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健保ニュース 2023年6月中旬号

健康と経営を考える会
健康経営をテーマにシンポジウム
中小企業へのアプローチが鍵

「健康と経営を考える会」(髙谷典秀・山本雄士代表理事)は5月23日、「健康経営の裾野を広げよう!」をテーマにシンポジウムを開催した。

第1部では、7年連続で健康経営優良法人ホワイト500に認定されているアクサ生命保険の安渕聖司代表取締役社長兼CEOが「アクサと健康経営の取り組み」と題して基調講演を行った。このなかで安渕氏は、社内での健康経営の取り組みや、社外への健康経営支援「健康経営アクサ式」について発表。健康経営は、会社の発展をめざすと同時に、従業員と家族のウェルビーイングにつながることが重要だと強調した。

第2部では、厚生労働省の水谷忠由保険局医療介護連携政策課長が「コラボヘルスのネクストステージ」をテーマに講演した。水谷課長は、オンライン資格確認等システムは医療DXの基盤であり、今後、医療保険者による資格管理が一層重要になると訴えた。また、令和6年度から開始する第4期特定健診・保健指導や第3期データヘルス計画の見直し内容に触れ、加入者の予防・健康づくりが進むよう、保険者の協力を求めた。

続いて、「健康経営のネクストステージ 裾野の広げ方」をテーマにしたパネルディスカッションでは、髙谷代表理事を司会に、厚労省の水谷課長、経済産業省の橋本泰輔商務情報政策局商務・サービスグループヘルスケア産業課長、丸の内の森レディースクリニックの宋美玄院長、ミナケアの山本雄士代表取締役社長、アクサ生命保険アクサMCVP推進本部HPM統括部HPM事業開発部副部長兼東京大学未来ビジョン研究センターデータヘルス研究ユニット客員研究員の村松賢治氏が参加して活発な意見が交わされた。

参加者からは、「日本の従業者の約7割が中小企業勤め。健康経営の裾野を広げるには、中小企業へのアプローチが鍵」、「健康経営のメリットを周知するとともに、コミュニティ同士の連携や事業者団体などの後押しも重要」などの意見が出された。(アクサ生命・安渕社長、厚生労働省・水谷課長の講演の要旨は以下のとおり。文責本誌)

健康経営は日本の発展に寄与
アクサ生命 安渕社長

社会的責任として、アクサ生命が取り組む3つのサステナビリティ戦略としては、①気候変動と環境②健康と病気予防③社会的不公正是正とインクルージョン─の3つがあり、そのうち、健康経営は②に該当する。当社のパーパス(存在意義)は「すべての人々のより良い未来のために。私たちはみなさんの大切なものを守ります。」だが、社内外で健康経営を推進する理由は、健康は人びとの最優先事項の1つであり、健康経営の取り組みはパーパスを体現するものだからだ。

当社では平成27年に健康宣言を行い、健康経営を経営戦略に組み込み、従業員の健康づくりの推進と生産性向上の両立に取り組み始めた。従業員に生活習慣アンケートを実施し、洗い出された4つの健康課題①運動不足②朝食欠食・副菜不足③睡眠不足・高ストレス④高喫煙率─に対して食事・運動・メンタルヘルス・がん対策を中心とした健康増進施策である「アクサ・ウェルネス・プログラム」を策定し、従業員のウェルビーイングを高める活動を開始した。これにより▽ヘルスリテラシーの向上を目的に、統括産業医による健康教室を毎月開催▽チーム対抗によるウオーキングイベントを定期的に開催▽健康づくりの好事例に社内表彰制度を導入─などを実施し、従業員自らが健康状態に向き合い、主体的に健康増進に取り組む機会とサポートを提供している。

アクサ生命の健康経営の推進体制は、CEOがCHOを兼務し、人事部門・統括産業医、健保組合など各部門と全社横断的なコラボヘルスを行っている。また、全管理職を健康推進マネージャーに任命し、全従業員に対して「アクサ・ウェルネス・プログラム」の実行可能な体制を敷いている。こうした取り組みは、健康経営優良法人ホワイト500に7年連続認定のほか、スポーツ庁のスポーツエールカンパニーに3年連続認定や、健康優良企業「金の認定」に4年連続で認定されるなど、社外評価につながっている。

一方、社外向け健康経営の取り組みとしては、平成26年から中小企業向けに健康経営の実践支援に着手している。中小企業は日本の企業の99.7%、雇用の70%を占めており、中小企業の発展なくして日本経済の持続的な発展はない。少子高齢化に伴う労働力不足と従業員の高齢化に悩む中小企業への支援は社会課題への貢献であり、こうした取り組みが持続的なビジネスの発展へつながる。

当社が展開する健康経営のあり方は「健康経営アクサ式」と呼ばれている。その柱は、①従業員とその家族のウェルビーイング②企業の持続的成長③持続可能な社会の構築に貢献すること─をめざすことだ。健康経営の実効性を高めるため、健康無関心層の行動変容には、①健康は人生の目的を実現するための必須の手段であると説く内発的動機付け②健康経営の推進を、会社の発展のためだけではなく従業員の健康と幸せを真に願っていると従業員に伝わる外発的動機付け─の2つのアプローチが有効とし、これらを取り入れた各種支援ツールを開発して顧客に展開している。

健康経営優良法人2023の認定法人のうち、大規模・中小規模法人部門を合わせ、当社のサポート先は約25%を占める。健康経営優良法人の認定は優秀な人材確保につながるなど、メリットは極めて大きい。今後も健康経営優良法人の認定取得をサポートしながら、従業員とその家族の健康と幸せ、企業の持続的成長そして持続可能な社会の構築に貢献することを追求していく。

健康経営アクサ式のめざす姿は、自治体や地域の公的機関がめざすことと合致するので、地域のステークホルダーとの連携も図っていきたい。

オン資システムは今後の医療DXの基盤
厚労省 水谷課長

今年改定された「地域における医療及び介護を総合的に確保するための基本的な方針」には、ポスト2025年の医療・介護提供体制の3本柱が示されている。その1つは、健康・医療・介護情報に関する安全・安心の情報基盤が整備されることにより、自らの情報を基に、適切な医療・介護を効果的・効率的に受けることができる。この基本的な考え方により、自分の健康・医療・介護情報の最新の状況が反映された質の高い形で、個人が電子的に一元的に管理できる。そして、マイナンバーカード1枚で受診でき、自らが同意したうえで、自分の情報を医療機関・薬局・介護事業者や保険者、民間事業者も含めた多様な主体が共有することで、より適切なサービスへとつなげていける、いわば情報のプラットフォームの構築が重要という方向性が示されている。

昨今、マイナンバーの誤登録が発生したが、保険者の正確な情報登録が基盤の第1歩だ。事業主から資格取得届などを提出いただく際にマイナンバーを記載いただければ、事務的な誤りは減っていく。国でもさまざまな追加的対策を打ち出しているが、事業主や保険者の協力なしには達成し得ないので、引き続きご協力いただきたい。

オンライン資格確認等システムは、今後の医療DXの基盤であると位置づけており、予防接種、電子処方箋、自治体検診、電子カルテなどの医療・介護のさまざまな情報が共有交換できる全国医療情報プラットフォームの構築構想を提示している。国民1人ひとりが健康・医療・介護情報にオーナーシップの意識を高め、自らが同意のうえ、多様な主体に適切に活用してもらうことで、個人の予防を推進し、良質な医療やケアを受けられるようにしていくことが今後の社会の方向性であり、情報の標準化や情報基盤の構築が必要だ。資格情報に健康・医療情報が結び付けられると、より正確・的確な資格確認が重要になってくる。保険者には、医療保険の資格確認という大変重要な責務をお願いする。

コラボヘルスについては、保険者と事業主が役割分担しながら加入者にアプローチしていくことが有効だ。例えば、健康リスクを階層化し、ハイリスク者には保険者が中心で、健康層も含めた比較的低リスク者にはポピュレーションアプローチとして事業主が中心で対応するといった方法で、これは現役世代からアプローチすることが重要だ。

特定健診・保健指導に関しては、令和6年度から始まる第4期の特定保健指導について、制度開始以来の大きな見直しをした。1つ目は、アウトカム評価の導入だ。支援の投入量を問わず、腹囲・体重減と行動変容の成果を評価する体系で、結果を重視した質の高い保健指導ができると期待している。2つ目は、特定保健指導の成果等について、見える化の推進だ。特定保健指導終了者の達成状況の内訳を集計し保険者にフィードバックすることで、保険者は取り組み内容を経年的に把握し分析できるようになり、より質の高い保健指導につながる。

特定健診の結果は、保険者からの随時提出と年1回の法定報告によりマイナポータルから確認可能だ。自身の情報をマイナポータルで確認でき、それをさらに医療現場で活用できる社会の実現のため、特定健診の結果を随時提出いただくのが望ましいが、実際は保険者全体で46.7%と、登録が進んでいない。加入者本人が自らの健診結果を速やかに閲覧できるよう、健診結果の受領から1か月以内に閲覧用ファイルを提出いただきたい。

データヘルス計画については、6年度から始まる第3期に向けた見直しを行った。これまで、共通評価指標の導入など、効率的・効果的なデータヘルスの普及に向けた取り組みを行ってきたが、さらなる普及に向け、NDBを用いて保険者の立ち位置をフィードバックするなど、積極的に後押しをしていく。

また、40歳未満の事業主健診情報は、事業者から保険者へ提供する仕組みが既に施行されているものの、保険者において事業主健診情報を活用して保健事業を行う方策が確立しているとはいえない状況だ。若年層へのコラボヘルスが進むよう、事業主健診結果の電子化の周知や活用事例を横展開するなど、取り組みを進めていく。

なお、4年度の調査研究事業で、保険者が保健事業を効果的に実施・継続できるような研修教材を取りまとめ、厚労省ホームページに掲載中だ。ぜひ活用していただきたい。

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