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健保ニュース 2025年12月上旬号

出産の給付体系見直し
全国一律、現物給付化の方向
「アメニティー」は対象外

社会保障審議会医療保険部会(部会長・田辺国昭東京大大学院教授)は11月20日、医療保険制度における出産の支援強化について議論した。委員の意見は▽現物給付化▽全国一律の給付内容▽お祝い膳など出産に付随するサービス(いわゆるアメニティー)は対象外▽分娩施設の検索サイト「出産なび」の充実──といった点で一致したが、新たな給付体系で含めるべきサービスの範囲や給付水準の考え方には開きがあり、今後の議論の焦点になるとみられる。健保連の佐野雅宏会長代理は給付体系の検討にあたり「(給付のための)費用を保険料として負担する人の納得感が重要なポイントになる」と指摘した。

厚生労働省は出産の給付体系見直しに向け、①給付方式②給付内容③「標準的なケース」の範囲④妊婦自身が納得感を持ってサービスを選択できる環境の整備──の4つの論点を提示した。

①は現行の出産育児一時金を引き上げても出産費用が上昇するため、「負担軽減につながらない」という意見を踏まえ、「標準的なケースで妊婦の自己負担が発生しないような給付方式」をどう考えるかと提起した。

②は、出産費用の地域差や施設差、産科医療機関の経営状況なども踏まえ、新たな給付体系導入後の検証も含めた給付内容の考え方について意見を求めた。

③については、正常分娩でも多くのケースで軽微な保険診療が行われている実態を踏まえ、新たな給付体系に含めるべきサービスの範囲をどう定めるか問いかけた。

また、個室料やお祝い膳、写真撮影などのアメニティーについても意見を求めた。
 ④は妊婦が希望に応じて出産施設を選択できる環境整備や、出産にかかるサービス内容や費用の予見可能性を高め、妊婦が納得してサービスを選択できるようにする方策を求めた。

健保連の佐野会長代理は①について、「現金給付では限界があるのは明らかだ」と指摘し、妊婦にとってわかりやすい仕組みにする観点からも、「現物給付にすべき」と主張した。

併せて、自己負担無償化のための財源を、公費負担も含め検討するよう求めた。
 ②については、地域差や施設差がある現状を踏まえ、医療保険制度との整合性を図るためにも「全国一律にすべき」とした。

一方で、産科医療機関の維持は国としての出産体制の問題であり、出産の給付体系の見直しとは切り離して議論すべきと強調し、「保険料財源ではなく、税財源も含めて別途解決策を考えるべきだ」と訴えた。

③は「妊婦の選択にかかわらず提供されるケア、サービスに限定すべき」とした。
 また、アメニティーに関しては「本来、妊婦の選択で提供されるものなので、保険給付の対象外にすべき」と述べた。

④については、出産にかかる費用とサービスの見える化を一層進める必要があるとした上で、「分娩を取り扱う機関に対し、ケアやサービスの内容とその費用のデータ提供、公開を義務づけるべきだ」と主張した。

北川博康委員(全国健康保険協会理事長)は①について、現金給付から現物給付への変更を「一つの考え方として支持する」とした。

④は出産費用を現物給付にする以上、「保険給付の対象にならないサービスについては、妊婦自身が選択できるよう、十分な情報提供が前提になる」と述べた。

林鉄兵委員(連合副事務局長)は①について、出産育児一時金の廃止と現物給付化を主張した。

併せて、妊婦の自己負担について、「公費での負担軽減が必要」とした。
 ④は「出産なび」の充実に加え、「分娩費用を含む提供内容と費用内訳がわかる明細書の無料発行を、分娩を取り扱う機関に義務づけてはどうか」と提案した。

伊奈川秀和委員(国際医療福祉大教授)は③のアメニティーを「付加給付や保健事業といった役割を持つ保険者の創意工夫に委ねてはどうか」と提案した。

併せて、保険者は少子化対策や子育て支援の取り組みも考えるべきとした。
 城守国斗委員(日本医師会常任理事)は①について「自己負担のない現物給付にすべき」と述べた。妊婦に対し見直しを周知し、理解を求める必要もあるとした。

②は全国一律の公定価格とし、「全国の分娩施設が安定して分娩を提供できる費用設定が必要だ」と主張した。

③については、各施設で自由診療に基づくコスト構造ができあがっている中で、「各分娩施設が納得できる「標準的なケース」をいかに設定するかが今後の議論の中心になる」とした。

また、アメニティーは「選定療養のような扱いにしてはどうか」と提案しながらも、個室料を対象にするかどうかについては、全室個室の施設のため妊婦の選択によらないケースがあることも踏まえ検討するよう求めた。

④は妊婦がどのような情報を求めているか調査、分析した上で、医療機関の過度な負担にならないように内容の見直しを検討すべきだとした。

任和子委員(日本看護協会副会長)は③について、周産期医療の安全性を維持するための医療行為や、助産師のケアに適切に対応するための人員、設備の体制整備を「標準的なケース」に含める必要があると主張した。

一次施設への配慮を強調
産科関係専門委員が意見

この日の会議では、産科医療関係の専門委員も出席し、意見を述べた。
 石渡勇専門委員(日本産婦人科医会会長)は、地域の周産期医療を担う一次施設が妊婦のニーズに応じ、様々な経営上の工夫や努力をしてきたことを踏まえ、新たな給付体系では「それぞれの施設の経営上の自由度が確保されるような、硬直的でない緩やかな評価の仕組みが必要だ」と強調した。

給付内容については、「現在の出産育児一時金よりも上乗せした給付」「全国一律で、なるべく高い水準の設定」「柔軟に給付水準を見直す仕組みの導入」などを要望した

また、保険財源だけでなく、税財源も活用した出産支援制度の創設の検討も求めた。
 亀井良政専門委員(日本産科婦人科学会常務理事)は入院から数時間で分娩に至るケースもあれば、数日かかるケースもあるとし、「アカデミアにとっては、何が標準的なのか、いまだにわからない」と述べ、標準的なケースについて丁寧に議論すべきとした。

新居日南恵専門委員(manma理事)は、分娩費用を支払って出産育児一時金が手元に残った場合、子育て用品の購入などに活用できていたとし、新たな給付体系で「これまでの支援が低下することがないようにしてほしい」と主張した。

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