健保ニュース
健保ニュース 2025年10月中旬号
「医療保険の持続可能性」テーマにシンポジウム
佐野会長代理が健保連提言を訴求
負担構造改革の必要性強調
医療経済フォーラム・ジャパンは2日、「医療保険の持続可能性」をテーマにシンポジウムを開催した。健保連の佐野雅宏会長代理がパネリストとして登壇し、過大な高齢者医療への拠出金が健保組合の財政を逼迫させている状況を説明した上で、こうした窮状の打開に向け、「『ポスト2025』健康保険組合の提言」に盛り込んだ負担構造改革や医療費適正化などの実現を訴えた。「現役世代から高齢者への支援は限界に達している」と述べ、高齢者の年齢区分と負担区分の見直しを提起した。このほか、パネリストとして出席した政府関係者は、医療保険制度改革に向けた主要な論点として、OTC類似薬の保険適用の見直しや、金融所得などを考慮した負担のあり方などを指摘した。
パネリストは、佐野会長代理、財務省の吉野維一郎主計局次長、厚生労働省の矢田貝泰之審議官、日本医師会の城守国斗常任理事、日本製薬団体連合会保険薬価研究委員会の藤原尚也委員長の5人。
佐野会長代理は、団塊の世代全員が75歳以上となる2025年を視野に入れた制度改革がこれまで行われてきたが、「いまだ解決されていない問題がある」と述べた。
人口の高齢化に伴い今後も医療費は増大し、2040年には70兆円を超える見通しの中で、現在も10兆円を超える現役世代の保険料が高齢者医療を支えている状況を指摘。報酬の伸びが低位に推移している一方、後期高齢者支援金を中心に拠出金負担は急増していることから、現役世代の過重な負担は解消されておらず、危機的な状況が深刻化しているとの認識を示した。
直近の健保組合の財政状況は、24年度決算見込みを説明した。支出のうち高齢者医療への拠出金が前年度から5.7%伸び、法定給付費と拠出金を合わせた義務的経費に占める拠出金の負担割合は45.1%と、保険料のほぼ半分を拠出金に充てている財政構造に言及した。
保険料収入は4.9%増加したが、賃上げ効果による増加のほかは、保険料率の引き上げが4分の1程度を占めることを踏まえ、「決算が黒字だからといって決して安心できる状況ではない。保険料率を引き上げなければ赤字だった」とし、依然として厳しい財政状況であることを強調した。
1人あたりの医療費と保険料については、年齢別に09年度と22年度を比較し、高齢者の医療費が伸びるとともに、現役世代の保険料が大きく増加しており、給付と負担のアンバランスが拡大している実態を示した。
また、1000万円以上の高額レセプトが24年度は2328件で、15年度から6倍超と顕著に伸びている状況を懸念し、「近年の医療の高度化、高額薬剤による高額医療費の増加も健保組合財政の圧迫要因」と指摘した。
これらの健保組合を取り巻く状況を説明した後、「『ポスト2025』健康保険組合の提言」について、医療保険制度の課題として掲げた3点を柱に紹介した。
課題の1点目の負担構造改革では、「現役世代から高齢者への支援はもう限界に達している」とし、改革の視点として▽長期療養者や低所得者に配慮しつつ、応能負担の観点から必要な見直しを検討すべき▽高額療養費制度だけでなく、医療保険制度全体の改革が必要──との認識を示した。
具体的には、3割負担の対象を70~74歳に、2割負担の対象を75~79歳に、1割負担の対象を80歳以上に、それぞれ5歳引き上げることを提案した。また、高齢者医療や介護、少子化対策のための支援金、納付金の増加に対しては、「保険料負担だけでなく、公費での対応を検討してほしい」と訴えた。
2点目の医療費の適正化では、「保険給付範囲の見直しを含めて医療保険制度の持続可能性を高めることが不可欠だ」と述べた上で、▽医療提供体制を高度医療、病院、外来・在宅医療へと機能分化▽メリハリの利いた診療報酬制度や経済性を反映した薬価制度──などの必要性を指摘した。
3点目の医療保険制度に関する国民の理解促進は、健保組合からの国民への「3つのお願い」と「4つの約束」を提示した。お願いについては、「医療費の仕組みや国民皆保険制度の厳しい状況を知ってください。自分自身で健康を守る意識を持ってください。そして健診を受けてください。軽度な不調はセルフメディケーションを心がけてください」と呼びかけている。
約束は、▽各種健診の働きかけ▽丁寧な保健指導▽予防・健康づくりに役立つ情報提供▽職場環境に応じた予防・健康づくり──を挙げた。
併せて、健保組合が取り組む「5つのチャレンジ」として、▽多様な働き方に対応した保健事業の充実強化▽かかりつけ医との連携▽健保組合の発信力強化▽データ分析による加入者サービスの充実▽デジタル化による健保組合業務の革新──を指摘した上で、「医療保険制度に関する国民の理解促進は、健保組合として大変重要な役割を担うため、しっかり取り組んでいきたい」と強調した。
吉野氏は、26年度の社会保障費の予算編成について、高齢化に伴う自然増に加えて経済・物価動向にも対応することが特徴だと述べた上で、「現役世代の保険料率が上昇しない範囲で改革を行いながら、経済・物価動向への配慮を診療報酬改定の中で実施する」との方針を示した。
具体的に制度改革の論点として、①質の高い医療の効率的な提供②保険給付範囲のあり方の見直し③高齢化・人口減少下での負担の公平化──を挙げた。
①では、「薬剤の費用対効果評価の活用や、地域医療構想に基づく病床の役割分担と一定の削減は効率的な医療につながる」と述べた。
②では、医療用医薬品で市販薬と同様の有効成分・効能を持つOTC類似薬を一部保険給付から外すことや、高額療養費制度の見直しなどを指摘した。
③では、金融所得・金融資産の状況を患者自己負担、または保険料負担に反映することを論点とした。
矢田貝氏は、医療保険制度改革の論点の一つに、全世代型社会保障の構築に向けた世代内・世代間の負担の公平を挙げ、「高齢者の負担のあり方について、金融所得などをどのように勘案していくのか議論しなければならない」と述べた。また、「医療保険も含めて社会保障に対する国民の信任が昔と比べてかなり落ちている」と懸念し、不公平感を払しょくし、負担能力に応じた負担を求めることが信任を得ることにつながるとの認識を示した。
保険給付のあり方では、「効率化することは避けて通れない」とし、OTC類似薬の見直しや医療提供体制の改革などを指摘した。
城守氏は、医療費を賄う財源について、「賃金が上昇しているので保険料率を上げなくても保険料収入が増えている。税収も増えているので、財源として使える部分はある」との認識を示した。
応能負担に関しては、高額療養費制度における自己負担限度額の引き上げに反対の意向を示した一方、拠出金負担増を要因とする現役世代の過重な負担に理解を示し、「高齢者も含めて負担のあり方を見直す時期」と指摘し、具体的に「金融所得を一つの要素として入れることは一考と思っている」と述べた。
藤原氏は、薬価制度について、医薬品のカテゴリーに応じた薬価制度の構築を重視し、▽革新的医薬品は、特許期間中の薬価をシンプルに維持して投資魅力度と予見性を高め、創薬イノベーションを推進する▽医療上必要な基礎的な医薬品は、不採算に至る前に薬価を維持する▽それ以外の医薬品は、カテゴリーの変化に応じた再評価と実勢価格改定により、国民負担を軽減する─などを提言した。