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健保ニュース 2021年6月上旬号

財政審が「骨太方針」反映へ建議
歳出改革を4年度から3年継続
医薬品 保険給付範囲見直し不可避

財政制度等審議会(榊原定征会長)は5月21日、政府が6月を目途に策定する「骨太方針2021」への反映に向け、令和4年度から3年間の歳出改革のあり方を提言した「財政健全化に向けた建議」を麻生太郎財務相に提出した。高齢化と現役世代の減少という構造的課題に新型コロナウイルス感染症が加わり、将来世代の負担がさらに増加するなか、社会保障制度の持続可能性を高める財政健全化の必要性を改めて強調。団塊世代が後期高齢者となる4年度から3年間は歳出目安を継続し、改革を実施するよう要望した。社会保障は受益と負担の不均衡を是正し、制度の持続可能性を確保する改革が急務と訴え、医薬品の保険給付範囲の見直しが不可避としたほか、病状が安定している患者を対象としたリフィル制度の導入や「かかりつけ医」普及に向けた診療報酬の包括化推進などの取り組みを強化していく必要があると提言した。

財政制度等審議会の「建議」は、例年、春と秋の2回にわたり、財政健全化に向けた考え方や今後の財政運営、次年度の予算編成に関する考え方をまとめ、財務相に要請している。

春の「建議」では、総論として、高齢化と現役世代の減少という構造的課題に直面するなか、新型コロナウイルス感染症が発生し、将来世代の負担はさらに増加していると問題提起。新型コロナへの対応や財政健全化の必要性、基盤強化期間後の歳出改革のあり方を提言した。

このうち、財政健全化の必要性は、高齢化の進展で社会保障の受益に負担が追いつかず、現役世代の保険料負担の増加や、将来不安に伴う消費抑制による経済の下押しという形でコストを生じさせていると指摘。

さらに、令和4年度から団塊世代が75歳以上の後期高齢者に移行し始め、社会保障費の急増が見込まれるなか、社会保障制度の持続可能性を高め、現役世代が希望を持てるようにすることは日本経済にとって「待ったなしの課題である」と強調した。

元年度から3年度に社会保障関係費の実質的な伸びを高齢化による増加分に収めてきた「基盤強化期間」後の歳出改革のあり方については、「社会保障の見直しは複数年度にわたって継続的・安定的に取り組む必要があり、一貫した改革努力が求められる」との考えを示した。

このため、後期高齢者の急増が続く4年度からの3年間、「基盤強化期間」の歳出目安を継続することにより、歳出改革を引き続き実施していくことを政府に対し強く要望した。

中長期の社会保障制度改革の工程表で優先順位を明確にしたうえで、KPI(重要業績評価指標)の設定による進捗管理を行い、個別の改革を実現して歳出改革を強化することも重要との考えを打ち出した。

歳出改革の実行に当たっては、社会保障の受益と負担のアンバランスの解消による社会保障制度の持続可能性の確保、将来世代への負担先送りの縮減といった視点に加え、日本経済の中長期的・持続的な成長力の強化に向けた視点も必要とした。

次期診療報酬改定 提供体制改革が必須
かかりつけ医普及へ包括化推進

社会保障の各論では、現行の公費に加え、保険料負担分も含む給付費水準も調整対象とするよう、規律を強化する必要があるとしたうえで、新たな「骨太方針」に盛り込まれるべき医療、介護、年金など各分野の具体的な改革の方向を示した。

医療分野では、効率的で質の高い医療提供体制の整備に向けて、緩やかなゲートキーパー機能を備えた、診療所における「かかりつけ医」を速やかに法制上明確化(制度化)するとともに、機能分化を進め、医療機関や患者の行動変容を促す方策を推進すべきと訴えた。

改革を進めるためには、診療報酬の役割が極めて重要と指摘し、医療機関・医療行為単位の全国一律の出来高払い制度を基調とする診療報酬制度を効率的で質の高い医療提供体制の実現に資する制度へと見直す必要があると問題提起。

入院診療の1日当たり包括払い(DPC)制度の見直しや、「かかりつけ医」普及のための包括化の推進などで、医療機関相互の役割分担や連携を評価・促進することを提言したほか、地域ごとの実情を反映できる診療報酬制度が必要との考えを示した。

地域ごとの実情を反映可能な診療報酬制度では、今後の課題に、▽1点単価に地域差を設ける対応▽1点単価を変えずに地方財政制度の基準財政需要同様に地域ごとに補正係数を乗ずる手法▽地域加算の拡大─を位置づけ、幅広い検討を求めた。

新型コロナの感染拡大により医療提供体制の課題が浮き彫りとなって迎える令和4年度の次期診療報酬改定は、「医療提供体制の改革なくして診療報酬改定なし」との観点から、制度設計を具体化するよう強調した。

一方、新型コロナ患者受け入れ病院に対する収入面への対応として、災害時の概算払いを参考に、前年同月ないし前々年同月水準のいずれか多い方の診療報酬を支払う簡便な手法の検討を要望。新型コロナに対応しない医療機関に講じてきた多額の支援は、目的および効果に遡った見直しが必要とした。

後期高齢者医療をさらに見直し
保険料負担の公平性も課題

全世代型社会保障改革の残された課題としては、後期高齢者医療のさらなる見直しを掲げた。高齢者の負担の公平を図る観点から、所得水準に応じた患者負担について、保有資産額の大きい高齢者が応分の負担となるよう、資産保有状況も勘案した負担のあり方の検討を求めた。

さらに、高齢化に伴う人口構成の変化を第1号被保険者の負担割合に反映させている介護保険制度を参考に後期高齢者の保険料負担割合を調整することで、医療費水準と後期高齢者の保険料水準の連動性を高めて医療費を適正化し、現役世代の負担増を抑制すべきとした。

他方、すべての世代が安心感と納得感を得られる全世代型の社会保障に転換していくためには保険料負担の公平を徹底する必要があると指摘した。

保険者間の合理的でない保険料負担の差の解消に努めていくべきとし、「健康保険組合のなかでも保険料率に大きな差があることに留意が必要である」と明記。保有資産額の大きい被保険者に応分の負担となるよう、資産保有状況も勘案した保険料負担のあり方の検討も求めた。

後発品促進 報酬上の評価見直し
4年度からリフィル制度導入

薬剤費の適正化に向けては、医薬品の価格が高額な状況も踏まえ、財政影響を勘案して新規医薬品の保険収載の可否を判断することや、新規医薬品を保険収載する場合には保険収載と既存医薬品の保険給付範囲・薬価の見直しとを財政中立で行うことを含め、保険適用された医薬品に対する財政規律のあり方を抜本的に見直し、正常化を図るべきと提言した。

新規医薬品の薬価算定は、「国民負担の増大を抑止するため徹底的に見直すべき」とし、開示度に応じた医薬品の算定薬価の厳格化といった行政改革推進会議による指摘の実現や、原価計算方式のさらなる適正化などを令和4年度の薬価改定で行うべきと問題提起。

原価計算方式は、他産業(製造業平均4%)に比べ高い営業利益率(15.5%)を薬価算定時に上乗せしている仕組みを問題視し、薬価に反映する営業利益水準を適正化すべきとした。

一方、医療の質を確保しつつ保険給付における薬剤費を抑制するためには、有用性・有効性に応じた医薬品の保険給付範囲の見直しが不可避であると強調し、▽OTC類似医薬品等を保険給付範囲から除外▽医薬品を保険収載したまま、薬剤の有用性、負担する薬剤費等に応じ保険給付範囲を縮小─する手法の検討を求めた。

特に、OTC類似薬は、▽オンライン診療・電話診療で処方されるケースが多い▽OTC置き換えによる医療費適正化効果が高い─ことなどを踏まえ、セルフメディケーションを進める観点からも、保険給付範囲からの除外や縮小などの適正化を検討すべきと明記した。

後発医薬品のさらなる使用促進に向けては、既に80%シェア達成目標を満たしている都道府県も多いことを踏まえ、使用促進のための診療報酬・調剤報酬上のインセンティブのあり方を4年度改定で見直す必要があるとした。

多剤・重複投薬、長期処方への対応は、医療費の適正化につながるのみならず、医療の質の改善につながり得るものであることを踏まえ、取り組みを強化するよう要望。診療報酬における多剤・重複処方は、減算措置の拡充を求めた。

長期処方は、依存性の強い向精神薬は抑制するなどのメリハリを付けつつ、患者の通院負担軽減や利便性向上の観点から、病状が安定している患者について、一定期間内の処方箋を繰り返し利用できるリフィル制度の導入を4年度から図るべきと盛り込んだ。

介護は利用者負担の拡大
年金は被用者適用を推進

介護分野では、介護保険制度の創設時から費用が増加し続け、今後、支え手の割合は減少する見込みのなか、制度の持続可能性を高めていく必要があると問題提起した。

このため、介護保険給付範囲の見直しに取り組み、令和6年度に開始する第9期介護保険事業計画期間からの実施を見据え、サービス利用者の負担を原則2割とすることや、2割負担の対象範囲拡大を検討していくとの考えを示した。

年金分野では、被用者保険の適用拡大について、非正規雇用を巡る問題の改善や、労働者の働き方の選択に中立的な制度の実現に資する面があるなど、現下の状況に照らして社会的意義も大きいと指摘。

2年の年金制度改正法の施行状況を踏まえつつ、企業規模要件の撤廃や、適用業種等その他の適用要件の見直しも含め、さらなる適用拡大を推進する必要があるとした。

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