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健保ニュース 2023年6月中旬号

財政審が「骨太」反映へ「建議」
後期医療窓口負担を原則2割
診療介護報酬改定 引き上げ必要性に慎重論

財政制度等審議会(十倉雅和会長)は5月29日、政府が6月中旬に策定する「骨太方針2023」への反映に向け、少子化対策の安定財源確保の方向性など「歴史的転機における財政」に関する基本的考え方を提言した「建議」を取りまとめ、鈴木俊一財務相に提出した。医療・介護費用が高齢化で増加し、公費や保険料が増えているなか、年末の診療報酬・介護報酬の改定率を引き上げる必要性を慎重に議論すべきと指摘。医療は一定所得以上の後期高齢者に導入された窓口2割負担を原則2割負担とする改革を検討する必要があると訴えた。

財政制度等審議会の「建議」は、例年、春と秋の2回にわたり、財政健全化に向けた考え方や今後の財政運営、次年度の予算編成に関する考え方をまとめ、財務相に要請している。

「歴史的転機における財政」に関する基本的考え方を取りまとめた「春の建議」では、基本認識として、「少子化対策の財源負担をこれから生まれるこどもたちの世代に先送りすることは本末転倒」と問題提起。

そのうえで、全世代型社会保障の考え方に立ち、医療・介護など社会保障分野の歳出改革を断行するとともに、企業を含め、社会・経済の参加者全員が公平な立場で広く負担する新たな枠組みを検討することが必要と指摘し、歳出・歳入両面で、幅広い観点から検討を深めていくべきとの見方を示した。

歴史的転機とも言える今、全体最適の視点を持って、社会課題の解決、経済の成長力の強化、財政健全化の同時実現を追求していくことが必要と提言している。

各論では、「こども・高齢化等」について、「団塊の世代が75歳となる令和7年(2025年)までに改革を実行するには、事実上本年が最後のチャンスである」との認識を示し、全世代型社会保障制度を実現するため、医療・介護の改革議論を加速する必要があるとした。

各年度、医療・介護の費用が高齢化等に伴って増加し、5000~6000億円程度の公費、7000億円前後の保険料が増加しているなか、診療報酬・介護報酬を1%引き上げると、2500億円程度の公費、3000億円程度の保険料が増加することとなると指摘。

少子化対策で新たな財政需要が生じるなか、年末の改定に向けて、医療機関・介護施設の財務状況を見ながら、引き上げの必要性について慎重に議論を行うよう求めた。

少子化対策の財源
新たな枠組み検討

少子化対策のための財源のあり方については、将来世代へ負担を先送りするのでなく、社会全体で安定的に支えていく必要があるとし、歳出改革の取り組みを徹底しつつ、経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針2022)に沿って、企業を含め社会・経済の参加者全員が公平な立場で広く負担する新たな枠組みを検討し、結論を出すべきと提言した。

その際には、現在の持続的・構造的な賃上げの取り組みと整合的になるよう、真に必要な施策に重点化しつつ、「医療保険・介護保険制度を持続可能とする改革を継続することにより、現役世代等の保険料負担の増加を極力抑制する取り組みを行うことが重要になる」との見解を示した。

急性期一般入院料
10対1看護は廃止検討

医療については、質の高い効率的な医療提供体制の構築や給付と負担のバランスの確保のため、政府がイニシアティブを発揮しつつ、制度の不断の見直しを行っていく必要があるとの考えを示した。

昨年10月に一定所得以上の後期高齢者に導入された窓口2割負担について、「原則2割負担」とする改革を今後の課題に位置づけ、「前向きに検討される必要がある」と提言した。

他方、持続可能な医療制度に向けては、医療提供体制そのものを効果的・効率的なものとするため、▽病院の役割分担(地域医療構想)▽診療所等のかかりつけ医機能の確保・強化▽地域包括ケア─をあわせて進めていく必要があると主張。

地域医療構想の実現の必要性、進捗の遅さを踏まえれば、令和7年(2025年)以降の確実な目標実現を見据え、各医療機関に地域医療構想と整合的な対応を行うよう求めるなど、「もう一歩踏み込んだ法制的対応が必要」との認識を示した。

さらに、病床の役割分担を適切に進めるため、「7対1」といった看護配置に過度に依存した診療報酬体系から、患者の重症度、救急受入れ、手術などの実績をより反映した体系に転換していくべきと指摘。そのうえで、「10対1」といった看護配置を要件とする急性期一般入院料の廃止を検討するよう訴えた。

単価が高額な医薬品の収載が増え、さらに保険財政への影響が大きい医薬品が出てくることも想定されるなか、保険給付が今のままでは保険料や国庫負担の増大が避けられないと問題提起。

公的医療保険の役割は、▽高額な医薬品について費用対効果を見て保険対象とするか判断する▽医薬品の有用性が低いものは自己負担を増やす、あるいは、薬剤費の一定額までは自己負担とする─方向性が考えられ、早急な対応が必要と強調した。

医療機関の偏在について、「近年、総患者数は伸びていないが、診療所数は増加の一途をたどっている」と指摘したうえで、地域ごとに、病院・診療所間の役割分担を明確にしつつ、必要な医療人材を集中・確保していくことが求められるとの観点から、「もう一歩踏み込んだ規制が必要」と明記した。

その他の課題として、令和4年度の診療報酬改定率換算で▲0.1%(医療費470億円程度)と見込んでいたリフィル処方箋の導入・活用促進による医療費効率化効果を試算し、年間▲50億円程度(改定率換算で▲0.01%程度)にとどまると問題視。積極的な取り組みを行う保険者を各種インセンティブ措置で評価していくほか、リフィル処方箋による適正化効果が未達成である場合、年末の診療報酬改定で、その分を差し引く検討も必要とした。

賃金・物価高への対応については、コロナ補助金などにより積みあがっている多額の純資産を活用していくべきとの見方を示した。

介護・利用者負担
2割負担に範囲拡大

介護分野では、団塊世代が85歳以上となる10年後には介護費用が激増する一方、介護費用を支える保険料・公費負担の上昇、介護サービスを支える人材確保には限界があるとし、▽ICT機器の活用による人員配置の効率化▽協働化・大規模化による多様な人員配置▽給付の効率化、給付範囲の見直し─などの取り組みを着実に進めるべきとした。

給付と負担の見直しでは、現行で所得上位20%とされている介護保険の利用者2割負担の範囲拡大に対し、昨年10月から所得上位30%とされた後期高齢者医療制度における2割負担の導入を踏まえ、「ただちに結論を出す必要がある」と提言。

さらに、利用者負担を原則2割とすることや、現役世代並み所得(3割負担)等の判断基準を見直すことも検討していくべきとの考えを示した。

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