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健保ニュース 2020年5月下旬号

難病治療薬ゾルゲンスマを薬価収載
中医協 国内最高の1.7億円で承認
加算評価のあり方が課題に

厚生労働省は20日、指定難病の「脊髄性筋委縮症(SMA)」に対する遺伝子治療用製品「ゾルゲンスマ点滴静注」について、国内最高価格となる「1億6707万7222円」で薬価基準に収載した。これまで国内の最高価格であった白血病・悪性リンパ腫の治療薬「キムリア点滴静注」の3349万3407円を5倍程度上回る薬価であり、13日に開催された中央社会保険医療協議会(小塩隆士会長)の総会で承認された。

SMAは、遺伝子機能の欠損で筋力の低下を発症する乳幼児等の指定難病であり、生後6か月までに発症する1型の場合、治療法がないと永続的な呼吸管理が必要となっていた。

このため、ゾルゲンスマは、2歳未満のSMA患者を対象に無毒化したウイルスを使って体内へSMAの原因遺伝子を1回のみ投与。筋細胞の死滅を防いで神経や筋肉の機能を高めることにより、患者の生命予後の改善が期待される。

世界で最初にゾルゲンスマを承認したアメリカでは2億円を超える値付けが行われていたことから、世界一高額な治療薬として、日本で算定される薬価の水準が注目されていた。

ゾルゲンスマの薬価は、同じ効果を持つ類似薬がある場合に既存類似薬の1日薬価に合わせる
「類似薬効比較方式Ⅰ」により算定。類似薬に比べ高い有効性等が認められる場合は補正加算を上乗せする。

類似薬の「スピンラザ髄注12㎎(12㎎5ml1瓶)」の1日薬価(949万3024円)」と比較を行い、ゾルゲンスマの投与後、11瓶分のスピンラザが投与不要となることから、スピンラザ11瓶分となる「1億442万3264円」をゾルゲンスマの1日薬価として算出。

さらに、ゾルゲンスマは、スピンラザが4か月に1回、繰り返し髄腔内注射を行う必要があるのに対し、1回の静脈内注射で投与が完結し患者負担を軽減することから、「有用性加算Ⅰ(50%)」の対象となった。

また、画期的な医薬品の審査期間の短縮に向けた「先駆け審査指定制度」の対象品目として指定されているため、「先駆け審査指定制度加算(10%)」にも該当。合計60%の補正加算が上乗せされ、1患者当たりの薬価を「1億6707万7222円」と算定した。

ピーク時における年間の国内患者数は25人で、市場規模は42億円と予測。希少疾病用再生医療等製品に指定されているため、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象に該当し、市場実勢価格にもとづく薬価の引き下げが猶予され、一定程度、現行の薬価は維持される。

ゾルゲンスマの投与を受ける患者が支払う窓口負担は、高額療養費制度や小児慢性特定疾病の医療費助成制度を活用することでほとんど生じないとされる。

一方で、希少疾病であるゾルゲンスマの市場規模はピーク時でも50億円未満だが、著しく単価が高いため、費用対効果評価の品目区分「H3」に該当。医療保険財政に与える影響や薬価の透明性を確保する観点も踏まえ、今後、適正な価格設定に向けた分析が開始される。

委員からは、先駆け審査指定制度加算の評価のあり方を疑問視する意見や費用対効果評価による薬価の引き上げを牽制する意見があがった。

健保連の幸野庄司理事は、ゾルゲンスマが、審査から承認までの期間を6か月まで短縮する先駆け審査指定制度の対象品目であるにもかかわらず、メーカーの欠格事由により1年4か月の期間を要したことを問題視し、「1千万円超の上乗せとなる10%の加算が取り消されないのは違和感を覚える」と指摘。先駆け審査指定制度加算の対象としないことが適切との考えを示した。

支払側の間宮清委員(日本労働組合総連合会「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)も、「患者と家族が待ち望んでいた医薬品の承認が、企業の不手際で大幅に遅れたにもかかわらず、10%の加算を上乗せすることは理解できない」と主張。

診療側の今村聡委員(日本医師会副会長)は、「先駆け審査指定制度の対象品目となっただけで一律に10%の加算がつくのは極めて問題である」との認識を示し、高額な医薬品の薬価に一律で加算を上乗せする現行評価のあり方を疑問視した。

厚労省は、先駆け審査指定制度加算の現行の運用状況を踏まえつつ、令和4年度の次期薬価制度改革に向け、高額な医薬品に対する加算の取り扱いについて議論していくと応じた。

このほか、診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は、「ゾルゲンスマが費用対効果評価のH3に該当することは妥当である」と述べたうえで、「ゾルゲンスマは、長期的には類似薬のスピンラザに比べ費用が削減されることが示唆されるが、費用対効果評価の結果、薬価はさらに引き上げられるのではないか」と問題提起。

今村委員も、「ゾルゲンスマは、疾患を根治するということを前提に、今回の薬価を算定したと理解している」と主張し、費用対効果評価による、さらなる薬価の引き上げを牽制した。

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