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健保ニュース 2019年9月中旬号

健保連が提案「今、必要な医療保険の重点施策」
2022年危機回避へ改革を集中
後期高齢者 2割負担、現役並みに公費など最重点

健保連は9日、記者会見を開き、「今、必要な医療保険の重点施策─2022年危機に向けた健保連の提案─」を発表した。団塊の世代が後期高齢者に入り始めて拠出金負担が急増する2022年に焦点を当てた提案で、現役世代の負担が一層膨らむ3年後の危機を回避する観点から、改革が急がれる重点施策を整理した。来年策定される政府の「骨太方針2020」では給付と負担のあり方を含む重点的な政策が取りまとめられる予定で、健保連はこれに向けて、高齢者医療費の負担構造改革や保険給付の適正化などを柱とする各種改革が実現されるよう求めていく考えだ。とくに、▽後期高齢者の原則2割負担▽現役並み所得の後期高齢者にも公費5割投入▽市販品類似薬の保険適用除外など保険給付範囲の見直し─を最重点項目とした。健保連の佐野雅宏副会長は、「皆保険制度を、そしてそれを支える現役世代を守るための制度改革が喫緊の課題だ。給付と負担のバランスをどうとるのか。難しい課題だが、早期に議論を開始し、結論を得なければならない」と述べた。

骨太方針2020への反映を視野

健保連が重点施策を今回提案した趣旨は、団塊の世代全員が75歳以上となる超高齢社会で生じる2025年問題が、22年から顕在化することにある。現状のままでは、後期高齢者の急増に伴って拠出金負担がさらに拡大するとともに、医療保険制度全体の財政悪化も加速しかねず、こうした局面を「2022年危機」と捉え、危機を乗り越えるための改革の必要性を訴えた。

現役世代の負担については、19年度の健保組合の平均保険料率は9.2%だが、健保連の試算では、22年度に9.8%、25年度に10.4%に上昇する。保険料率10%以上は、19年度の302組合から22年度に601組合、25年度に909組合へと拡大する。

義務的経費に占める拠出金の割合は、19年度の45.4%が22年度に49.6%に上昇し、25年度は50.5%と5割を超える。

健保組合の介護保険料率も上昇を続け、医療、介護に年金保険料率18.3%を足し合わせた全体の保険料率は22年度に30.1%に達し、これを踏まえ、「保険料率30%時代」が目前に迫っていると現得世代の負担増大を強調した。

給付と負担の関係では、高齢化の進展と現役世代の減少のもと、医療保険を通じて現役から高齢世代への所得移転が進行して世代間格差が拡大し、世代内でも被用者保険の負担が重くなるなど、世代間、世代内のアンバランスが顕著になっている傾向を示した。

こうした医療保険を取り巻く状況を踏まえ、健保連が提案した改革の基本的な方向は、①高齢者医療費の負担構造改革を実現し、世代間、世代内の給付と負担のアンバランスを是正する。公費の拡充等を通じて現役世代の負担を軽減する②保険給付を適正化し、医療費を大切に使う③保健事業の取り組みを通じて、健康な高齢者、「支える側」を増やす─ことを重視。①~③の3本柱を「喫緊の課題」として、急増する負担を全世代で支え合うための改革の早期実現を求めた。

高齢者医療費の負担構造改革では、後期高齢者の原則2割負担、現役並み所得者への公費5割投入、拠出金負担割合の上限設定、前期高齢者財政調整の見直しなどを提案した。保険給付の適正化では、保険給付範囲の見直し、薬剤処方の適正化の必要性などを指摘した。v

これらは健保連が一昨年9月にまとめた「2025年度に向けた医療・医療保険制度改革について」をベースにしたものだが、今回の提案は、骨太方針2020への反映を射程に入れつつ、22年危機の回避に向けた改革実現の時間軸をより明確にした。

そのうえで、政府の経済・財政再生計画改革工程表が掲げる検討事項を踏まえて、とくに優先して取り組むべき改革として、後期高齢者の原則2割負担、現役並み所得の後期高齢者に公費5割投入、保険給付範囲の見直しを最重点項目に位置づけた。

後期高齢者の自己負担については、低所得者に配慮しつつ、75歳に到達者から順次2割とすべきと主張した。現在1割負担の者もできるだけ早く段階的に2割負担に移行する。

健保連の試算では、22年度から順次2割負担に引き上げた場合の27年度の財政影響額を単年度に割り戻すと、後期高齢者の患者負担が700億円増、後期高齢者の保険料が200億円減、後期支援金が500億円減(このうち健保組合は200億円減)、公費負担が800億円減となる。

後期高齢者医療給付費の財源構成は、保険料1割、現役世代が負担する後期高齢者支援金4割、公費5割を原則とするが、自己負担が3割の現役並み所得者には公費が投入されておらず、保険料負担分を除く全額を後期支援金で賄っている。

この結果、後期高齢者医療制度全体に投入されている公費負担の割合は47%にとどまる。公費が手当てされていない3%相当額は19年度で約4500億円と推計され、この分を現役世代が負担している。健保連の提案は、現役並み所得者にも公費5割を投入することで、制度全体の公費負担割合を本来の5割とする。

改革工程表では、現役並み所得の判定基準を見直すことが検討課題となっているが、現行の財源構成のままで現役並み所得者の対象範囲を拡大すると、公費負担が減少する半面、現役世代の負担が増大する。このため、現役並み所得者の基準を見直す場合は、「公費負担の減少分が現役世代の負担増「肩代わり」にならないようにすべき」とクギを刺した。

健保連は、現役並み所得の対象者を現在の後期高齢者の6.7%(121万人)から7.7%(139万人)へと1%分拡大すると、後期支援金が約670億円増大すると試算している。

保険給付範囲の見直しでは、皆保険制度の維持の観点から、市販品類似薬の保険給付範囲からの除外や償還率の変更を提案した。

今回の提案は22年危機への対応を集中的に取り上げたが、22年以降も続く高齢化と現役世代の急減を見据え、支える側の拡大や給付と負担のさらなる見直し、消費税率10%後の財源確保策など、継続して改革に取り組む必要性も指摘している。

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