健保ニュース
健保ニュース 2025年8月合併号
健保連・第224回定時総会
宮永会長 健保組合の安定運営へ改革前進
保険者機能強化し皆保険堅持
健保連は7月18日、第224回定時総会を開き、令和6年度の事業報告や決算などを審議し、了承した。冒頭にあいさつした宮永俊一会長は、高齢者医療への拠出金負担の増加で健保組合財政が依然として厳しい中、6月に閣議決定された「骨太の方針2025」には、現役世代の保険料負担を含む国民負担の軽減を実現するための改革が示されたとして、「健保組合が継続して安定した事業運営ができるよう、改革を着実に前に進めていかなければならない」と訴えた。また、国民皆保険制度を守るため、健保組合の保険者機能を一層強化し、価値を高める努力を継続するよう呼びかけた。(宮永会長の発言要旨は次の通り。)
昨今の世界情勢は、政治、経済ともに分断が進む中で、より混沌とした状況にあり、先行きの不透明感が強まっている。
ヨーロッパでは、ロシアのウクライナ侵攻に有効な解決策を見いだすことができない状況が続く中、NATOの防衛費増額の動きがあり、先月行われたカナダでのG7サミットでは、首脳宣言の取りまとめが見送られ、流動的な状況にある。また、軍事的緊迫感の続く中東においても、いったんはイスラエルとイランの停戦が合意されたものの、依然として予断を許さない状況だ。
このような中、米国のトランプ大統領は、日本を含む14か国に対し、8月1日から相互関税を課す方針を示した。日本に対しては25%の追加関税を課すとしており、今後の日本政府の交渉と経済などへの影響を我が国の産業分野ごとに丁寧に細かく注視していく必要がある。
そして、国内の社会経済の動向は、不透明な海外の情勢などの影響を見極めていく必要がある。現在までは好調な企業収益を背景に、設備投資は底堅い動きを見せており、この春の平均賃上げ率も5.25%と昨年を上回り、2年連続で5%を超える水準となった。今後、物価高の影響がどのくらい続くのかなども懸念されるが、この賃上げのモメンタム(勢い)が中小企業も含めてさらに広がっていくことを願っている。
一方で、我が国の社会保障に目を向けると、皆保険制度を支え続けてきた私たち健保組合の令和7年度予算早期集計では、健保組合全体の経常収支差引額は3800億円の赤字となり、赤字組合の数は全体のおよそ8割に上る。
また、平均保険料率は9.34%と過去最高を更新し、全体の4分の1を占める健保組合が、協会けんぽの平均保険料率である10%以上の水準となっている。
このように、賃上げや適用拡大の効果で保険料収入が増えている状況の中においても、高齢者医療への拠出金の負担の増加に追いつかず、健保組合の財政は依然として厳しい状況にあると言わざるを得ない。
保険料率の引き上げも限界に達しており、これ以上の負担増は組合の解散リスクを一層高めることにもなりかねないと大変な危機感を覚えている。
これに対し、先月閣議決定された「骨太の方針2025」では、現役世代の保険料負担を含む国民負担の軽減を実現するため、OTC類似薬の保険給付のあり方の見直しや新たな地域医療構想に向けた病床削減、医療DXを通じた効率的で質の高い医療の実現、現役世代に負担が偏りがちな構造の見直しによる応能負担の徹底などの改革について、予算編成の過程で十分な検討を行い、早期に実現が可能なものについて、2026年度から実行するとされた。
私たち健保組合が継続して安定した事業運営ができるように、また、現役世代が明るい将来展望を持てる社会にするために、こうした改革を着実に前に進めていかなければならない。
保険財政が厳しい中であればこそ、健保組合が強みである保険者機能を発揮して加入者の健康を支え、さらに医療費の適正化にも寄与していくことができるものと信じている。
そのような中、20日には3年に1回の参院選の投開票を迎える。
政治の安定を左右する上でも重要な選挙だが、「現役世代の負担軽減」という私たちの主張を国政に届け、改革の実現につなげていくためにも、極めて重要な意味を持つので、選挙の行方を注意深く見守りたい。
一方で、これらの問題の根本とも言える、我が国が対処していかなければならない喫緊の課題がある。その一つが少子化対策だ。我が国の将来を大きく左右する社会的かつ構造的なこの問題は、解決の糸口が見いだせず、深刻化の度合いを増している。
厚生労働省が6月4日に発表した2024年の年間出生数は、68万6000人と初めて70万人を割り込み、合計特殊出生率は1.15となり、昨年の1.20からさらに低下した。加速度的な少子化の進行と、その後の労働人口の減少は経済規模の縮小、保険料収入の減少につながるため、社会保障制度の基盤を徐々に弱めていく「静かなる有事」とも言われる。
政府は少子化に歯止めをかけるため、こども未来戦略「加速化プラン」を策定し、児童手当の拡充などの経済的支援に加え、男性の育児休暇取得の促進といった働き方改革など幅広い対策を講じているが、出生率を反転させるには至っていない。
8年度からは少子化対策の財源を確保するため、子ども・子育て支援金の徴収が始まるが、少子化対策の効果が表れるのは少なくとも10年、20年を経た時代になる。
時間はかかるが、将来の世代のために、今を生きる私たち全ての世代、全ての経済主体が一体となって、後の世代である子どもの誕生と成長、子育て世帯を応援する大切な仕組みであり、このような対策において、私たち医療保険者も重責の一翼を担っていきたい。
制度設計にあたっては、私たちが強く主張してきた結果、被用者保険においては、国から一律の率が示されることとなった。ただ、事務フローやシステム改修など今後実務的に詰めていく部分も多く、支援金を負担する加入者や事業主への周知などにも対応しなければならない。現場の皆さんからも心配の声が多く寄せられている。
健保連としても、国に対し健保組合の意見要望を伝え、円滑な導入に向けて早め早めに情報提供を行っていくので、引き続き協力いただきたい。
また、12月に迫るマイナ保険証への完全移行についても、各健保組合において様々な準備に取り組んでいることと思う。協力に感謝する。
現場の皆さんや事業主の尽力もあり、加入者の保険証のひも付け率や利用率なども徐々に上がってきている状況だ。
これからは資格確認書の一括交付など、諸々の準備作業が本格化し、業務負荷もさらに増してくることと思う。どのような施策も定着するまでの過渡期には、困難な課題を乗り越えていかなければならない。
質の高い医療を受けることができ、健康リテラシーも高められるといったマイナ保険証だからこそ享受できるメリットを、加入者に届けることが可能となるよう、マイナ保険証への移行のために健保組合の皆さんの引き続きの協力をお願いする。
このような社会保障制度に対する取り組みに加え、このたび健保連では、制度の現状と私たちの取り組みを国民に知ってもらえるよう、「ポスト2025健康保険組合の提言」を策定した。
2025年から高齢化のピークとなる2040年ごろまでを想定し、加入者、国民が危機感を共有して国民皆保険制度を守るため、すべてのステークホルダーがそれぞれの立場で取り組むべきことをまとめたものだ。
提言の中で、加入者、国民に対しては「3つのお願い」をして、健保組合としては「4つの約束」と「5つのチャレンジ」という大きなテーマに組織を挙げて取り組んでいく。
万人に平等で温かい日本の国民皆保険制度を将来にわたって守っていくためには、加入者、国民に幅広く社会保障の厳しい現状を理解してもらうとともに、私たち健保組合も保険者機能を一層強化し、自らその価値を高めていく努力を続け、様々な改革を着実に前に進めていかなければならない。
健保組合に一番近い加入者、事業主をはじめ、労使関係団体、そして国民世論にも私たちの思いを訴えていきたい。私も先頭に立って取り組むので、議員各位には引き続き、ご理解、ご協力をお願いしたい。
最後になるが、本日は令和6年度の事業報告、決算関係を中心に審議してもらう。議員各位の活発な意見と審議をお願いする。