健康コラム
ほっとひと息、こころにビタミン vol.92

精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
そばにいるだけで こころの支えに
デジタル機器を使ってこころを整えることができないかと私が考えたのは、20年近く前になります。ガラケーと呼ばれた折りたたみ式の携帯電話しかなかった頃に、多くの人が「寂しい」というキーワードで検索していると知人から聞いたからです。すると、ここに行くと寂しくないと、いかがわしい場所が表示されるというのです。
私たちは、太古の昔から集団で生き延びてきたために、一人になると心細くなります。その人間の心性を悪用しているのです。それならと試行錯誤を繰り返して、寂しい人に寄り添いながらこころを整える手助けをしたり、必要な場合には適切な相談場所を紹介したりする「こころのスキルアップトレーニング」というサイトを立ち上げました。
さらに、その後、こころの力を伸ばすことも視野に入れた「こころコンディショナー」というチャットボットを開発して公開しました。これは東京都に正式に採用されて、都のホームページから利用でき、必要に応じて対人相談が紹介されるようにもなっています。さらに最近では、あるトップクラスの企業での試験導入が始まりました。
その利用状況を調べてみると、興味深いことが分かりました。「調整モード」と呼んでいる、対話を通してこころを整えるパートを利用する人が一番多かったのですが、それに近い数の人が、「雑談モード」と私たちが呼んでいる、ただ相づちを打つだけのパートを利用していたのです。このことから、人からの相談を受けた時に、そばにいて話に耳を傾けるだけでもこころの支えになり、孤立感が和らぐと推測されます。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる!うつの人が見ている世界』(池田書店)など。