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健保ニュース 2019年10月中旬号

レセ点検、オンライン再審査請求で情報交換会
支払基金改革を踏まえ分析業務へシフト
外部委託を活用して保険者機能をさらに発揮
健保連主催

健保連は5月の社会保険診療報酬支払基金法改正を受け、数年以内に支払基金改革が完了し、原審査の精度が高まることを見据え、3日に大阪、7日に東京でレセプト点検業務の質向上に関する情報交換会を健保組合向けに開いた。2会場を合わせて実務担当者など約800名が参加し、健保組合の人員が限られるなかでも外部の委託事業者を効果的に活用しながら、これまで原審査の補完に終始しがちだった業務内容を、患者や医療機関の分析まで広げていく必要性について認識を深めた。オンライン再審査請求の導入により支払基金の経費を削減できるとともに、データ集計が容易になることも示された。

健保連の河本滋史常務理事は、開会あいさつで支払基金改革に言及し、「キーとなる項目が審査支払新システムの構築とコンピュータチェックルールの見直し。これによってコンピュータチェックのみで完結する審査の割合が全体の9割まで引き上がり、ローカルルールを含めた支部間での不合理な審査差異の解消や、審査補助業務の抜本的な効率化が期待される」と歓迎した。

そのうえで「これが実現すると、保険者によるレセプト点検業務の目的や内容が変わっていく。あるいは変えていく必要がある」と指摘し、「支払基金の不備、不合理な差異を査定につなげるためだけでなく、加入者の受療行動や医療機関の診療動向などの傾向分析を通じて、保険者機能のさらなる発揮に具体的につなげていく点検にシフトしていくことを考えている」と説明した。

支払基金の業務をさらに効率化するための課題については、オンライン再審査請求の拡大をあげ、「個々の健保組合にメリットをきちんと示しながら進めていく必要がある」と述べた。

情報交換会の前半では、健保連医療部と支払基金経営企画部によるレセプト審査・点検の現状と今後の方向性に関する解説と、2つの健保組合による事例発表に続き、会場と質疑応答した。後半は河本常務理事と有識者がパネルディスカッションを行った。

形式的な点検を省力化

健保連医療部によると、健保組合の再審査請求を起点とする減額査定は、医科と歯科を合わせた直近の年間実績が16億3410万円で、原審査と合わせた査定額全体の14.2%を占め、これは健保組合が努力した成果と言える。一方、支払基金の原審査には支部間で違いがみられ、請求1万点当たり査定点数は最高の大阪府と最低の秋田県で47.3点の格差がある。今回の支払基金改革では、この要因とされる支部完結型の組織体制や支部独自のコンピュータチェックルールを見直し、基準を統一化しながら、コンピュータチェックを拡充し、審査を効率化する。

健保組合は高齢者医療拠出金の増加に伴う財政悪化やこれまでなかった業務が求められるようになり、レセプト点検業務に割ける人員が約10年間に専任職で30%減、兼任職で21%減となり、自前で業務をまかないきれないのが実態だ。そのため、約9割の健保組合は外部点検事業者と契約しているが、再審査査定額が委託経費を上回る健保組合は少ない。

政府の骨太方針などで、レセプト情報などを活用した多剤・重複投薬の是正や重症化予防の必要性がうたわれるなか、支払基金改革によって原審査での見落としが減少すれば、健保組合による加入資格などの確認業務を省力化でき、保険者機能の発揮につながる点検に取り組めるようになる。

健保連は今後に重視する点検の具体例として、加入者に適正な受療行動を啓発するため受診傾向の分析、検査・投薬の多い医療機関やレセプト病名を多用する医療機関の抽出、支払基金の算定基準を改善するための情報集積や、診療報酬改定に反映すべき算定上の問題点を洗い出すことをあげた。点検事業者のなかには分析業務を手がけるところも存在することから、「支払基金におけるレセプト審査をめぐる状況の変化を踏まえ、今後、健保組合も点検事業者に何を求めていくかを再考する必要がある」と結論づけた。

支払基金の業務効率化を実現し、健保組合が負担する審査支払事務手数料を軽減するとともに、支払基金との連携を強化する観点から、保険者側から紙レセプトを縮小するために再審査請求をオンラインに移行させることも、課題に位置づけた。

支払基金の新センター
所在地を今年中に決定

支払基金からは髙井宏和経営企画部長が登壇した。現行の47都道府県支部を集約して全国10ブロックに設置する「審査事務センター」の所在地を今年末までに決定する方針を説明し、審査基準の統一化に向けて「支部間差異がブロック間差異にならないように本部でグリップする」と述べた。

審査支払の新システムを令和3年9月に稼働させた後、審査事務の集約を4年以降に開始する予定で、今の支部間差異地区検討委員会で座長を務める審査委員長を抱える中核支部を「中核審査事務センター」とすることを基本に、そのほかの審査事務センターは、集約後の組織規模、地域的なまとまり、差異解消への寄与、費用対効果を考慮して選定する。

レセプトの受け付けから支払いに至る業務プロセス全体の効率化が不可欠との認識にもとづき、再審査請求のオンライン化を推進する方針も示した。

オンライン再審査請求を導入する健保組合数は、支払基金業務効率化・高度化計画の工程表が発表された平成29年7月時点で148組合だったのが、30年7月で205組合、令和元年7年で301健保組合と、2年間で2倍に拡大した。健保組合全体のオンライン化率は20%で、月間請求が10万件以上の組合は60%であるのに対し、5~10万件の組合は49%、1~5万件の組合は24%、1万件未満の組合は14%と、規模によって進捗に差がある。再審査請求件数ベースのオンライン化率は47.9%で、1年間で8.8ポイント上昇した。

支払基金の再審査事務は、オンライン請求分に比べて紙請求分に多く割かれており、紙請求が無くなれば支払基金の再審査事務費用が低減すると期待できる。ただ、請求件数が少なくオンライン化の効果がわずかなど、紙請求を続ける健保組合にはそれぞれ理由がある。そのため髙井部長は「支部と本部が協力してオンライン化が進まない本当の理由を把握し、それぞれの事情によって対応するように努力したい」とした。

そもそも医療機関や薬局に紙請求が残っていると、健保組合がオンラインシステムを導入しても、紙による再審査請求を完全に無くすことができないことから、医療機関や薬局に対してもオンライン請求を働きかけ、とくに紙請求の多くを占める返戻再請求のオンライン化を促進したい意向を示した。

健保組合にとってのオンライン請求の利点については、▽電子レセプトとしての一元管理が可能になる▽紙出力や内訳票添付の業務量が軽減できる▽統計・分析への対応が容易▽搬送時に破損や紛失する問題がなくなりセキュリティが強化できる─をあげた。

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