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健保ニュース 2025年12月中旬号

厚労省が高額療養費見直し案
「外来特例」上限額と年齢引き上げ
多数回該当の限度額は現状維持

厚生労働省は8日の高額療養費制度の在り方に関する専門委員会(委員長・田辺国昭東京大大学院教授)に、見直しの「基本的な考え方」の案を提示した。専門委の議論を踏まえ、長期療養者と低所得者に配慮しながら、自己負担限度額の見直しや所得区分の細分化、外来特例の縮小、患者負担の年間上限額の設定を盛り込んだ一方、多数回該当の限度額は現行水準を維持するとした。

自己負担限度額などの具体的な金額は、医療保険制度改革全体の議論を踏まえて決める。見直しの施行は、国民への周知や保険者のシステム改修などの準備を考慮し、来年夏以降を想定する。

厚労省が示した事務局案は高齢化の進展や医療の高度化、高額薬剤の開発・普及などを背景に医療費が増大する中、高額療養費制度を将来にわたり堅持するためには、制度の不断の見直しが必要だとした。

自己負担限度額の見直しについては、「必要性は理解する」と記載し、見直しにあたり長期療養者の経済的な負担や低所得者に配慮が必要だとした。

現行の所得区分については、年収370万~770万円が1つの区分で、1つ上がると、自己負担限度額が2倍になるなど大きなくくりになっており、「改善の余地がある」と提起した。

その上で、「所得区分を細分化し、区分の変更に応じて限度額ができる限り急増または急減しないようにする制度設計」が適当だとした。

細分化にあたっては、住民税非課税世帯区分以外の区分を3分割することを検討している。

外来特例については、加齢とともに疾病リスクが増す高齢者の特性を踏まえ、必要性は認めながらも、「見直しは避けられないという方向性でおおむね一致した」とまとめた。

具体的には、月額上限と年額上限の双方を応能負担の観点から見直すとともに、健康寿命の延伸などを踏まえた対象年齢引き上げも視野に入れる。

一方で、高齢者の経済的負担に急激な変化が生じないように配慮する。
 多数回該当の限度額は、長期療養者に配慮する観点から「現行水準を維持すべき」とした。

仮に自己負担限度額を見直す場合でも、多数回該当の限度額は維持する。併せて、多数回該当から外れる人の負担増を考慮し、自己負担に「年間上限を設けることも考えられる」とした。

年間上限の適用対象は「年に1回以上限度額に該当した人」と例示した。
 また、システム改修など実務的な課題に配慮し、患者本人からの申し出を前提とした運用で開始することも含め制度設計する。

このほか、高額療養費制度への理解向上の観点から、制度利用時に全体としてどの程度の医療費がかかり、そのうちどの程度の金額が保険給付で賄われているかといった全体像の見える化も検討課題だとした。

事務局案支持が大勢
外来特例見直しに慎重論も

委員からは事務局案を支持する意見が目立ったが、外来特例の見直しに対しては、「廃止を含めた見直し」など縮小を求める意見がある一方、高齢者の特性を踏まえた慎重論もあった。加入する保険者が変わると多数回該当が通算されない課題を解消するよう求める意見もあった。

また、自己負担の年間上限の適用対象を「年に1回以上限度額に該当した人」と限定したことには、患者団体から反対意見があった。

「患者本人からの申し出を前提とした運用」にも、「難病患者にとっては対応が難しい」との懸念の声があった。

健保連の佐野雅宏会長代理は事務局案に「異論はない」とした上で、長期療養者や低所得者に配慮しつつ、「必要な見直しを進めるべき」と主張した。

外来特例については、患者団体の代表委員から世代間の公平性の課題が指摘されたことも踏まえ、「見直しは不可避であり、将来的な廃止も含めて検討すべき」と訴えた。

また、「セーフティーネット機能の維持と保険料負担者の納得感の両立は極めて難しい問題だ」として、医療保険制度改革全体での議論の必要性を強調した。

袖井孝子委員(高齢社会をよくする女性の会理事)は外来特例について、将来的な廃止の検討もやむを得ないとしたが、「負担の急増は影響が大きい」と指摘し、時間をかけた見直しの実施を求めた。また、外来特例の限度額を年間上限に統一するよう提案した。

城守国斗委員(日本医師会常任理事)は「高齢者の特性を踏まえれば、外来特例の対象年齢を引き上げるべきではない」と述べた。

また、仮に引き上げるとしても、「外来特例創設時からの健康寿命の延びは2歳程度だ」と指摘し、社会保障審議会医療保険部会での高齢者の窓口負担の検討状況も踏まえ、慎重な姿勢を見せた。

天野慎介委員(全国がん患者団体連合会理事長)は自己負担の年間上限を「ぜひ導入してほしい」と強調した。また、低所得者の自己負担限度額の見直しには、「相当程度、抑制的に対応する必要がある」と指摘した。

大黒宏司委員(日本難病・疾病団体協議会代表理事)は外来特例の見直しについて、「高齢者の外来受診は生活維持の面もあり、生活破綻のリスクもある」と指摘し、段階的かつ丁寧な検討を求めた。

菊池馨実委員(早稲田大教授)は外来特例の限度額と対象年齢の引き上げを支持した。新たな基準は、他の制度との整合性を考慮し、「75歳とすることが望ましい」とした。

また、所得区分の細分化を「適切」と評価する一方、応能負担の観点から低所得層の自己負担限度額は引き下げるべきとした。

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