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健康コラム

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

マルハニチロ株式会社

健診前の自社製品を活用した「well-Bチャレンジ」で中性脂肪が低下

マルハニチロ株式会社は、1880年の創業以来、漁業、養殖業、水産加工業等に取り組み、「本物・安心・健康な食から広がる、人々の豊かなくらしとしあわせに貢献する」ことをミッションに掲げている。2026年3月には社名を「Umios株式会社」に変更する。2018年に「健康経営宣言」し、「ホワイト500」に認定、2022年、2025年には健康経営銘柄に認定された。とくに、同社の強みである水産資源を役職員の健康保持増進に直接役立てようという狙いから行った「well-Bチャレンジ」は、DHAを含む自社商品を従業員に2カ月ほど食べてもらい、その結果を測定する取り組みで、参加者のうち半数以上で中性脂肪値が下がるという結果が得られている。同社の健康経営の取り組みについて、人事部ダイバーシティ&インクルージョン室室長の原島真純さん、同室主任(産業カウンセラー/健康経営アドバイザー)の稲葉早苗さん、マルハニチロ健康保険組合常務理事の山口俊彦さん、同組合事務長の土方雅也さんに聞いた。

【マルハニチロ株式会社】
設立:1943年3月31日
本社:東京都江東区豊洲三丁目2番20号豊洲フロント
代表取締役社長:池見 賢
従業員数:1,689人

──健康経営度調査を契機に産業保健を強化

原島さん ▶

 当社の健康経営は、代表取締役社長を最高責任者とし、「人事部ダイバーシティ&インクルージョン室」(D&I室)と、産業医、保健師、臨床心理士、事務員が常駐する「マルハニチロ健康推進室」「マルハニチロ健康保険組合」の3つの組織で構成する選任組織により、企画・運営を行っています。

 当社の健康経営に関する取り組みは、2014年に始まった経済産業省の健康経営度調査結果において当社の状況のひどさに驚いたことをきっかけに始まりました。そこでは、まず健康診断の受診率を100%にすることなどを目標にし、産業保健の基本的な課題から取り組み始めました。

 その後、2018年に「健康経営宣言」を行い、特定のリスクが高い個人や集団を対象とするハイリスクアプローチと、集団全体を対象として全体の健康リスクを低減するポピュレーションアプローチを大きな枠組みとしたフレームワーク(図)を策定し、課題ごとにブレイクダウンして抜け漏れがないよう、網羅的に施策を立案実行してきました。


健康経営フレームワーク


マルハニチロ健康保険組合
常務理事 山口 俊彦 さん

 「健康経営宣言」では、従業員1人ひとりが心身ともに健康であり、個性や能力を最大限に発揮できることが企業の発展につながると考えていることから、「健康経営」を実践するための諸活動を会社、健康保険組合、従業員が一体となり推進し、さらに、「食」に関するさまざまな事業活動を通じて、世界の人々の健康づくりに資することで社会に貢献していくこととしています。

山口さん ▶

 マルハニチロ健康保険組合にとっても健康経営への取り組みは重要で、人事部、産業保健スタッフとのつながりが強いことはとても強みになっています。とくに産業医から専門的な知識やアドバイスをいただいていることが大きく、健診結果から見えてくる集団や個人の問題を課題化し、有効な健診施策につなげています。さらに、各施策の成果(KPI)を健診結果やレセプトデータから検証し、評価しています。

──前年度の健診結果踏まえ数値目標を設定


マルハニチロ株式会社
人事部ダイバーシティ&
インクルージョン室 主任
(産業カウンセラー/
健康経営アドバイザー)
稲葉 早苗 さん

稲葉さん ▶

 当社では、ポピュレーションアプローチの代表的な取り組みとして、「well−B チャレンジ」があります。2019年度にこの前身として「DHAチャレンジ」という名称で取り組みを開始し、2022年度からは、「well−Bチャレンジ」として運動習慣の改善等にもアプローチするなど内容を刷新しました。

 本取り組みの導入の経緯としては、2019年の健診時の従業員の脂質の有所見率が非常に高かったことから、「お客様に健康を提供する企業の従業員として自分たちがまず健康になろう」という問題意識のもと、当社商品を活用した脂質の改善に取り組みました。

 「well−Bチャレンジ」では、各施策を「well−Bアクション」とし、食生活改善のアプローチとして参加者が定期健診前に魚由来の脂質であるDHA・EPAといったω(オメガ)3が豊富な当社商品(トクホや機能性表示食品を含むフィッシュソーセージや缶詰など)を2カ月ほど食べてもらいます。

 プログラムの参加者には、昨年度の健診結果を踏まえ、具体的な改善目標を立ててもらった上で取り組みを開始し、健診後の結果から、とくに優れた改善値や行動変容が見られた参加者ならびに継続的な参加により健康を維持している方には、その成果をたたえ、社内表彰するアワードも開催しています。

 なお、今年度は立候補した500人が参加しています。当社全役員も参加し、手書きの目標を社内イントラネットに公表しています。


左から、山口さん、土方さん、原島さん、稲葉さん

 全社的な傾向として、脂質の有所見率は順調に低下し、2024年度には全国平均を下回る28.1%まで改善しました。

 その他、過去にはエクササイズイベント、野菜摂取量測定会、運動習慣改善等へのアプローチとしてアプリを活用した歩数競争などを実施してきました。今年度は体成分測定会の実施や歩数競争において歩数に応じてポイントが付与され、好きな商品と交換できるプログラムを導入し、健康維持・増進に役立てています。これらイベント案内をはじめ、D&I室からは定期的にメールマガジンによる健康情報の発信を行っています。

土方さん ▶

 マルハニチロ健康保険組合の代表的なポピュレーションアプローチとしては、定期健診で一般的な法定項目に加え独自に項目を付加しています。とくに、がん予防として、便潜血検査(大腸がん)をはじめ、腫瘍マーカー(卵巣がん、前立腺がん)、腹部、乳房エコーを実施しています。また、胃がんリスク検査であるABC検査を27歳と35歳時に実施し、ピロリ菌の早期発見、除菌につなげています。

──ハイリスクアプローチで要精検の受診率向上


マルハニチロ株式会社
人事部ダイバーシティ&
インクルージョン室
室長 原島 真純 さん

原島さん ▶

 ハイリスクアプローチでは、定期健診で要再検査、要精密検査と診断された従業員に対し、産業保健スタッフが面談を行い、医療機関の受診勧奨をしています。その結果、要再検査、要精密検査となった従業員の医療機関受診率は、2024年度には93.4%まで向上しています。

 禁煙対策にも力を入れています。2019年度から「卒煙プログラム」として、オンライン面談とアプリを活用したサポートを無償提供しています。新型コロナウイルスの影響もあったと思いますが、2018年度には22.6%であった喫煙率は、2024年度には16.3%まで低下しました。

 メンタルヘルスに関する取り組みとしては、社内に相談窓口「ココロバ」を設けており、マルハニチロ健康推進室に所属している臨床心理士からカウンセリングを受けることができます。新人従業員に対しては、基礎知識と予防方法の習得を目的として、入社半年後を目安に臨床心理士による個別面談を実施しています。2024年度は約80人に実施しました。

 併せて、メンタルケアの一環として、1on1ミーティング「ブカシル」を導入しています。部下にとって上司がよりよい対話者であること、健康を含めて総合的な観点で部下の様子に気を配ることを狙いとしています。


マルハニチロ健康保険組合
事務長 土方 雅也 さん

土方さん ▶

 マルハニチロ健康保険組合によるハイリスクアプローチとしては、特定保健指導対象者に対して産業保健スタッフと連携し、特定保健指導の実施率の向上に努めています。この結果、健康経営に取り組む前までは、特定保健指導の実施率は40%台でしたが、現在は59%まで向上しています。

──ヘルスリテラシー向上の効果と今後の課題

山口さん ▶

 健康経営に取り組む以前は、定期健診の結果を見て不健康を自慢するような発言をする従業員が一定数存在していましたが、現在ではほとんど耳にしなくなったように感じます。それだけ従業員のヘルスリテラシーが向上し、健康を意識する人が増えているのだと思います。

 一方、健康になる人はますます健康になるのですが、一定の無関心層は引き続き不健康な状態という二極化現象が起きていることが課題に挙げられます。この無関心層に対し、いかにアプローチをしていくかが今後の課題となります。

 マルハニチロ健康保険組合としては、「予防可能な疾病は予防する」をスローガンに掲げています。まずは生活習慣病を予防し、糖尿病有病者ゼロにすることを当面のゴールと捉え、母体企業のマルハニチロにも協力を求めていくことになります。

稲葉さん ▶

 当社では、消費者の皆様の健康維持・向上に貢献するために、①適切な食塩の摂取②適切なたんぱく質の摂取③良質な脂質の摂取④栄養格差の改善――につながる製品の売上比率を上げることを目標としたプロジェクトを行っています。また、厚生労働省「健康で持続可能な食環境イニシアチブ」へ参画し、「食塩の過剰摂取」の改善に向けた行動目標を公開しています。さらに、昨年度からはマラソンイベントへの協賛も行っており、当社の健康経営の社外への普及活動も進めています。

 これらのプロジェクトや取り組みとも連動しながら、引き続き社内の健康経営だけでなく、社外のお客様の健康維持に貢献する取り組みを進めていきたいと考えています。

原島さん ▶

 山口常務理事のお話にもありましたとおり、健康経営に約10年取り組んできた中で、健康な方とそうでない方の二極化という課題に対し、従業員の健康を底上げできるような形で今後も取り組みを進めていきたいと考えています。

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