健保ニュース
健保ニュース 2026年6月上旬号
健康と経営を考える会 シンポジウム
心不全など
循環器疾患対策を議論
健康と経営を考える会(代表理事・髙谷典秀同友会理事長、山本雄士ミナケア取締役)は5月21日、都内で第12回シンポジウム「働き盛りを守る『攻めの健康経営』─職域における循環器疾患・がん対策を徹底討論─」を開催した。二部構成の第一部は心不全などの循環器疾患対策をテーマに、基調講演とパネルディスカッションを行った。
山本氏は開会あいさつで、シンポジウムを通じ、「予防と治療、医療をつなげるのが重要だが、それに対する国の姿勢や取り組みも知ってほしい」と述べた。
来賓あいさつでは、厚生労働省保険局長の間隆一郎氏に代わり出席した同保険課長補佐の宮下彩乃氏が、日本が人口減少と高齢化により従業員の平均年齢が上がり、健康リスクの増加や生産性低下などの構造的な課題に直面していると説明し、「特に働き盛り世代の循環器疾患やがんは、従業員本人だけでなく、企業活動や社会経済全体にも大きな影響を及ぼす重要な課題だ」と指摘した。
その上で、早期発見と重症化予防を含めた予防・健康づくりの取り組みが企業経営にとっても重要だと強調した。
また、今国会での健保法等改正案に、協会けんぽが取り組む予防・健康づくりを後押しする規定が盛り込まれたことに触れ、「今後、中小企業でも従業員の健康保持、増進の取り組みが一層進み、人材の定着や企業価値の向上につながることを期待している」と述べた。
続いてあいさつした経済産業省の井上博雄商務・サービス審議官は、「攻めの予防医療」を推進するため、経産省が企業や保険者の健康投資の拡大に向け、「需要と供給の両面から対策する必要がある」と説明した。
需要面では、企業と保険者の健康投資へのインセンティブをさらに強化する観点から、健康経営に取り組む企業に投資家から資金を呼び込むための情報開示指針の策定や、中小企業の取り組みを後押しするための自治体や商工会議所と連携したサポート体制の強化を挙げた。後期高齢者支援金の加算・減算制度の重要性もさらに高まるとした。
供給面では、AIやデータ活用を基盤に、「エビデンスが明確化された、効果的なヘルスケアサービスの創出を一層後押ししたい」などと語った。
第一部の基調講演では、国際医療福祉大大学院教授の小室一成氏が、循環器疾患の中でも特に心不全を中心に予防の重要性を説いた。
小室氏は高齢になるほど心疾患や脳血管疾患などの循環器疾患のリスクが増大するし、高齢化に伴いさらに循環器疾患の患者が増え続けると説明した。中でも心不全による死亡数が最も多く、世界的にも患者数が急増しているとした。
また、心不全の予防、啓発のため、令和3年に設立した日本循環器協会による患者や企業、Jリーグなどの団体と連携した活動を紹介し、「心不全は予防できることを一人でも多くの人に知ってほしい」と強調した。
講演後のパネルディスカッションには、小室氏、宮下氏、経済産業省商務・サービスグループヘルスケア産業課長の福田光紀氏、Keep Health代表取締役で産業医の川島恵美氏が登壇。代表理事の髙谷氏がモデレーターを務めた。
宮下氏は、レセプトや健診などのデータを保有している健保組合が、「まだ発展途上の予防医療の一つの実施主体として期待されている」と強調した。
また、保健事業は加入事業所の関心やヘルスケア事業者との連携が欠かせないと説明し、「働き盛り世代の循環器疾患対策は、医療費適正化だけでなく、生産性や人的資本の観点を取り入れることで、より連携しやすくなるのではないか」と指摘した。
このほか、厚労省の取り組みとして、よりアウトカムを重視するPFS(成果連動型民間委託契約方式)事業の補助などを紹介し、「今後は企業、保険者、医療機関、民間事業者がそれぞれの強みを生かしながら連携することがますます重要になるので、支援体制を強化したい」と語った。
福田氏は、循環器疾患が生活習慣に大きな影響を受けるとして、運動や食事、睡眠などのライフログデータを取得、活用することで、「医療や介護を効率化しつつ、健康増進につなげることが重要だ」と述べた。
川島氏は循環器疾患の要因の一つである高血圧について、職域での対策は「健診後が本番だ」と強調した。
職域健診で高血圧だと指摘されても、医療機関の受診や治療につながりにくいと説明し、健診結果を受けて受診した行動そのものを評価することを提案。医師から「よく受診してくれましたね」の一言や、「このままではまずいですよ」といった厳しい保健指導があると、産業医の継続支援が進みやすくなるとし、「小さな部分の連携が職域の循環器対策を前に進める」と語った。
パネリストの発言を受け髙谷氏は、保険診療上の治療と就労の両立のための支援に、心疾患などの循環器疾患が追加されたことを紹介し、「これからは単に血圧だけでなく、疾病レベルで循環器疾患に企業が対応する時代になるだろう」と展望を述べて締めくくった。
健康経営シンポ第二部
職域でのがん予防対策を討論
健康と経営を考える会の第12回シンポジウムの第二部では、職域でのがん対策について議論した。がんは生活習慣の改善で予防できるとして、喫煙対策などについて意見を交わした。
冒頭、国立がん研究センターがん対策研究所長の松岡豊氏が「健康経営の鍵を握る『がん対策』─働く世代を守る科学と、明日からの実践─」と題し基調講演し、がんの予防と検診について説いた。
松岡氏は、がんが我が国の死因第1位で、全体の3割を占めることや、年間約100万人が罹患することなどから、「健康経営において、がん予防とがん検診の意義は大きい」と強調した。
日本人のがんの36%(男性43%、女性25%)は、避けられる・予防できる要因で起こるという調査結果を示し、科学的根拠に基づく予防法として、▽喫煙=たばこを吸わない、受動喫煙防止▽飲酒=飲酒を控える▽食事=偏らずバランスよく取る▽身体活動=日常生活を活動的に▽体系=BMI21~25の適正な範囲内に──を挙げた。
また、これらの予防法を2つ実践すると、がんのリスクを14%下げることができるという調査結果を示した。同じく、5つすべて実践すると、男性で43%、女性で37%リスクを下げられるとし、「これを放置することは、企業成長エンジンの4割をリスクにさらすことと同じではないか」と訴えた。
がん検診については、アセスメント(有効性が確立し、不利益とのバランスを鑑みて推奨された検診の実施)、マネジメント(徹底した精度管理)、受診規模拡大(受診率向上対策)の3つが死亡率減少のための柱だとし、推奨された検診を正しく実施する必要があると説明した。
パネルディスカッションには、松岡氏のほか、シンクパール代表理事の難波美智代氏、厚生労働省健康・生活衛生局がん・疾病対策課長の鶴田真也氏、経済産業省商務・サービスグループヘルスケア産業課長の福田光紀氏が登壇。同会代表理事の山本雄士氏がモデレーターを務めた。
鶴田氏はがんの予防やがん種別の精密検査受診勧奨のためのリーフレットを紹介し、参加者に活用を促した。
説明を受けた山本氏は、厚労省が今年2月、健保組合など保険者に宛てて、要精密検査者への受診勧奨や再勧奨を積極的に行うよう求める事務連絡を発出したことを紹介し、保険者の取り組みが「大事なポイントになる」と指摘した。
難波氏は企業のがん対策をより最適化するには、▽経営トップがやる気になる▽現場がやることを明確にする▽病気などで困ったときに助け合うお互い様の文化を醸成する──の3つをポイントに挙げ、「健康経営推進の課題とほぼ合致する」と指摘した。
福田氏は令和7年度の健康経営度調査で、大規模法人部門ではがん検診などの任意健診の促進への取り組みが、大規模・中小規模法人部門の両方でがんなどの私病を持つ従業員への仕事と治療の両立支援に関する取り組みが設問として設定されていることを紹介した。
山本氏は経営者自らが喫煙対策に取り組む重要性を強調した上で、「もし、経営トップがたばこを吸っていたら、どう止めさせるか」をパネリストに問いかけた。
これに対し、松岡氏は正しい情報発信と次世代への教育、福田氏はインセンティブを活用した取り組みを挙げた。鶴田氏は、事業を続けるため、喫煙者が少ない若い人が必要になるとした。難波氏は経済団体の力を借りて、トップが禁煙していないとうしろめたく感じる状況にするなどと提案した。
閉会にあたり、山本氏は「皆さんが学びを得て、『明日から改めて頑張ろう』と思ってもらえれば、会としてこれ以上のものはない」と述べ、健康経営に取り組む参加者にエールを送った。