健保ニュース
健保ニュース 2025年6月上旬号
財政審が「骨太」反映へ建議
社保改革 現役世代の負担を抑制
メリハリつけた診療報酬改定
財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は5月27日、政府が6月に閣議決定する「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に向け、建議(意見書)を取りまとめ、東国幹政務官に提出した。持続可能な社会保障制度の構築を重要課題に位置づけ、制度改革による現役世代の保険料負担の抑制を訴えた。令和8年度診療報酬改定では、診療報酬の適正化や病院と診療所の経営状況の違いを踏まえたメリハリのある改定を目指すよう提言した。
建議は、経済成長を支える安心、安全の基盤である持続可能な社会保障制度の構築を最重要課題の一つに据えた。構築にあたっては、「社会保障の支え手である現役世代が負担する社会保険料にも目を配る必要がある」と明示した。
医療・介護の給付費が20年余りで倍増している状況を危惧し、医療機関などによる経営コストに関する取り組みと保険給付範囲の見直しを継続しつつ、経済・物価に適切に配慮することで、現役世代の保険料負担増を可能な限り抑制することが重要とした。
また、団塊の世代全員が75歳以上になる2025年以降も、後期高齢者の増加と生産年齢人口の減少が続くと見通し、「給付と負担のバランス確保のための改革に不断に取り組むべき」と訴えた。
診療報酬と介護報酬については、仮に1%引き上げると現役世代の保険料負担が3000億円程度増加すると試算し、「給付費の増加は現役世代の保険料負担に直結する」と指摘した。
特に診療報酬は、「経済全体が賃上げ方向にシフトする中、経済・物価動向に合わせて伸ばすよう求める声がある」と言及。「経済・物価が低迷している情勢下でも医療機関の総収入は経済実態の伸びを上回り、継続的に伸びている」とし、こうした過去の乖離が国民全体の保険料率を上昇させてきたことを踏まえ、不断に制度改革を積み上げていく必要があるとけん制した。
これを念頭に、8年度診療報酬改定は、医療提供体制の構築との整合性を図りつつ、診療報酬の不断の合理化・適正化を進めていく必要があるとした。
さらに、病院と診療所では経営状況や費用構造が異なることを前提とした、メリハリのある改定の実施を訴えた。5年度の医療機関の経営状況をみると、病院の利益率2.1%に対し、無床診療所の利益率は8.6%で、中小企業の全産業平均3.6%よりも高い水準となっている。こうした実態を踏まえ、「国民・患者の視点から見て妥当なものか検討すべき」とした。
具体的には、かかりつけ医機能報告制度の7年4月施行を契機とした、かかりつけ医機能評価の精査・整理と抜本的な見直しを提言した。
特に外来診療は、初診・再診料加算を含め、患者を「治し、支える」役割を的確に評価する報酬体系に改めるべきとした。
算定実績が低調な地域包括診療料・加算と認知症地域包括診療料・加算は、現在果たしている機能を検証した上で統合するよう促した。
計画的な医学管理を評価して再診料に加算する外来管理加算は、再診料に包括化し、かかりつけ医機能を評価する他の管理料・加算との間で整理・統合すべきと提案した。
機能強化加算は、かかりつけ医を必要としない患者にも施設基準の達成のみで一律算定できることを問題視し、検証の上、廃止を含めて抜本的に見直すよう求めた。
月1回算定可能な「生活習慣病管理料(Ⅱ)」については、6年度改定で生活習慣病にかかる報酬を適正化し、月2回算定可能な特定疾患療養管理料から高血圧性疾患・糖尿病・脂質異常症を除外し新設している。
これに対し、諸外国のガイドラインでは、薬物療法で病状が安定していれば、数か月に1度の経過観察が適当とされるケースもあると指摘。一般的な診療ガイドラインに沿う形で報酬の算定要件を厳格化すべきとした。
また、実効性ある医師偏在対策のためには、診療報酬上のディスインセンティブ措置が不可欠とし、特定の診療科のサービスが過剰となる「特定過剰サービス」の減算措置を適切なアウトカム指標とセットで導入することを提案した。
リフィル処方箋については、薬剤師との連携によりリフィル処方が活用されるよう、診療報酬上の加減算も含めた措置の検討を求めた。
費用対効果評価制度
医薬品の対象範囲を拡大
薬価については、薬事承認後の医薬品が事実上すべて薬価収載されることに伴う財政影響を危惧するとともに、保険収載後の費用対効果評価の適用も「極めて限定的だ」と指摘した。その上で、費用対効果評価の対象薬剤の範囲と価格調整の対象範囲を拡大し、結果を保険償還の可否の判断に用いることを提案した。
併せて、革新性や追加的な有用性がない新薬でも薬機法の承認で保険収載される仕組みがあると提起し、「薬剤費負担や保険料負担が増加する背景になっている」と問題視した。現役世代の保険料負担軽減と創薬イノベーションの推進を図る観点から、費用対効果評価の考え方を踏まえた、薬価の一層のメリハリ付けを促進すべきとした。
また、医療技術の進歩に伴い、保険財政への影響が大きい高額医薬品の開発・保険適用が想定されるとして、国民皆保険を堅持するための改革を求め、費用対効果評価制度の一層の活用を含めた薬価制度上の対応、保険外併用療養費制度の柔軟な活用・拡大、民間保険の活用の検討などを提案した。
セルフケア・セルフメディケーションの推進の観点から、処方箋を必要とする医療用医薬品のうち、低リスクで患者判断により購入できるものをOTC薬に切り替えることが肝要と主張した。OTC類似薬についても保険給付のあり方を見直すよう求めた。
後期高齢者の「現役並み」
世帯収入要件を見直し
後期高齢者医療制度については、一定所得以上の自己負担2割などの見直しが図られてきたものの、制度の持続可能性を高め現役世代の保険料負担の軽減につながるよう、後期高齢者の保険料負担や患者自己負担割合のあり方について、不断の見直しに向け検討を深めるべきとした。
後期高齢者の「現役並み」所得の基準以上に所得があれば現役と同様3割負担を求めている現行制度について、一定の仮定を置いた世帯収入要件を判定基準としているため、「現役並み」以上の課税所得があっても公的年金等控除が手厚く、必ずしも「現役並み」と判定されない仕組みになっていると問題視した。「現役並み所得」の判定基準を現役世代との公平性を図るとともに、世帯収入要件を見直すことを提案した。
介護分野では、利用者負担2割の対象範囲拡大を早急に実現すべきと提言した。「改革工程」に沿い、所得だけではなく金融資産の保有状況も合わせた検討を促した。また、医療保険と同様に、利用者負担を原則2割とすることや現役並み所得(3割)の判断基準の見直しも検討すべきとした。
増田寛也分科会長代理(日本郵政社長)は会議後の記者会見で、記者団に対し、「8年度予算反映に向けた社会保障の議論は、秋が主戦場になる」との認識を示した。8年度改定に向けては、「様々な議論があるが、必要に応じて合理化し、あらゆる分野で改革しなければならない」と述べた。