健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
ウイングアーク1st株式会社
リモート時代に「楽しさ」と「データ」で実現する戦略的健康経営
ウイングアーク1st株式会社は、創業22年の企業向けデータ活用のソフトウェア会社として、東京六本木の本社を含め全国に10拠点、海外にも4拠点を構え、約1000人の社員が原則フルリモートワーク環境で業務を行っている。IT企業のため社員の約半数が開発職である。
その中で社員の心身の健康を経営戦略の核に据え、2020年度から戦略的健康経営を推進している。2023年、2025年には「健康経営銘柄」に選定され、「健康経営優良法人(ホワイト500)」(大規模法人部門)については、5年連続(2025年度時点)で認定を受けている。
同社がどのように社員のパフォーマンス最大化とコミュニケーション活性化、そしてウェルビーイングを実現しているのか、執行役員の吉田善幸さん、ウェルネス推進室室長の鳥越美由紀さん、保健師の吉本知美さんにお話を伺った。
【ウイングアーク1st株式会社】
創業:2004年3月
本社:東京都港区六本木3−2−1 六本木グランドタワー
代表取締役社長執行役員CEO:田中 潤
従業員数:1,002人(連結)、819人(単体)(2025年2月末現在)
──健康経営とリモートワークが同時にスタート
鳥越さん ▶
健康経営への取り組みを始めるきっかけとなったのは、2018年の健康診断結果で、同業界の中でも有所見率の高さや、運動習慣のある社員の比率が少ないといった状況が見えてきたことでした。社員の現在の平均年齢は39歳ですが、まもなく50歳、55歳を迎える社員も増える中で、こうした社員に長く元気に働き続けてもらうには、「今までの健康管理だけでは足りない」と、健康経営のスタートに踏み切りました。
それが、会社の2020年2月からのフルリモートワークへの移行とたまたま同時でした。フルリモート化によって、通勤がなくなったことによる運動不足、隣に人がいない環境によるコミュニケーション不足といった課題も見えてきました。

ウイングアーク1st株式会社
執行役員 吉田 善幸 さん
吉田さん ▶
会社にとって最大唯一の資産は社員であり、以前から社員への支援を強化したいという思いがありました。健康経営はまさに社員にフォーカスした取り組みで、企業価値の向上にもつながるものだと考えています。
鳥越さん ▶
健康経営を全社的に浸透させるため、トップダウンとボトムアップの両輪を重視しています。健康経営責任者は社長です。推進責任者は吉田が務め、その統括下にウェルネス推進室を設置しています。取り組みの中心となるウェルネス推進室は、私と吉田、あとは保健師と産業医しかいません。この限られた人数で、約1000人の全社員をどう巻き込んでいこうかと考えた時に、全国各地にいる「ウェルネスリーダー」の力を借りることを思いつきました。ウェルネスリーダーは、衛生委員会を兼ねた「ウェルネス委員会」のメンバーで、各部門や全国のオフィスから選出されています。現在、健康経営施策推進リーダーとして、月1回の委員会で健康に関する情報共有や、健康施策の企画、検討のほか、イベント開催時などに周囲の人々を健康増進活動に巻き込む役割を担っています。
吉田さん ▶
委員会では「何を話してもいい、絶対否定しない」という心理的安全性を確保できるルールを作っており、この雰囲気の中で、自由な議論が活発に行われています。この中から社員を巻き込む良いアイデアが生まれてきます。
鳥越さん ▶
そういったボトムアップに対して、トップダウンによる巻き込みもよく機能しています。社長は、ウォーキング大会の開会式で自ら参加を促したり、自身のBMIや健康年齢の改善状況を公表したりするなど、取り組みにも非常に協力的です。
──企業の強みであるデータの可視化を活用

ウイングアーク1st株式会社
ウェルネス推進室室長
鳥越 美由紀 さん
鳥越さん ▶
ウイングアーク1stならではの施策は、自社製品をフル活用し、社員が「歩きたくなる」「参加したくなる」仕組みを作り込んでいる点です。例えばオンラインで実施しているウォーキング大会は、毎年80%を超える高い参加率を誇ります。自社製品であるプラットフォーム「MotionBoard」というデータ分析ツールを活用し、技術に知見があるメンバーによって参加者の歩数データをゲーム要素を取り入れて可視化します。
「体に良い鍋を作ろう!」というテーマで大会を実施した時は、歩くことでMotionBoard上の「ガチャ」を回す権利が得られ、鍋の具材(ニンジンやお肉など)をゲットできるという仕組みにしました。歩くほど個々人の画面上の鍋の具材が増え、ウォーキングの達成度が可視化されます。とても盛り上がり、参加率も向上したほか、社内チャットツールで「私のニンジンと交換しませんか」といった具材交換のやりとりが毎日あるなど、コミュニケーションにも役立ちました。

歩数入力で鍋の具材が増えていく
このほか「ウォーキングで社会貢献〜あなたの消費カロリー寄付してください〜」というテーマで、歩数を食事に換算して支援が必要な子どもたちに食事を届けるという企画では、過去最高の84%の参加率となりました。
吉田さん ▶
こうしたアイデアもウェルネス委員会から出され、メンバーみんなで意見を出し合って施策を作ってくれるので非常に良かったです。
鳥越さん ▶
自分のためには歩かなかった社員が、支援が必要な子どもたちの役に立つならとウォーキングに取り組み始めたと聞いています。また可視化することで、ご家族も成果が見えるようになります。「ガチャを回し鍋の具材をゲットしたいお子さんに『お母さん歩いてきて』と促されて歩いた」という声もありました。
──全社員100%面談でメンタル不調へ早期に対応
鳥越さん ▶
2020年度から5年連続で、全社員を対象とした産業医・保健師による健康面談を100%実施しています。健診の結果が戻ってきた社員から順番に、保健師がオンラインで面談し、時間は30分程度です。
面談を開始してみると、健診結果に関するフォローだけでなく、社員から「リモートワークに慣れません」「上司とどうコミュニケーションを取ったら良いか分かりません」といった悩みが大量に上がってきました。こうした悩みは、メンタル不調につながる前段階といえます。リモートワークで社員が何に困っているかが把握できたことで、管理職向けのメンタルヘルスセミナーを開いたり、部下の困りごとを具体的に共有するといった対応ができました。希望者に追加でコミュニケーションセミナーを開くと告知したところ、すぐに管理職によって枠が埋まりました。リモート環境下で部下の状態にアンテナを高く張っていることが休職を未然に防ぐ要因であるとも考えています。

ウイングアーク1st株式会社
ウェルネス推進室 保健師
吉本 知美 さん
吉本さん ▶
健診結果のフォローが、職場で悩んでいることや、コミュニケーションがうまく取れなくて体調を崩しているといった本音を拾える機会になっています。
健康状態が悪化している社員を産業医面談につなぐなど、面談は社員1人ひとりと話す重要な機会になっています。
吉田さん ▶
上司側は、部下が上司に相談したいことがうまく相談できずどんどん積み上がって追い込まれていることに気付いてないケースが多い。リモートワークに当たり、われわれが負った「情報が拾えない」という宿題を、この全社員面談がカバーしていると感じています。
吉本さん ▶
リモートワーク環境特有の課題では、ほかに、通勤がないことによる睡眠など生活リズムの乱れや、朝食を食べない社員が増えていることなどが気になります。一方で社員の意識は高く、健診結果で再検査となった社員がAIを活用して自身の生活習慣の改善計画書を作成してきたことがあり、「さすがIT企業」と感心しました。その計画書は、(保健師から見て)なかなか良いプログラムでした。
鳥越さん ▶
社員の意識づくりには「ヘルスケアリレー」も役立っています。これは毎週月曜日に社員がリレー形式で「健康づくり」に関するブログを執筆するというもので、2020年のスタートから一度も途切れることなく続いています。健康に関することであればテーマは自由で、社員が関心のあることや取り組んでいることを順番に書いています。例えば「健康のためにヨーグルトを食べている」「縄跳びをしている」といったことです。人が読むとなると間違ったことは書けないと、一生懸命調べますし、お互いの実践内容を見ることでヘルスリテラシーが向上します。刺激を受けて、私もヨーグルトを買いに走ったりしました(笑)。
リモート環境で会うことが少ない分、「こんな人がいるのか」という気付きにつながったり、オンライン会議の際に「ヘルスケアリレーの記事を読みましたよ」とアイスブレイクに役立つこともあります。
──8割以上の社員が健康経営の意義を理解
鳥越さん ▶
毎年「働くことを通じた幸せ」アンケートを取っており、8割程度の社員が幸せだと回答しています。また、ストレスにうまく対応できている社員ほど、働く幸せを強く感じています。会社が健康経営に取り組むことに意義を感じ、企業価値向上等のメリットがあると思うと答えた社員の割合は85.5%に達しており、社員も健康経営を理解しているので施策もうまくいくと考えています。
また、健康経営度調査の調査票に「健保組合と会議をしているか」という質問項目があったことをきっかけに、健保組合との連携も増え、相談したり、頼まれごとを受けたり良い関係が築けています。
吉本さん ▶
今後の課題として、在宅ワークによって運動不足やコミュニケーションでつまずきを感じる社員が、体調を崩さないよう、健診結果などの数値に注目し、アセスメント評価をした上で計画を立てていく必要があると考えています。
鳥越さん ▶
血圧・血糖・糖尿病管理不良者に該当した高リスク者への重症化予防では、対象となる社員に、産業医面談を強制的に実施し、その上長から1on1でフォローアップをお願いしました。その結果、2022年度から2024年度にかけて、血圧リスク者や糖尿病管理不良者の割合が大幅に減少しました。会社から、検査や診察に行くように言われたら、仕事が忙しいから行けませんとは言えません。
2023年5月には「2025年喫煙者ゼロ宣言」を発信し、2019年に約22%だった喫煙率を2024年には7.5%まで減少させています。
今後の課題として、非肥満者なのに肝機能の数値が悪い社員が非常に増えていることが分かりました。これは運動不足が原因ではないかと分析しており、今後は運動へのアプローチを強化していかなければならないと考えています。
吉田さん ▶
全員を対象にした施策に加えて、今後は、会社の業績に大きく貢献している人のウェルビーイングをどう維持・向上させるかを考えています。仕事でのハイパフォーマー層は忙しいから、このような全社施策にはあまり乗ってきていないかもしれません。そういった社員に対してオーダーメイドで何ができるかを考えていく時期に来ているのかもしれません。