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健保ニュース 2025年6月上旬号

高額療養費の専門委が初会合
首相表明踏まえ 秋の見直し方針決定へ議論
医療保険の持続性も課題

厚生労働省の「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(委員長・田辺国昭東京大大学院教授)は5月26日、初会合を開いた。今秋までに同制度について再検討し、方針を決定するという石破首相の発言を踏まえ、議論の状況を社会保障審議会医療保険部会に報告しつつ、見直しの方針をまとめる。参考人として出席した健保連の伊藤悦郎常務理事は、長期間継続して治療を受ける人への配慮に理解を示した上で、「高額療養費制度のセーフティーネット機能と保険料を負担する人の納得感をいかに両立させるかに重点を置いて検討すべきだ」と訴えた。他の委員からも医療保険の持続可能性との両立に配慮すべきとする意見が相次いだ。

厚労省の鹿沼均保険局長は冒頭のあいさつで、高額療養費制度見直し凍結の経緯を踏まえ、「改めて、丁寧に議論させてほしい」と述べ、委員や関係団体からの意見聴取や、検討に必要なデータ提供などに注力する考えを示した。

委員長に選任された田辺委員は「関係団体の意見聴取やデータに基づいて判断するなど、丁寧に運営する」と述べた。

専門委は、「秋までに検討し、方針を決定する」との石破首相の発言に沿って、高額療養費制度のあり方について検討し、その状況を医療保険部会に報告することとしている。

この日の会合は、佐藤康弘保険課長が高額療養費制度見直しの経緯と制度を取り巻く状況を説明した上で、専門委設置の背景を踏まえ、まず患者団体の代表委員から意見を聴取した。

天野慎介委員(全国がん患者団体連合会理事長)は専門委での今後の検討について、4月16日の衆院厚労委員会での「高額療養費制度の適正な見直し手続に関する件」の決議に基づき、高額療養費の支給を受けた人の療養に必要な費用が家計に与える影響を分析、考慮するとともに、必要かつ適切な受診への影響に留意するよう要望した。

また、「大きなリスクに備える高額療養費は我が国の公的医療保険制度の根幹だ」として、医療費節減につながる他の手段を優先して検討すべきだと訴えた。

それでもなお高額療養費の自己負担上限額の引き上げが必要な場合は、高額療養費の支給を受ける人の「支払い能力」に対する医療費の負担割合に十分留意し、過度な負担とならないようにすべきだと訴えた。

また、年間所得の一定割合を自己負担限度額にするなど、患者負担に年間上限を設けることも含め、負担軽減と影響緩和に配慮が必要だとした。

さらに、多数回該当に関して、加入している保険者が変わると通算されない問題についても検討することを求めた。

大黒宏司委員(日本難病・疾病団体協議会代表理事)は「難病患者にも現役世代が多くいて、社会保険料を負担している」として、現役世代の社会保険料負担軽減の必要性に理解を示した。その上で、「難病患者には社会保険料に上乗せして医療費がのしかかっている」と述べ、患者が納得できるような制度設計を求めた。

給付と負担のバランスを重視
健保連・伊藤常務

患者団体の代表委員からの意見聴取に続き自由討議が行われた。委員からの意見は、医療保険制度の持続可能性と高額療養費制度のセーフティーネット機能の両立に配慮すべきとして、医療保険制度全体で議論が必要だとする意見が多くを占めた。

健保連の佐野雅宏会長代理に代わり、参考人として出席した伊藤常務理事は、患者団体側の意見を受け、「当事者の思いや状況を踏まえ、長期にわたり継続して治療を受けている人の負担が過重にならないようにすべき」と理解を示した。

一方で、「医療費を支える財源は自己負担、保険料、公費の3つしかないことも確かだ」として、増加する医療費をいかに負担するかが課題だと指摘した。

その上で、今後の検討にあたっては、「高額療養費制度のセーフティーネット機能と保険料の負担者の納得感をいかに両立させるかに重点を置くべきだ」と述べ、給付と負担のバランスを重視するよう強調した。

村上陽子委員(日本労働組合総連合会副事務局長)は、高額療養費制度の見直しの目的や必要性を共有するとともに、年齢で区切られた医療保険制度のあり方を含めた見直しが必要と指摘した。また、自己負担の応能負担を強めると、被保険者の納得性を損なうほか、高所得層や中間所得層にも影響を及ぼすことに配慮する必要があると主張した。

袖井孝子委員(高齢社会をよくする女性の会理事)は高額な医薬品について、「薬価が開発費や市場の大きさで決まってしまう」と疑問視し、「基金を作って新薬の開発を助成するなど、何か高額化に歯止めをかける方策はないかと考えている」と述べた。

城守国斗委員(日本医師会常任理事)は、「医療費財源に限りがある中で、医療保険制度の持続可能性に配慮することは当然だ」としつつ、「医療にアクセスできない人が生じないような制度設計」を重視する考えを示した。

山内清行委員(日本商工会議所企画調査部長)は「保険料や公費負担の抑制は必要だ」とした上で、医療保険制度全体の改革とあわせて議論することが重要だとした。

菊池馨実委員(早稲田大法学学術院教授)は「程度はさておき、見直しを全く行わないことは考えられない」と指摘し、「所得に応じた一定の引き上げを行わざるを得ない」と述べた。

また、医療保険制度の枠を超えた、医療費控除のあり方や経済的給付などの支援策も視野に入れる必要性について言及した。

天野委員は「医療保険制度全体の議論の中での検討が必要」とする委員の意見を踏まえ、必要に応じて厚労省の他の関係局にも参加してもらうよう求めた。

これに対し鹿沼保険局長は「社会保障全体の議論であれば、医療保険部会以外の審議会にも関係してくる」として、「専門委での意見を関連審議会に報告する」と応じた。

また、大黒委員は「患者の理解や納得が重要だ」とし、「丁寧な議論」にはわかりやすさの視点が不可欠と強調した。

会議終了後、佐藤保険課長は記者団に対し、今後の専門委はヒアリングと同時並行でデータ整理と分析を進め、石破首相の発言を踏まえ、秋までに見直しの方針を整理する考えを示した。

専門委として見直し案を示すかどうかについては、「一つの案にまとまるか複数になるかわからず、専門委で一致するとも限らないため、虚心坦懐に検討状況を医療保険部会に報告する」と述べた。(「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」委員は次の通り。敬称略)


▽天野慎介(全国がん患者団体連合会理事長)
▽井上隆(日本経済団体連合会専務理事)
▽大黒宏司(日本難病・疾病団体協議会代表理事)
▽菊池馨実(早稲田大法学学術院教授)
▽北川博康(全国健康保険協会理事長)
▽城守国斗(日本医師会常任理事)
▽佐野雅宏(健康保険組合連合会会長代理)
▽島弘志(日本病院会副会長)
▽袖井孝子(高齢社会をよくする女性の会理事)
▽田辺国昭(東京大大学院法学政治学研究科教授)
▽原勝則(国民健康保険中央会理事長)
▽村上陽子(日本労働組合総連合会副事務局長)
▽山内清行(日本商工会議所企画調査部長)

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