健保ニュース
健保ニュース 2026年9月中旬号
宮崎保険局長インタビュー
健保組合の保健事業に期待
取り組みへの支援も検討
厚生労働省の宮崎敦文保険局長は2日、専門誌記者の合同取材に応じ、就任の抱負などを語った。健保組合が事業主と連携して取り組むコラボヘルスなど予防・健康づくりに期待を寄せるとともに、「支援しなければならない」と述べた。
5月に成立した改正健康保険法に盛り込まれたOTC類似薬の一部保険外療養の仕組みについては、来年3月の施行に向けた議論の最中だが、国民への周知広報や医療現場での準備の時間を確保するため、「9月中を目途に成案を得るようなスピード感で進めていきたい」と意気込んだ。
出産の新たな給付の水準などの検討は、妊婦の経済的負担軽減と保険料負担、医療機関の経営などを考慮し、「コンセンサスを得る作業だ」と述べた。10月に検討会を立ち上げ、年内の取りまとめを目指す。〈インタビューの概要は次の通り〉
─就任にあたっての抱負
6年ぶりに保険局に戻ってきた。この数年間の医療保険制度や保険局をめぐる様々な議論を見てきた。今年5月の改正健康保険法の成立で、一通りその方向づけができた部分もあるが、これから議論が必要な部分もある。いずれにしても課題が山積しており、非常に重い責任を感じる。身の引き締まる思いだ。
医療保険制度は国民の生活や社会構造の重要なインフラの一つだ。世界に誇る国民皆保険制度を将来にわたり安定的なものにしていけるように、今の仕組みを大事にしつつ、変えるところは変える。しっかりと取り組みたい。
─保険財政の健全化への対応
(健保組合)
健保組合は高齢者医療への支援金が増加傾向にあり、これが非常に(重い)負担になっている。その中で、各健保組合は様々な工夫をしながら財政運営をしていると認識している。
協会けんぽが平均保険料率を引き下げたことで、財政運営や財政状況が脆弱な健保組合にどのような影響が出るか見る必要がある。そうしたことも踏まえ、本年度の予算では、財政基盤の弱い健保組合に対する支援を盛り込んだ。こうした支援策も含め、状況をよく聞きながら、必要な対応を考えたい。
また、健保組合はコラボヘルスなどに取り組んでいる。財政運営にどの程度影響があるかは、それぞれ異なると思うが、こうした予防・健康づくりに対する、それぞれの保険者の取り組みにも期待している。それに対する支援をしなければならないと考えている。
(協会けんぽ)
協会けんぽは、保険料収入が堅調に推移していることや健全な財政運営が続いていることも踏まえ、今年度、34年ぶりに平均保険料率を引き下げた。
また、改正健保法では、国庫補助の特例減額の減額幅をさらに拡大する時限的な措置が講じられた。中長期的には、被用者保険の全体的な構造として様々な課題があると承知しているが、足元では健全に推移していることを踏まえ、このような措置が取られたと認識している。引き続き、健全な財政運営が続くよう、必要な支援を着実にしなければならない。
同じく改正健保法では、協会けんぽにさらに積極的に予防・健康づくりの取り組みを推進してもらうため、法律上の責任規定を設けた。各都道府県での様々な取り組みがさらに進むと期待している。
(後期高齢者医療制度)
後期高齢者医療制度については、高齢化を背景に、医療給付費が大幅に増加している。それを支える現役世代の保険料の負担が増加する中で、後期高齢者医療制度のあり方が問われている。社会保障制度を持続可能なものにしていくために、全世代型社会保障の観点からどう見直すかについて、引き続き議論する必要がある。
改正健保法で、上場株式の配当や金融所得を、窓口負担割合の判定や保険料の算定に公平に反映させる仕組みを導入した。施行は少し先だが、システム対応や難しい課題もあるため、議論していく。
(国民健康保険)
国民健康保険は▽被保険者の年齢構成がより高くなっている▽所得水準の低い被保険者が多い▽小規模な保険者が多い──という構造的な問題がある。
そのため、給付費の5割を公費で負担する、あるいは低所得者への保険料軽減措置を設け、公費を投入するなどの措置を講じている。
被保険者間の受益と負担の公平を図るという観点から、その保険料水準の統一に向けた取り組みを加速させなければならない。各市町村でも人手不足が深刻化している中で、どのように運営していくかが課題になっており、事務の標準化や広域化、効率化を進めていくことが重要だ。そのために、様々な支援をしていきたい。
─ OTC類似薬の一部保険外療養の施行に向けた対応
来年3月の施行を念頭に準備を進めている。実施に向けては、がんや難病の患者など、この制度の実施に懸念や関心がある人などから意見を聞き、法改正の過程でこうした方々について、引き続き必要な医療を確保する観点から、別途の負担の対象外にする。具体的な配慮の範囲は、6月以降、有識者の検討会で議論し、8月6日に取りまとめられた。
この中間取りまとめを踏まえ、制度の具体的な仕組みについて秋に結論を得るべく、医療保険部会と中医協で精力的に議論を進めてもらっている。
現場の皆さんから、できるだけ周知期間、準備期間を確保してほしいという強い声が寄せられているので、9月中を目途に成案を得るようなスピード感で進めていきたい。
いずれにしても、本制度を円滑に施行することが重要で、そのためには実際に負担する国民や、医療現場、薬局など関係者の理解が不可欠だ。議論は加速していくが、それぞれの検討過程で関係者の意見を丁寧に聞きながら、円滑に施行できるように工夫したい。わかりやすい資材の作成や一定のシミュレーションを行うことなどが考えられるが、具体的に何ができるか相談しながら、できることに取り組みたい。
─ 改正健保法の考慮措置を踏まえた高額療養費制度見直しの対応
今回の高額療養費制度の見直しは、今年の8月と来年8月に、段階的に施行する。様々な議論があったが、長期療養者への配慮という観点から、多数回該当の据え置きや年間上限の創設など、セーフティーネット機能の強化も併せて行った。その意味では、改正法で法律上明確化された長期療養者の家計への影響の考慮を、今回の見直しの中でも体現したと考えている。
加えて、改正健保法の附帯決議では、見直しによる長期療養者や低所得者も含めた実際の受診行動の変化を検証することが盛り込まれたため、施行状況を丁寧に見る必要がある。
将来、さらなる制度改正を検討する場合にも当然、(今回の)改正健保法を踏まえて検討することになるが、まずは、今回の見直しを着実に実施し、その影響の検証に丁寧に対応することが重要だ。
─ 妊娠、出産に対する支援の強化の施行に向けた今後の進め方
出産、子育て世帯の経済的な負担を軽減し、その上で、地域で安心して出産できる医療提供体制を確保することが、今回の見直しの目的だ。この目的が果たされるよう、関係者の意見を丁寧に聞きながら、施行に向けた検討を進めていく必要がある。
施行に向けては、給付水準の具体的な設定や、出産に係る診療やケアの中身、体制などの設定、施設基準などの設定、「出産なび」を通じた見える化の推進、妊婦の皆さんや医療機関への周知など、かなり多岐にわたって議論して決めた上で、準備を進めることが必要だ。
こうした内容について、10月から検討会を開催し、12月頃までに取りまとめることを予定している。
今回の見直しで、それぞれの分娩機関では、新制度に移るか、現行の仕組みのままにするかを選択することになる。各分娩機関が選択し、その情報をもとに、妊婦がどこで産むか決めることになる。そういう意味では、施行までに一定の周知や準備の期間がどうしても必要だ。システム改修も必要になる可能性があり、給付水準や施設基準などを早期に、丁寧に周知していくことが重要だ。
法律上の施行は公布後2年以内なので令和10年6月が期限になるが、準備が整えば、できるだけ早く施行したい。一方で、給付水準などを決めてから施行までに(周知、準備など)一定の期間を置かなければならないので、状況を見極めて取り組みたい。
いずれにしても、妊婦や出産・子育て世帯の経済的な負担軽減と地域で安心して出産できる医療提供体制を公的医療保険の枠組みで作ることになる。
保険料負担との兼ね合いがある一方で、妊産婦やその家族が不安に思うような水準にはできない。医療機関の経営が成り立たないような水準にすることももちろんできない。こうした点をよく議論しながら、コンセンサスを得る作業だと考えている。
─ 高齢者の窓口負担の見直しについて、年内に結論を得るための対応
自民党と日本維新の会との「社会保障改革項目に関する具体的な骨子」や骨太の方針には、高齢者医療の窓口負担について、年齢によらない真に公平な応能負担を実現する観点から見直すとして、その改革工程表を年内に策定すると記載されている。そのための議論に応えられるように、データを整理して出していく必要がある。
秋以降の政党間の協議を見ながら、並行して進めていくことになる。その中で、得られた結論に沿って、必要に応じて対応する。現時点で詳細なスケジュールは持ち合わせていないが、関係審議会でもしっかり議論してもらえるように準備したい。
─ 経済、物価動向を踏まえた診療報酬の調整への対応
8年度診療報酬改定で、30年ぶりに3%を上回る改定率を確保した上で、物価対応料という物価高騰に対応する仕組みを新設した。賃上げや処遇改善のためのベースアップ評価料も含め、8、9年度で階段状に引き上げる新しい仕組みを導入した。昨年末の段階で2年間の物価変動を完璧に見通すことはできないため、今後の経済、物価動向が大きく変動して、経営状況に支障が生じた場合には、加減算を含む必要な調整を行うという規定も入れている。
この調整をどうするかが今後の焦点になるが、まずは6月の改定後の状況が反映される6~9月を調査期間とする臨時の経営実態調査を行う。調査を通じて経済、物価動向や医療機関の足元の経営実態を把握して、適切に対応する。様々な声を聞いているが、調査結果を見ないとわからないことだと思う。
─ 骨太の方針などで示された社会保障負担率の目標設定
高齢者人口の増加は落ち着いてきた一方、新しい医薬品や医療機器が出ており、医療の高度化は毎年続く。必要な医療の費用を給付できなくなってはいけないし、現役世代を中心とした保険料負担軽減のニーズにも応えなければならない。
社会保障負担率の分母になる経済(国民所得)が縮小した場合、医療もそれにあわせて縮小していいのかという懸念もある。関係部局と連携し、データを見ながら目標の取り扱いを議論しなければならない。
─ 保険者が取り組む保健事業の推進策
NDBとの連携で、データが集まってきた。医療DXも進んでいる。データヘルスやコラボヘルスは、今まで以上に推進しなければならない。それだけの基盤が整いつつあるので、関係部局と連携しながら進めたい。