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健保ニュース 2019年7月中旬号

協会けんぽ30年度決算見込み
黒字額は過去最大の6千億円
準備金3兆円迫るも先行き懸念

全国健康保険協会(安藤伸樹理事長)は5日、協会けんぽの平成30年度医療分決算見込みを発表した。単年度収支は前年度から1462億円改善し、5948億円の黒字だった。保険料率を全国平均10%に据え置くなか、被保険者数と標準報酬月額の伸びを受け、収入が3977億円増えた一方、診療報酬のマイナス改定で保険給付費の伸びが抑えられたことに加え、一時的な好材料が重なり拠出金がヨコバイで推移し、支出が2515億円増にとどまった。準備金残残高は義務的経費の3.8か月分に相当する2兆8521億円に達した。

単年度黒字は9年連続で、30年度は同協会による保険運営が始まった20年度以降で黒字幅が最も大きかった。

収入は、保険料9兆1429億円、国庫補助等1兆1850億円など総額10兆3461億円だった。

被保険者数は、日本年金機構による未適用事業所対策や短時間労働者への被用者保険の適用拡大を背景に、前年度比2.7%増の2361万人となった。日本年金機構が従業員の多い未適用事業所への加入勧奨を優先したため、29年半ばまで被保険者数が急激に増えた後、伸び率が鈍化して一服感はあるが、事業所の適用促進が続き、被保険者数の増加基調を維持した。

平均標準報酬月額は同1.2%増の28万8475円で、6年連続の上昇によってリーマンショック前の賃金水準を超え、伸び率が20年度以降で最高となった。

国庫補助等は、超過準備金の特例措置で140億円が減額されたものの、公費負担の対象となる保険給付費の増加に伴い同4.5%伸びた。

支出は、保険給付費6兆16億円、拠出金等3兆4992億円など総額9兆7513億円だった。

加入者数は同1.6%増の3920万人で、伸び率が被保険者数ほどでなかったことから、扶養率は0.018ポイント低下して0.660となった。加入者1人当たり保険給付費は同1.7%増の15万3091円で、このうち医療給付費が同1.8%増の13万8851円だった。診療報酬マイナス改定のほかに、前年度の途中に入院時の食費・居住費負担や高額療養費制度を見直した影響が通年度化したが、効果は限定的で、1人当たり給付費が前年度とほぼ同程度伸び、保険給付費が全体で同3.3%増加した。

拠出金等は、前期高齢者納付金が同1.5%減の1兆5268億円、後期高齢者支援金が同6.3%増の1兆9516億円、退職者給付拠出金が同80.5%減の208億円で、全体で同0.2%増にとどまった。30年度の高齢者医療費に充てる概算納付分は同1.0%増の3兆5141億円となった。診療報酬マイナス改定が影響したほか、新規適用を停止して廃止に向かう退職者拠出金の大幅な縮小が主な要因となり、後期支援金の増加を吸収した。さらに、2年前の概算納付から戻り精算が多かったことも、拠出金等の伸びを抑制した。前期納付金分で289億円の追徴が生じたが、後期支援金分315億円と退職者拠出金分123億円が過払いで、差し引き149億円の負担軽減につながった。

拠出金等が支出に占める割合は、同0.09ポイント減の35.9%となった。収支均衡保険料率は9.34%で、予算編成時に想定した9.50%を下回った。こうした堅調ぶりは、財政規模の大型化が影響している側面があり、1人当たり医療費の伸びが賃金の伸びを上回る「ワニの口」と呼ばれる赤字構造は解消されていない。自律的な運営の足かせとなる後期高齢者支援金も、29年度まで3年間は総報酬割の段階的拡大によって伸びが緩和されたが、すでに効果が消え、さらに3年後からは団塊の世代が75歳以上になり始めるのに伴い、急激な負担増が続く見通し。

同協会の藤井康弘理事は、「中長期的視点に立てば、とても楽観視できる状況にない。医療費適正化のために、後発医薬品の使用促進や保健事業などをさらに拡充するとともに、制度改正に向けた意見を発信していきたい」と話す。

同協会の推計によると、これから賃金が伸びなければ、4年後の令和5年度に単年度収支が赤字に転落し、10年後に準備残高が法定水準である義務的経費の1か月分を割り込む見込み。賃金が年0.6%ずつ伸び続けても、5年後には単年度赤字に陥る。前身の政府管掌健康保険では、バブル崩壊直後の平成4年度に準備金残高が義務的経費の3.9か月分と、今と似た水準だったにもかかわらず、10年間で枯渇した前例がある。

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