ▶

 今後の健康施策においては、データに基づく分析を行うことで実態を把握し、そのうえで改善につなげるというような施策の展開を図りたいと考えています。また、当社は国内だけでも従業員が8万人以上おり、幅広い年齢層で構成されていることから、これらの方々の健康データだけではなく、周辺の働き方やエンゲージメントなどさまざまなデータを活用していきたいです。さらに、そのデータを当社の健康経営施策に役立てるだけでなく、広く社会に役立つソリューションの開発に寄与していくことが重要であると考えています。


富士通健康保険組合
常務理事 板倉 和寿 さん

板倉さん ▶

 本年4月に健保組合の常務理事に着任しましたが、健康経営について、個々人が自律的に健康施策に取り組めるような環境づくりを進めていきたいと考えています。

 また、健保組合においても、従業員だけでなく、被扶養者や特例退職被保険者も含めたさまざまな年齢層のデータを活用し、データドリブンで有効な施策について考え、その結果を社会と共有していきたいです。

健康コラム
KENKO-column