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健保ニュース 2022年12月中旬号

前期・報酬調整の部分的導入案
健保は年450億円超の負担増
佐野副会長 削減公費は現役負担軽減に

厚生労働省は1日の社会保障審議会医療保険部会(田辺国昭部会長)に、次期医療保険制度改革に向けた被用者保険者間の格差是正策を提案した。負担能力に応じた仕組みを強化し、前期高齢者の給付費に対する現行の「加入者数に応じた調整」に加え、部分的に「報酬水準に応じた調整」を令和6年度から導入。健保組合の前期納付金等への影響額は年450~890億円増加する一方、公費は年970~1940億円減少する。健保連の佐野雅宏副会長は、今回の改革で減少する公費全額を現役世代の負担軽減に充てるべきと強調。少なくとも全体として健保組合の負担が減少する改革でないと、健保組合、事業主、加入者の納得は得られないと訴えた。

社保審医療保険部会は、前回10月28日に引き続き、被用者保険者間の格差是正をテーマに議論を進めた。

健保組合の令和3年度の平均保険料率は9.2%で、平成23年度と比較し1.2ポイント上昇。また、協会けんぽの平均保険料率以上の健保組合は、平成23年度の105組合(全組合の7%)に対し、令和3年度は307組合(全組合の22%)に増えている。

他方、小規模組合など前期高齢者数が少ない保険者間では、前期1人当たり給付費額に大きなバラツキが存在。小規模組合では、前期高齢者納付金額が年度毎に大きく変動している状況が明らかになっている。

厚生労働省は、健保組合間の保険料負担を公平にするため、被用者保険における負担能力に応じた仕組みを強化し、現行の前期高齢者給付費に対する「加入者数に応じた調整」に加え、部分的に「報酬水準に応じた調整」を6年度から導入する見直しを提案。

合わせて、前期高齢者納付金の変動を抑え、財政的安定を確保する観点から、前期財政調整における前期高齢者納付金の計算で、複数年平均給付費を新たに用いる対応も打ち出した。

さらに、これらの見直しと合わせ、現役世代の負担をできる限り抑制し、企業の賃上げ努力を促進する形で、既存の支援を見直すとともに、さらなる支援を行う方向性を明示した。

前期高齢者給付費の「報酬水準に応じた調整」は、現行の「加入者数に応じた調整」に「被用者平均に対する当該保険者の加入者1人当たり総報酬」を部分的に乗じる。報酬水準が高い健保組合は納付金が増大する一方、報酬水準が低い健保組合や協会けんぽは納付金が減少。報酬調整について厚労省は、「1/4」、「1/3」、「1/2」の3つのケースを提案した。

複数年平均給付費は、前期高齢者納付金の計算で使用する前期高齢者1人当たり給付費の対象期間を、「当該年度」から「3年平均」に変更。新設保険者等で給付費が3年に満たない場合、満たない給付費の平均(新設2年目の場合は2年分の調整対象給付費を2で除す)を使用する。

被用者保険者に関わる調整の枠組みである▽拠出金負担に対する負担調整・特別負担調整▽健保組合間の交付金交付事業▽高齢者医療運営円滑化等補助金─については、企業の賃上げ努力を促進する形で、さらなる支援を行う。

前期高齢者給付費に対する「報酬水準に応じた調整」を部分的に導入した場合、健保組合における令和6年度の前期納付金等への影響額は、「1/4報酬調整」で450億円増、「1/3報酬調整」で600億円増、「1/2報酬調整」で890億円増にそれぞれ負担が増大する。

これに対し、協会けんぽにおける6年度の前期納付金等への影響額は、▽1/4報酬調整730億円減▽1/3報酬調整970億円減▽1/2報酬調整1450億円減─に負担が減少。

ただし、報酬調整の導入部分にかかる協会けんぽへの国庫補助の廃止で、国費は▽同970億円減▽同1290億円減▽同1940億円減─に減少する反面、協会けんぽの保険料への影響額は▽同240億円増▽同320億円増▽同480億円増─に増加することとなる。

健保連の佐野雅宏副会長は、田辺部会長宛てに提出した「医療保険制度改革に向けた被用者保険関係5団体の意見」を説明したうえで、「被用者保険者間の格差是正は現役世代内の見直しであり、負担軽減を前提とした調整とすべき」と強く訴えた。

11月17日の同部会で提案された高齢者負担率の見直しに伴う健保組合における負担減少額290億円に対し、今回の被用者保険者間の格差是正に伴う健保組合の負担は、最も影響の少ない4分の1報酬調整でも450億円増加すると指摘。

仮に、報酬調整部分の割合を上げれば、さらに負担増が膨らむ内容で、今回の改革の趣旨に合わないことは明白と問題視した。

さらに、「公費負担は4分の1報酬調整でも970億円減少するなど、健保組合における負担増の倍以上に公費が大きく減少する内容」と断じ、「被用者保険者間での格差是正を何のために行うのか、全く理解できない」と批判。

今回の改革目的を改めて考えざるを得ないとの認識を示し、「見直しで減少する公費は、改革の趣旨を踏まえ、国庫負担の肩代わりとならないよう、必ず全額を現役世代の負担軽減に充てるべき」と強調した。

仮に、報酬調整を行う場合、報酬調整部分の割合を極力小さくするのは当然としたうえで、「健保組合に対する支援策を充実、強化し、少なくとも全体として健保組合の負担が減少する改革であることを明確にしないと、健保組合、事業主、加入者の納得は決して得られない」との考えを示した。

現役並み所得の判断基準
見直しなど検討を継続

このほか、厚生労働省は、「骨太方針・改革工程表におけるその他の検討事項」を整理し、この日の医療保険部会で説明した。

このなかで、後期高齢者の「現役並み所得の判断基準の見直し」については、▽現役並み所得者への医療給付費には公費負担がないため、判断基準や基準額の見直しに伴い、現役世代の負担が増加することに留意する必要がある─などの理由から、引き続き検討する意向を示した。

また、「負担への金融資産・所得の反映のあり方」は、▽すべての預貯金口座に付番はなされておらず、負債を把握することも困難▽株や債券の譲渡、配当の金融所得の情報把握─などの課題や、金融所得に対する税制のあり方も踏まえつつ、検討することとした。

「現役並み所得の判断基準の見直し」について、健保連の佐野雅宏副会長は、現役世代に4000億円を超える過重な負担を課している現役並み所得の後期高齢者にかかる医療給付費に公費を投入したうえで、判断基準を見直すべきとの考えを示した。

袖井孝子委員(NPO法人高齢社会をよくする女性の会副理事長)は、現役並み所得の後期高齢者にかかる医療給付費に公費が投入されていないことを疑問視し、「この際、後期高齢者医療制度自体の見直しを提案したい」と言及した。

「負担への金融資産・所得の反映のあり方」については、佐野副会長が、「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心から、負担能力に応じた公平に支え合う仕組みへの見直しに資する内容」と評価し、正確な捕捉のためにもマイナンバーカードの活用を含め金融資産の勘案に関する具体的な制度設計を検討するよう求めた。

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