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健保ニュース 2019年12月上旬号

大塚陸毅会長・基調演説
今が改革のラストチャンス
2022年危機回避へ早急に実行

健保連の大塚陸毅会長は11月22日の令和元年度健康保険組合全国大会で基調演説した。現在は、世代間、世代内の給付と負担のアンバランスが顕著となっており、現役世代の過重な負担を軽減し、国民皆保険を将来にわたって維持していくために、「今こそ、全世代で支え合う医療保険制度への改革が不可欠である」と強く訴えた。皆保険の維持には、全国大会のスローガンに掲げた▽高齢者の原則2割負担▽必要な公費の拡充▽医療費の適正化▽保健事業の推進─とともに、現役世代の負担に過度に依存する安易な姿勢に終止符を打ち、勇気を持って早急に改革に踏み切るよう求めた。「今が2022年危機を迎える前の、改革のラストチャンスといっても過言ではない」と強調し、健保組合加入者3000万人の熱い思いを政治の場に届け、健保組合・健保連の主張を実現する決意を示した。その後、大会決議を採択し、加藤勝信厚生労働相あての要請文書を土屋喜久厚労審議官に手交した。(大塚会長の基調演説は次のとおり)

まず、本年の度重なる台風等による自然災害にあわれた方々に、心からお見舞い申し上げる。

本日ここに、かくも多くの全国の健保組合関係者にお集まりいただき、令和になって初めての健康保険組合全国大会を盛大に開催できることに大きな喜びを感じている。

本日は公務多忙のなか、土屋喜久厚生労働審議官をはじめ、国会議員、関係団体の代表の方々の臨席を賜り、厚くお礼申し上げる。

土屋審議官には後ほど、あいさつをいただくとともに、われわれの熱い思いを込めた大会決議をお渡しすることとしている。また、各政党の代表、関係団体の代表の方々にもあいさつをいただくこととしている。

さて、選挙の年と言われた今年も残すところ1か月余りとなった。政府は9月に安倍首相を議長とした「全世代型社会保障検討会議」を設置し、社会保障制度改革に向けて検討を始めた。来月に中間報告、来年の夏までに最終報告をまとめる予定だと聞いている。これに呼応して、与党をはじめとする関係会議体においても検討が進められており、健保連も既に、様々な場で意見陳述を行ったところだ。

改革への動きが始動
主張実現へまさに正念場

改革への動きがようやく始動した感があるが、この会議で決められる方向性が来年の「骨太の方針2020」につながる。われわれの主張を実現するうえでの、まさに正念場にさしかかっていると考えている。

今年の年頭のあいさつで、平成の30年間を振り返ったうえで、現役世代の負担に過度に依存する現行制度のままでは、これまで60年近く続いてきた世界に誇る国民皆保険制度を持続することは困難になると申し上げた。

国民が安心して医療を受けられるこの制度を、令和の時代にも堅持していかなければならない。そのために、様々な政策提言を分かりやすくアピールし、われわれの主張を広く国民の皆さんに理解していただけるよう取り組んでいくと話した。

こうした思いから、まずは「2022年危機」の到来に警鐘を鳴らし、政策提言として「今、必要な医療保険の重点施策」を公表して、世論に訴えたところである。

また、若者世代をはじめ、広く世間に問題意識を持っていただくために、ツイッターを活用した広報も開始した。さらに今月の8日には、本日の全国大会にも出席いただいている被用者保険関係5団体と共同で、加藤厚生労働大臣宛てに意見書を取りまとめた。

こうした一連の活動により、「2022年危機」は様々な場で取り上げられ、危機に向けた対応の必要性も政府、国会、マスコミ、世論において広く受け止められたと考えている。ツイッターの投稿数も、当初目標としていた10万ツイートを大きく上回る26万ツイートに達しており、今まで、ともすれば医療保険制度に無関心であった若者世代の関心・理解も着実に進んできたと考えている。この盛り上がりを一過性で終わらせることなく、国民1人ひとりの心に届く広報を展開していく。

本大会のテーマは「迫る2022年危機!今こそ改革断行を!」である。急激な少子高齢化の下で、世代間、世代内の給付と負担のアンバランスは、既に顕著なものとなっている。2022年以降は、団塊の世代が75歳に到達し始めることで高齢者医療費が増加し、制度全体の財政悪化が急速に進むことは、今や関係者の共通認識になっている。

保険料率も急激に上昇し、医療、介護、年金を合わせると、「保険料率30%時代」が目前に迫りつつある。

現役世代の疲弊回避
全世代で支え合う制度を

現役世代の疲弊を回避し、国民皆保険を将来に向けて持続させていくためには、今こそ、全世代で支え合う医療保険制度への改革が不可欠である。こうした強い決意のもと、本日の全国大会では4つのスローガンを掲げた。

1点目は「皆保険の維持に向けて、まずは高齢者の原則2割負担の実現」である。高齢者の医療費を現役世代が一定程度負担することは、保険制度の共助の理念であり、これを否定するものではない。しかし、現役世代に過度に依存する制度では持続可能性を確保することは困難である。増加の一途をたどる高齢者医療費を支え続けてきた現役世代の負担は、既に限界を超えている。

「2022年危機」を乗り切るためには、「給付と負担の見直し」を含む高齢者医療の負担構造改革に一刻も早く取り組む必要がある。改革の第一歩として、まずは高齢者の患者負担を75歳以降も引き続き2割とすることを求める。低所得者に配慮しながらも、高齢者に応分の負担を求め、現役世代に偏った負担を少しでも軽減する必要がある。

2点目は「必要な公費の拡充。現役世代の負担増に歯止め」である。本年4月、われわれの仲間である大規模な健保組合が解散を余儀なくされたことは極めて残念であった。高齢者医療への拠出金負担をこのまま放置すれば、さらに多くの組合が解散に追い込まれかねない。

解散の大きな原因となった多額の拠出金に対し、必要な公費を投じ、現役世代の過重な負担を軽減する必要がある。具体的には、後期高齢者の現役並み所得者の医療給付費に対しても、それ以外の後期高齢者と同じ5割の公費負担とするとともに、各健保組合の拠出金負担は、経費の50%とする上限を設け、上限を超える部分は国庫において負担すべきである。

3点目は「保険給付範囲の見直しによる医療費の適正化」である。近年、高齢化に加えて、高額薬剤など医療の高度化による医療費の伸びも大きい。このまま医療費の伸びが続けば、安定して制度を維持することは困難となる。個人が負担し切れない大きなリスクの保障を重視しつつ、保険給付範囲の点検・見直しや薬剤処方の適正化を行うなど、保険給付の適正化は避けて通れない。広く国民的な議論を喚起しつつ、取り組んでいく必要がある。

また、国民1人ひとりが適切な受診行動を心掛け、貴重な保険料に支えられた医療費を大切に使う意識を持つことも大変重要である。われわれ健保組合も加入者に対する啓発活動に、より一層取り組んでいく。

4点目は「人生100年時代。健康寿命延伸に資する保健事業の推進」である。健康保険法制定から約100年の間、健保組合は事業主とともに、加入者の仕事の実態に沿ったきめ細やかな保健事業を効果的に展開し、健康づくり、疾病予防などに取り組んできた。「人生100年時代」と言われる今、健康寿命を延伸し、健康な高齢者が元気に働き続け、社会保障の「御輿の担ぎ手」に回ってもらうことは大変重要である。

健保組合の存在価値
保険者機能を一層強化

加入者の健康づくりに貢献できる健保組合の存在価値、役割はますます大きくなっている。第2期のデータヘルス計画を確実に進め、こうした期待に応えていく必要がある。われわれ健保組合が他の保険者のけん引役となって、これまで以上にきめ細やかな保健事業を展開することにより、健康寿命の延伸に貢献していこうではないか。

財政状況が厳しいなかにおいても、こうした保険者機能を発揮するため、健保連の「組合運営サポート事業」の大幅拡充や、国の補助金の対象となる「保険者機能強化支援事業」を活用した様々なサポートメニューの提供も行っていく。こうした事業を通じて、健保組合の保険者機能をなお一層力強いものにしていきたいと考えている。

先ほども申し上げたとおり、本大会のテーマは、「迫る2022年危機!今こそ改革断行を!」である。

医療保険制度の財政を支えるのは、「窓口での自己負担」「保険料」「公費、すなわち税金」の3つしかない。この3つのバランスが極めて重要だが、これまで国は政治的なハードルが高い「自己負担の引き上げ」や「増税」を避け、取りやすい現役世代の保険料に過度に依存してきたと言わざるを得ない。こうした安易な姿勢に終止符を打ち、勇気をもって早急に改革に踏み切ることを強く求めるところである。

今が「2022年危機」を迎える前の、改革の最後のチャンスと言っても過言ではない。とくに今後の半年間のわれわれの努力によって2022年以降の健保組合を取り巻く状況が大きく変わってくる。われわれも、まさに今が踏ん張りどころである。

本日、この会場には全国から4000名を超える健保組合、企業、労働組合の関係者の皆さんにお集まりいただいているが、その後ろには3000万人の加入者の方がいる。

本日は、各党の国会議員の先生方にも多数、列席をいただいているが、健保組合加入者3000万人の熱い思いを政治に届け、改革を確実に進めていかなければならない。

最後になるが、われわれの主張実現に向けて、参集の関係者の皆さんには、引き続き絶大な支援・協力を賜ることをお願いして、私の基調演説とする。

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