健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
カシオ計算機株式会社
推進体制を構築しPDCAサイクルで健康経営を推進
時計、電子辞書、電卓、電子文具、電子楽器等を手掛けるカシオ計算機株式会社は、従業員の健康意識を高く保ち行動することを目的とした「CASIO健康基本方針」を定め、健康経営推進チームを中心とした健康経営推進体制を基盤に、9つの重点項目を設定して各種施策に取り組んでいる。特に近年は、女性の健康保持・増進や育児・介護に関する施策に注力しており、そうした多様な施策が評価され、今年初めて「健康経営銘柄2025」に選定された。同社の健康経営の取り組みについて、人事部業務グループリーダー健康経営推進チームリーダーの千葉繁雄さん、同人事部業務グループ健康経営推進チームの岡野聖子さん、カシオ健保組合事務長の伊藤栄一さん、同保健師の岩本祥子さんに聞いた。
【カシオ計算機株式会社】
設立:1957年6月1日
本社:東京都渋谷区本町1-6-2
代表取締役社長:高野 晋
従業員数:2,200人(単体)、8,801人(連結)(2025年3月31日現在)
──9つの重点項目を掲げ戦略マップで施策を推進
カシオ計算機株式会社
人事部業務グループリーダー
健康経営推進チームリーダー
千葉 繁雄 さん
千葉さん ▶
当社では以前から人事部が中心となってさまざまな健康施策を行ってきましたが、各施策の効果の測定や検証、その最大化といったPDCAサイクルが構築できていない部分がありました。
そうした中で、人事部門において人的資本経営の強化に向けた重要テーマの1つに健康経営が取り上げられ、2021年12月に人事部に健康経営推進チームを設置しました。
CHRO(最高人事責任者)が健康経営の最高責任者となり、2022年に「CASIO健康基本方針」を策定し、全社一丸となって健康経営に取り組むことをメッセージとして発信しました。健康基本方針では、「私たちは、一人ひとりが安心して生き生きと働き、仕事を通じて最大のパフォーマンスを発揮できる職場環境づくりを目指します。そのために、一人ひとりが主体的に考え、健康意識の高い行動に努めます。」としています。
それらの取り組みの成果として「健康経営銘柄」に2025年に初めて選定されました。健康経営優良法人認定制度については、「ホワイト500」に3回(2018年、2024年、2025年)選定されています。
現在、健康経営推進チームが戦略的に健康施策を企画立案し、人事部や他の各部門、健保組合、労働組合、各拠点の安全衛生担当者と連携し、カシオ計算機の初台本社、羽村技術センター、営業所はもとより、全国のグループ会社も含めて健康経営に取り組んでいます。
伊藤さん ▶
健保組合では、被保険者・被扶養者の健康の保持・増進のため、さまざまな保健事業や支援を独自に行ってきましたが、健康経営の推進体制が構築されたことで、会社との連携や協力がより密になりました。定例会等を通じて、日頃からそれぞれの施策の進捗状況や課題を共有し、次の企画の検討につなげています。
カシオ健保組合 保健師
岩本 祥子 さん
岩本さん ▶
推進体制を構築したことで、営業所、各拠点の健康管理担当者と連携し、全社統一的なサービスや取り組みを意識して活動しています。
千葉さん ▶
これまでの継続的な施策により健康診断の有所見率等は他社と比べても良好な状態が維持されています。ただし、従業員の年齢分布の変化に合わせ、生活習慣病の予防対策や、治療をしながら仕事が継続できる両立支援が求められています。
このため、2022年から、「健康意識(ヘルスリテラシー)の向上」「仕事と治療の両立支援」「女性の健康保持・増進」「生活習慣病対策」「ワークライフバランスの推進」等の9つの重点項目を掲げて、施策を推進しています。各種施策の進捗については、定期健診の結果や各種のアンケート等を通じて見える化しています。
また、健康経営の目標指標として、アブセンティーズムの減少、プレゼンティーズムの改善、ワークエンゲージメントの向上を挙げ、施策とその効果のつながりを戦略マップとして示すとともに、年度ごとに目標とKPIを定め、実績を評価しています。
──年2回イベントを定例化し女性の健康課題へ理解を
カシオ計算機株式会社
人事部業務グループ
健康経営推進チーム
岡野 聖子 さん
岡野さん ▶
近年、特に力を入れている施策が女性の健康保持・増進と育児・介護に関する施策です。
女性の健康保持・増進については、2022年から女性の健康課題を共有し、理解と認知を広めるため、毎年3月の国際女性デーと10月のピンクリボン月間にイベントや施策を行うことを定例化しました。
2024 年10月はピンクリボン運動にも積極的に参加し、他部門にも協力をいただき、全従業員参加型の企画としています。G −SHOCKではピンクリボン活動支援モデルを発売しました。日本での売上の5%は、乳がん検診受診やブレストアウェアネスの啓発、乳がん患者さんやそのご家族の支援等のピンクリボン活動に取り組んでいる認定NPO法人に寄付をしています。
2025年3月には「女性特有の健康課題」をテーマにしたeラーニングを実施しました。全従業員、管理職に理解していただきたい内容を分けて動画学習を行いました。
子宮頸がん検診や乳がん検診については健保組合から費用補助があり、定期健診と一緒に同時受診できるようにすることで受診率も高い状況にあります。
千葉さん ▶
全従業員向けのセミナーの参加状況を見ると、意外にも参加率は男性従業員の方が高い傾向が見られました。また、女性従業員の健康課題を確認することができ、今後の課題として新たな気付きを得ることができました。
カシオ健保組合 事務長
伊藤 栄一 さん
伊藤さん ▶
従前、グループ会社の人事責任者をしていたのですが、セミナーの動画は役立ちました。男性の上長からすると、女性の部下のどういうところに気を付けたらよいのか、女性特有の健康課題や病気が分かりやすく表現してあって、実際にどのように話しかけたらよいのか、学ぶことができました。
千葉さん ▶
育児・介護に関する施策については、2030年までに男性の育児休業取得率100%を目指して取り組みを進めています。現在は取得率が70%を超え、その平均取得日数も1カ月を超えるなど、育児にしっかりと向き合う環境が整っています。
こうした取り組みの成果として、育児休業を取得した男性社員がマネジャーに昇進し、育児休業を取得しやすい職場風土の醸成に大きく寄与しています。現在では、男性従業員の育児休業取得が当たり前の文化として定着しつつあり、特に引き継ぎやフォローの方法についても適切に配慮がなされています。
──定期健診受診率は100% 再検査も2030年までに
千葉さん ▶
このほかの取り組みでは、生活習慣病対策について、過去には定期健診は短期間で巡回バスにて一斉に実施していましたが、現在は一部の34歳以下の若手従業員を除き、従業員がそれぞれ自分で健診機関を選択し、就業時間内での受診を可能としています。検査項目の追加や40歳以上は人間ドックを選択することもできます。
実施方法を切り替えた当初は受診率が若干低下することもありましたが、今では、「あそこの健診機関で受診したい」「あの検査も受けてみたい」と意識が変わり、健康リテラシーの向上のきっかけにもなり、現在の定期健診受診率は100%になっています。
岡野さん ▶
定期健診の未予約・未受診者に対しては毎月リマインドをしていますし、健康経営の視点から上長のマネジメントの1つに位置付けて、受診の勧奨と就業上の必要な配慮に努めています。
千葉さん ▶
健診の結果、再検査が必要となった従業員に対しても勧奨等を行っており、再検査受診率は現在90%程度の状況です。2030年までに100%とすることを目指しています。
岩本さん ▶
定期健診の結果については40歳未満の従業員も含めて全て健保組合に提供してもらっています。
健保組合では特定保健指導を実施していますが、制度上、服薬中の者は対象外となります。しかし、服薬者の数値改善が重症化予防の観点からは重要と考え、健保組合では服薬中で特定保健指導の対象外となる者であっても検査数値が悪い方に対して、健保組合の医療職が6カ月以上の期間にわたって減量に取り組みながら数値改善を目指すプログラム「スマートチャレンジ」を行い、支援しています。この取り組みは被扶養者も対象としています。
さらに60歳以上で検査数値が悪い方に対しては、電話による保健指導を実施し、健康維持をサポートしています。
岡野さん ▶
禁煙対策については、CHROから、「就業時間中の禁煙(喫煙による離席は休憩時間を除いて禁止)」との案内を発信しました。
これまで健保組合において、医療機関を受診するオンライン禁煙プログラムを実施していましたが、専門機関への受診ではなく、従業員の自発的な禁煙を支援するため、会社がニコチンガムを提供する取り組みを開始しました。
千葉さん ▶
禁煙対策は50代がターゲットではないかと考えていたのですが、喫煙状況を調べてみると20代の喫煙率が高いことが分かりました。そこで、20代は喫煙歴が短いので、まずは自身でできる取り組みを支援することにしました。
岡野さん ▶
若手・新卒者の研修では禁煙セミナーを実施し、啓発しています。
岩本さん ▶
現在の課題として、カシオ計算機の初台本社や羽村技術センターは全館禁煙ですが、地方の営業所やグループ会社等では、オフィスが入るビル自体が全館禁煙になっていない場合もあり、そのため禁煙支援が手薄になってしまいがちな点が挙げられます。
つきましては、会社が始めた従業員の自発的な禁煙を支援する仕組みを全拠点およびグループ会社にも導入できないか検討しています。
──一人ひとりが主体的に考え行動できるように
千葉さん ▶
健康施策を講じていくに当たって、特に健保組合とは密に連携しており、企画段階から話し合いを重ね共通の目的・課題としています。そして、具体的に施策を進めていく際に、どういった従業員を対象とするのか、どういうことが必要なのかを会社と健保組合で役割を決めて二人三脚で進めていく、まさにコラボヘルスが重要だと考えています。
その上で、現在の取り組みは、会社や健保組合が主導で健康課題の解決に向けた内容を考え、従業員に展開してきました。今後は健康基本方針に沿い、従業員一人ひとりが主体的に健康意識を高め行動できるよう促していきたいと考えています。
伊藤さん ▶
健保組合としては、これまで講じてきたさまざまな施策を一度整理した上で、会社と連携して進めるに当たって、健保組合はどこに注力すべきか、役割分担を明確にしていく必要があると考えています。
健保組合の施策は、重症化対策を中心とした高リスク者をターゲットにしていますが、今後は会社の施策の中で、会社側ではちょっと手が届きづらいところにわれわれが協力し、相乗効果を生みだしていきたいと考えています。
コラボヘルスを通じて、カシオグループ全体に健康経営が伝播・定着し、さらに結果が出てくるようにしていきたいです。