HOME > けんぽれんの刊行物 > 健保ニュース > 健保ニュース 2019年9月下旬号

健保ニュース

健保ニュース 2019年9月下旬号

佐野副会長に本誌インタビュー
時間軸、スピード感持って改革実現
皆保険、現役世代守る使命感

健保連の佐野雅宏副会長は17日、本誌のインタビューで、健保組合の置かれている状況の厳しさを指摘し、拠出金負担が急増する2022年から財政的な危機が深刻化することを踏まえ、22年危機を乗り越える改革の必要性を改めて強調した。健保連が提案した「今、必要な医療保険の重点施策」はこうした現状認識のもと、改革への時間軸とスピード感を重視したと説明。痛みを伴う改革が避けられないとし、給付と負担の見直しを重要課題にあげた。主張実現に向けては「皆保険と現役世代を守るという強い使命感を持って全力で取り組んでいきたい」と強い決意を示した。

─健保組合の現状について。

健保組合を取り巻く厳しい状況は何も変わっていない。給付と負担の見直しを含む医療保険制度改革がなかなか動かない。このため、財政的、運営的に厳しい今の状況から出口が見えず、出口に向けた明かりも見えない。そういう閉塞感が高まっている。

その象徴的な出来事が今年4月の大規模健保組合(人材派遣健保組合、日生協健保組合)の解散となって表れた。足下の厳しさもさることながら、先が見通せないことも大きな要因と考えている。このままでは健保組合の解散リスクが高まりかねないと危機感を抱いている。

ここ数年、健保組合全体としての決算は若干の黒字基調となっているが、これは拠出金の精算に伴う払い過ぎの戻りなど一時的な要因が重なっているためだ。現在の高齢者医療制度が創設されてから、増大する拠出金を賄うために保険料率をどんどん引き上げてきた結果ともいえる。

終戦前後生まれの人口の少ない世代が後期高齢者となると、一時的に社会保障費の伸びが鈍化すると考えられている。高齢者人口の伸びが和らぎ、財政的にいうと落ち着いた状況に見えるかもしれないが、それは嵐の前の静けさである。その意味で今は踊り場状態であり、決して、構造的なものが変わって黒字となっているわけではない。相当な危機感を持っている。

─「今、必要な医療保険の重点施策」を提案した趣旨。

問題意識として改革への時間軸がある。団塊の世代全員が75歳以上となって生じる2025年問題が指摘されるが、2022年から団塊の世代が後期高齢者となり始め、後期高齢者数は年4%程度伸びていく。

このままでは2022年から高齢者医療費を賄うための現役世代の拠出金負担が急増し、財政悪化への道を辿っていくことになる。今はその坂が緩やかになったように感じられるが、2022年には崖が待っている。2025年の改革では時間軸、スピード感が間に合わない。国民皆保険制度を今後も持続可能なものとするために、そして皆保険を支える現役世代を守るために、2022年をターゲットとして必要な改革に着手しなければならない。

もうひとつは、政府は来年の「骨太方針2020」で給付と負担のあり方を含む重点施策を取りまとめることとなっている。こうしたなかで、われわれとしての要求をより具体的に分かりやすい形で主張する必要があると判断した。時間軸、スピード感を持って分かりやすく、かつ重点化してやるべき施策を提起する時期であるというのが背景にある。

2022年危機を乗り越えるための大きなキーワードとして、痛みを伴う改革をやらなければならないと認識している。痛みを伴う改革は基本的に誰だってやりたくないわけで、先送りしたくなる。しかし、もはやここから逃げられない段階にきている。

痛みを伴う改革となれば、給付と負担のあり方を見直すしかない。これまでどおりの給付を低い負担で賄うのは無理となってくると、給付と負担のバランスをどうとるのかが大きな課題であり、それを早期に具体化する必要がある。

─今回の提案の具体的な中身について。

これまでに主張している様々な重点施策を「喫緊の課題」として取り上げたが、このなかから時間軸を考えて、①後期高齢者の原則2割負担②現役並み所得の後期高齢者に公費投入③保険給付範囲の見直し─の3項目を最重点とした。拠出金負担割合の上限設定や前期高齢者医療の不合理な財政調整の見直しなども当然、喫緊の課題であり、引き続き言い続けていく。

最重点項目は、いずれも経済・財政再生計画改革工程表に関連する検討項目である。これらのテーマは、本来なら2018年度中に結論を出すことになっていたが、先送りされたもので、今後の改革論議でも主要な論点になると考えられる。

後期高齢者の自己負担については、新たに75歳に到達した人から順次2割として、1割負担の人も早期に2割とすることを提案した。

世代間における給付と負担のバランスをみると、現役世代は医療費の変化額と比較して保険料の変化が大きく、医療費に対して3~4倍の変化額となっているが、高齢者世代の保険料の変化額は医療費の変化額に対して小さく、現役世代と高齢者との負担に不均衡が拡大している。

医療保険を通じて現役世代から高齢者世代への所得移転が強まっており、世代間のアンバランスを是正し、急増する負担を全世代で支え合う観点から、高齢者にも応分の負担をお願いしたい。

現役並み所得の後期高齢者については、医療給付費に公費が投入されておらず、その分を現役世代が負担している。

改革工程表では、3割負担の後期高齢者を増やすことを念頭に現役並み所得の基準見直しを検討課題としているが、現在の財源構成のままで現役並み所得者の対象範囲を拡大すると、現役世代の負担が逆に増大するという、大変おかしな話となってしまう。基準の見直しそのものに反対するわけではないが、現役世代の負担が増大するようでは本末転倒であり、現役並み所得者にも本来である公費5割を投入すべきである。

保険給付範囲の見直しは、市販品類似薬を保険給付から除外することや保険償還率に差を設けることを提案した。これまで湿布薬や保湿剤などを対象に保険適用からの除外を提言しており、今回は花粉症治療薬を取り上げた。市販薬で代替可能な医薬品はセルフメディケーションが期待できる分野だ。

今後も個人が負いきれない重いリスクに対しては公的保険がしっかりと機能すべきと考えている。一方で限りある財源のなかで皆保険制度を維持していくためには、医療資源の効率的・効果的な配分が不可欠である。

─政府の全世代型社会保障検討会議に期待すること。

われわれが今回提案した喫緊の課題について、スピード感を持って具体的に動かしてほしい。全世代型ということでは、われわれの主張の柱である高齢者医療費の負担構造改革、保険給付の適正化、支える側を増やすの3つのテーマは会議の趣旨と合致するものと考えている。痛みを伴う改革、とくに給付と負担の見直しを論点として取り上げ、具体化するよう期待する。

─主張実現に向けた活動方針。

現状のままでは2022年から財政的な危機が深刻化すること、危機を乗り越えるための改革が急がれることを健保組合の皆さんにはもちろん、一般の国民も含めて広く周知して、改革機運を高めたい。

2022年まで時間がないという切迫感のもと、健保連としてより具体的に踏み込んで提案をしたわけで、強い覚悟を持って提案が実現されるよう、ありとあらゆるルートを使って、関係方面にわれわれの主張をぶつけて動かしていきたい。関係団体との連携も密にして、政治、官庁、マスコミなどに改革の必要性を訴えていく。

健保組合の皆さんには、事業主や加入者、労働組合に働きかけるなど、われわれの主張の味方を増やすことをお願いしたい。皆保険と現役世代を守るという強い使命感を持って全力で取り組んでいきたい。

また、われわれ保険者に求められる役割として、データヘルスやコラボヘルスなど保険者機能の強化を図り、健保組合の強みをアピールすることも重要である。健保連としても健保組合をサポートしていく。

けんぽれんの刊行物
KENPOREN Publication

2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年