健保ニュース
健保ニュース 2025年5月合併号
中医協が医療機関の経営状況議論
病診で利益率に格差
松本理事 詳細分析を要請
中央社会保険医療協議会(小塩隆士会長)は4月23日、総会を開き、令和8年度診療報酬改定に向け、医療機関を取り巻く状況について議論した。前回会合で、物価や賃金、医療機関の経営状況が従来の改定とは異なるとして、先行して議論するスケジュールを了承していた。
5年度の医療法人の経常利益率は、▽病院(平均値2.0%、中央値1.2%)▽無床診療所(同8.8%、同6.1%)▽有床診療所(同4.1%、同2.3%)──となり、最も頻繁に表れる「最頻値」はどの類型でも0.0~1.0%だった。
健保連の松本真人理事は、「病院と診療所の平均値、中央値、最頻値にズレがあり、かなり利益率が高い医療機関があると類推される」と指摘し、経営状況の実態を的確に把握するため、病床規模や機能、診療所の医師・患者数などを切り口とした詳細な分析を要請した。
厚生労働省は、①医療需要と医療費に関する概況②医療機関の経営状況──から現状を説明し、▽近年の医療機関の経営状況の実態や要因▽特に病院の収支が悪化する状況下での人件費や材料費、委託費などの各費用項目の増加や要因▽医療機関の収支を踏まえた診療報酬の評価検討の分析──を検討課題として示した。
①のうち、国民医療費は診療種類別にみると、いずれも増加している。1日当たり医療費は、入院が平成12年度の23万7千円から令和5年度には42万4千円に増加し、入院外も6万4千円から10万3千円と増加。
一方、医療機関を受診した延患者数に相当する受診延日数は、入院、入院外ともに経年的に減少している。コロナ禍の影響で2年度は大きく減少したが、入院外は回復傾向がみられる。
病院の在院患者数と外来患者数はいずれも2年度に大きく減少。在院患者数は引き続き減少傾向にある一方、外来患者数は4年度にかけて回復している。
②のうち、医療法人の経常利益率は、4年度と5年度ともに平均値、中央値がどの施設類型も低下傾向だった。
病院の収支構造の変化について、平成30年度と令和5年度の病院100床当たり損益を比較すると、事業収益の増加(10.3%増)以上に事業費用が増加(14.7%増)したため、事業利益が悪化した。事業費用の50%超を占める人件費増加の影響が最も大きかった。
病院の100床当たり常勤換算従業者数は、5年は平成29年と比較して10.9人増えた。特に医師、看護師等、理学療法士等、事務職員が増えている。
医療関係職種の給与額はおおむね増加傾向で、平成30年と比較した令和6年時点の増加率は、所定内給与額で11.2%増となる。
健保連の松本理事は、「そもそも診療報酬改定は、医療機関の経営状況や保険者の財政状況、賃金・物価の動向の総合判断に基づくとの観点から、過去のデフレ期を考慮することも必要」と強調した上で、厚労省が提示した検討課題は近年の状況に焦点が絞られていることに懸念を示した。
医療費単価のインフレが続き、受診延日数が減少してもコロナ禍を除き医療費が増加していることから、「医療費を支える保険料やベースとなる被保険者の報酬が医療費単価の水準と乖離していることも考慮すべき」と主張した。
人口減により、外来や急性期入院の患者数は確実に減少すると見通し、「医療資源を集約化し、これまで以上に医療を効率化しなければ、医療機関の固定費を賄うことが難しい」と断じた。
また、病院で人件費や従事者数が増加していることに対し、人材確保はある程度できているのではないかと指摘。「さらに人材を確保する必要があれば、賃上げ動向も合わせて医療を効率化することが病床稼働率向上や収益確保の観点からも重要」とし、「病床当たり従業者数の適正な水準を検討すべき」と提案した。
鈴木順三委員(全日本海員組合組合長代行)は、損益計算書や貸借対照表など内部留保がわかる資料の提示を要望した。
診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、「医療機関経営は大変厳しい状況にあり、賃金上昇と物価高騰、医療の技術革新に対応できていない」と述べ、「改定に対応するために医療機関がコストを費やすことなく、純粋な形で診療報酬を引き上げなければならない」と主張した。
太田圭洋委員(日本医療法人協会副会長)は、「近年の改定では、財政的制約が優先され、入院医療に必要な人的コストなどが上昇傾向にあるにもかかわらず、公定価格である診療報酬で対応されてこなかった」と指摘し、次期改定では適切な診療報酬の設定が不可欠との考えを示した。