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健保ニュース 2022年6月下旬号

協会けんぽ調査研究フォーラム
要因解明し適正化策を展開
安藤理事長 制度持続性に寄与

全国健康保険協会(安藤伸樹理事長)は8日、東京都千代田区の一橋大学一橋講堂で第8回目の「協会けんぽ調査研究フォーラム」を開催。外部有識者を活用した委託研究の中間報告と同会の本・支部における研究成果を発表した。平成26年度から開催してきた調査研究フォーラム(調査研究報告会)は、前回第7回が令和2年6月に開催する予定だったものの、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により中止。今回は3年ぶりの開催となった。

安藤理事長が冒頭あいさつ
データ活用し課題に取組

冒頭あいさつした安藤理事長は、前職の日本通運健保組合(当時)の理事長を務めていた際に外部の有識者にデータ解析を依頼し、新たな発見があったと言及。これを踏まえ、協会規模のデータ解析を実施することで「加入者だけでなく国民全体の健康に役立ち、それにより国民皆保険制度の持続可能性を高めることができるのではないかと考えた」と、現職を引き受けた経緯を紹介したうえで、現職就任時から任期中に実現したいと考えていた外部委託研究の結果を発表することに喜びを表した。

人口構造が急激に変化するなかでの医療保険制度の持続可能性に加え、協会けんぽ支部間の保険料率格差の拡大や保険料率の上昇といった協会けんぽが抱える課題を指摘し、外部委託研究と協会けんぽによる調査研究を通じて医療費や健康度の地域格差の要因解明とそれにもとづいた健康づくりをはじめとする医療費適正化に向けた各種施策を展開する考えを示した。

特に外部委託研究は、協会が保有するレセプトデータ、健診データ等を活用して、保健事業の改善や国などへの政策提言につなげると発言。今後、支部ごとにデータ分析と課題の把握を行い、エビデンスに基づいた保健事業を展開し、地域医療構想調整会議で意見発信するとした。さらに、保険者協議会や自治体との共同研究により地域の課題解決に向けた取り組みを行うと説明し、「いわゆるウェルビーイングな生活を送ることができるよう、さまざまな取り組みを実施する」考えを表明した。

協会初の外部委託研究
4件の研究者が中間発表

外部有識者を活用した委託研究は、協会けんぽ初の取り組み。令和2年9月に記者発表や5学会のホームページでの広報により公募し、26件の応募があったなかから4件を選定した。研究期間は原則4年3月末までだが、最長5年3月末まで延長可能となっており、今回は期限前の中間報告の位置付け。4件それぞれの研究者が研究成果を発表した。

勝川史憲氏(慶應義塾大学スポーツ医学研究センター教授)は「機械学習による生活習慣病の医療費分析および発症予測と特定保健指導の効果判定に関する研究」を報告した。

協会加入者2000万人のレセプトから肥満、メタボ関連の医療費を抽出したところ全体の3割強を占める1.5兆円に達しており、「医療費適正化の面で重要な課題」と強調した。患者1人当たりの医療費は糖尿病や、高血圧に起因する慢性腎臓病(CKD)が高額で、このうちCKDについてレセプトデータ、健診データを用いて調査。CKDの進行の指標となるeGFR低下速度の大きい群で、糖尿病治療薬のSGLT‐2阻害薬が効果的と明らかにした。

磯博康氏(国立研究開発法人国立国際医療研究センター国際医療協力局グローバルヘルス政策研究センターセンター長)は「生活習慣病の重症化ハイリスク者における医療機関受療による予防効果に関するコホート研究」を報告した。

健診受診者から40~54歳の重症化ハイリスク者25万人を抽出。全ての死因を含んだ全死亡リスクは、「健診後12か月内未受療群」の1に比べ、「3か月内受療群」が0.78、「4~6か月内受療群」が0.79、「7~12か月内受療群」が1.04で、半年以内の受療で低下していた。上記の各群における年齢・性別調整した年間1人当たり傷病手当金はそれぞれ1万1011円、1万3103円、1万6826円、1万9268円だった。この結果などから、健診後のより早い段階での医療機関受療が入院リスク、傷病手当金、労務不能日数の低下に寄与する可能性を示した。

中村さやか氏(上智大学経済学部教授)は「医療費の地域・医療機関・業種間の差異の実態解明:健康状態と治療の質を考慮した医療費適正化を目指して」を報告した。

医療費の地域差について、よく使用される都道府県よりも小さい2次医療圏や市区町村などの単位で計測し、要因分析した。

訪問看護利用と地域特性との関連性は、人口密度・平均年間世帯収入・教育達成度・就業率が低い市町村において訪問看護利用者が少なかった。

大腸がん検診で要精密検査とされた加入者の精密検査受診率は、地域差と職業間の差が大きく、若年者、喫煙者、人口や人口構成に対し外来受診の少ない地域に未受診が多かった。

後発医薬品調剤体制加算がつく薬局の割合は、全体的に増加傾向だが、都道府県・2次医療圏・市区町村間で経時的に一貫した地域差があり、人口密度、国保加入者割合、年齢構成、財政力等との関連が見られた。

福間真悟氏(京都大学大学院医学研究科准教授)は「エビデンスに基づく保険者機能の強化:ラーニング・ヘルスシステム」を報告した。

「ラーニング・ヘルスシステム」は、①データから課題把握(D2K)②介入実装(K2P)③介入を評価して新たなデータを取得(P2D)─の3フェーズをPDCAサイクルのように循環させる。保険者の保健事業の科学的検証を行い、保険者機能を持続的に強化することをめざす。

協会けんぽのデータベースを活用したD2Kでは、降圧薬内服中の低血圧、特に拡張期血圧が心血管アウトカムと強く関連することなどを明らかにした。K2Pでは大阪、佐賀支部で実施した、特定保健指導の未実施者に対しランダムでナッジの有と無の勧奨を割り当てる実証事業の概略を報告した。

協会けんぽ本・支部研究
担当者視点の分析を提起

従来のフォーラムでも行われてきた協会けんぽの調査研究報告は、宮城、広島、福岡の3支部と本部による発表があった。加えて、北海道、秋田、兵庫、奈良、宮崎の5支部が、会場での発表に代えて、会場脇に設けたスペースに研究結果を掲示した。

宮城支部の研究テーマは「要治療者の受診行動の有無による医療費推移等に関する研究」。平成24~25年度の宮城支部の健診データから▽収縮期血圧160㎜Hg以上▽拡張期血圧100㎜Hg以上▽空腹時血糖126mg/dl以上▽HbA1c6.5%以上─のいずれかに該当する者を対象に、健診後9か月以内に医療機関を受診した者(早期治療群)と非受診者(未治療群)の平成27~令和元年度の医療費を比較した。それにより、入院では両群の医療費に有意な差が認められたとはいえなかったものの、外来では早期治療群の医療費が未治療群より高いなどの結果を得た。

広島支部の研究テーマは「糖尿病治療中断者の背景および再受診を促す方法の考察」。平成30年12月~令和元年11月のレセプトデータに糖尿病の治療歴などがあった35歳以上の被保険者について、その後4か月間のレセプトデータがある者を「治療継続者」、ない者を「中断者」として両者を比較した。その結果は、中断者は性別に有意な差がみられないなどの結果を得た。検証の結果、最も若い年齢層で中断率が高く、がん・精神疾患を有する者の中断率が有位に低かった。

福岡支部の研究テーマは、「特定保健指導未実施者への健診前ナッジ通知の効果」。特定保健指導未実施者のうち3kgの減量で指導対象から外れそうな者を対象に、ランダムで介入群(ナッジの有無でさらに細分化)と対照群を割り当て調査した。その結果、特定保健指導改善率は、ナッジあり群で43%、ナッジなし群で41%、通知なし群で38%と、ナッジあり群と通知なし群で有意差を認めた。ナッジあり群の通知では、メタボ回避への意思決定を促すため「3人に1人がメタボ脱出」というナッジの表現を取り入れており、これが結果に影響を与えたと推定した。

本部の研究テーマは「協会けんぽの薬剤費の構造と薬価改定の影響に関する分析」。加入者のレセプトに記載された医薬品の1人当たり薬剤費と数量について、▽画期的新薬▽改良型新薬▽既存先発薬▽新規後発薬▽既存後発薬▽漢方生薬─の6群に区分し、診療報酬改定を挟む令和元年度と2年度で比較した。その結果、薬剤費ベースでは薬価改定による既存先発薬と既存後発薬の減額効果は、主に改良型新薬の増額で相殺されていた。数量ベースでは改定前後で既存先発薬から主に新規後発薬へ置き換わりが進んでいた。

本・支部の発表後に講評に立った井出博生氏(東京大学政策ビジョン研究センターデータヘルス研究ユニット特任准教授)は、▽アカデミアや企業との連携▽考察の充実▽分析結果の活用─の3点を指摘した。なかでも考察は、データから分からない要因に対し、「事業に携わっている皆さんだからこそ分かることがある」と取り組みを促した。

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