ほっとひと息、こころにビタミン vol.87
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
定年後の人生 自分中心の生き方を
高年齢者雇用安定法が施行されたこともあって、最近は、定年を迎えても働き続けることが一般的になっています。そのため、多くの企業では継続雇用された人が現役世代と一緒に生き生きと働いているのですが、中にはこれまでの仕事人生を振り返って自分に誇れるものがないと後悔している人がいます。若い人の働きぶりを見て、自分がこのままいなくなっても会社は回っていくと考えて、空(むな)しさを感じる人もいます。
そうした人から相談を受けたとき、私は、これからは会社中心ではなく、自分中心に考えを切り替えてはどうかと伝えるようにしています。社会も会社も、自分がいなくても回っていくのは事実です。その中で自分の評価を気にするのは、受身的な会社中心、社会中心の考え方でしかありません。
会社で働いて生活の糧(かて)を得ていたことを考えると、そうした発想になるのも仕方ないかもしれません。しかし、これからは働くにしても楽しむにしても、自分の思うように生きていけるのです。まだ先は長いのです。ここでちょっと立ち止まって、何のためにこれまで生きてきたのかを考えてみる機会にできるとよいでしょう。
例えば、現役時代は仕事の社会的意味を感じていたからかもしれません。同僚と力を合わせて課題に取り組むのが楽しかったり、周りの人から仕事ぶりを認められるのが嬉しかったりしたからかもしれません。仕事以外にも楽しみややりがいを感じられることがあったかもしれません。このように自分が生きてきた中で大切にしてきたことを意識して定年後を生活するようにしてみると毎日が充実してきます。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる!うつの人が見ている世界』(池田書店)など。