健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
株式会社トクヤマ
「健康マイレージ」で個人の健康目標を設定し行動変容を促進
創業から100年の歴史を有し、化成品の製造販売、セメント、電子先端材料、ライフサイエンス、環境事業等を展開する株式会社トクヤマは、2020年10月に「健康経営宣言」を表明、健康経営の取り組みを本格的に開始した。受動喫煙防止を中心とした「スマートライフ・プログラム」の推進や、健康目標達成に対するインセンティブ付与により行動変容を促進する「トクヤマ健康マイレージ」等の施策が評価され、「健康経営銘柄」に2023年から2025年まで3年連続で選定、「健康経営優良法人(ホワイト500)」に2022年から2025年まで4年連続で認定されている。同社の健康経営の取り組みについて、常務執行役員・総務人事部門長兼トクヤマ健康保険組合理事長の佐藤卓志さん、同社健康管理センター所長兼トクヤマ健保組合常務理事の田畑貴美さん、健康管理センター主任の仲野雄樹さん、トクヤマ健保組合事務長の飯山直子さん、同健保組合の酒井禎浩さんに聞いた。
【株式会社トクヤマ】
設立:1918年2月16日
本社(徳山製造所):山口県周南市御影町1-1
代表取締役社長執行役員:横田 浩
従業員数:5,782人(連結)、2,593人(単体)(2025年3月末現在)
──従業員と家族の健康づくりを推進
株式会社トクヤマ
常務執行役員・
総務人事部門長兼
トクヤマ健保組合理事長
佐藤 卓志 さん
佐藤さん ▶
当社の経営方針では、「社員と家族が健康で自分の仕事と会社に誇りを持てる企業」を目指しています。そうした中で、2020年10月の健康経営宣言では、「従業員とその家族の心と体の健康づくりと働きやすい職場づくりを目的として健康経営に取り組む」ことを経営トップが宣言しました。この2020年が当社の健康経営の取り組みのターニングポイントということになります。その意味では、当社の健康経営は比較的新しい取り組みといえると思います。
従業員と家族の健康や幸せを会社としてサポートすることは、企業としての生産性向上、人的資本の活用につながり、企業経営の視点でも非常に重要と認識しています。
健康経営の取り組みは、健康経営統括責任者である社長のもと、担当役員、健保組合、労働組合で構成する健康経営推進委員会で決定する健康管理基本計画に基づき、健康管理センターを中心に実施しています。取り組みの進捗は取締役会でもモニタリングし、会社全体として経営レベルで取り組んでいます。
田畑さん ▶
当初、「健康経営」として具体的に何をすればよいのか、手探りの状態でしたが、健康経営度調査をベースに、当社に何を求められているのか、何が足りないのかを把握するところから始め、まずは、生活習慣病等の一次予防、特に健康障害への影響が非常に大きい喫煙問題に優先的に取り組みました。
また、健保組合との協働、コラボヘルスについては、改めて役割分担を整理する必要があると考えました。例えば、健康診断はがん検診を含めて全て会社で実施し、データを健保組合に渡す流れでしたが、2025年2~3月の健診から、がん検診の実施は健保組合に移しています。がん検診再検査の受診をフォローし、勧奨するためにも、レセプトデータのある健保組合で実施することとしました。
──受動喫煙防止に向け屋内禁煙化は完了
株式会社トクヤマ
健康管理センター所長兼
トクヤマ健保組合常務理事
田畑 貴美 さん
田畑さん ▶
具体的な取り組みのうち、「スマートライフ・プログラム」として、2018年度から喫煙対策に取り組んでいます。受動喫煙防止を目的に、屋内禁煙化を進め、2022年度に協力会事業所等を含めた敷地内屋内禁煙化(本部・支店のビル内共有喫煙所を除く)を完了しましたが、屋外を含めた敷地内禁煙化が今後の課題です。毎月22日の「スワンスワンデー(就業時間内禁煙日)」という取り組みも実施しています。
また、「トクヤマ禁煙キャンペーン」として、①本気編(ニコチンパッチの禁煙外来)②お試し編(ニコチンガムの提供)③ラクラク編(禁煙本の提供)④チャレンジ編(禁煙サポーターと禁煙)の4コースを展開しています。特に①と④では、禁煙の成功率が高くなっています。
ただ、2024年度の喫煙率は17.4%で、前年度からわずか0.4ポイントの低下にとどまっています。2025年度に15%未満という目標の達成は難しい状況です。従来の施策にはないアプローチの検討が今後の課題となっています。
仲野さん ▶
「スマートライフ・プログラム」は、喫煙対策が中心でしたが、2024年度からは生活・運動習慣の改善の施策も組み込んでいます。
飯山さん ▶
特定保健指導に関しては、2025年2〜3月から、特定健診実施当日、会場での初回面接実施をスタートしました。特定保健指導のスタイルを大きく変更したために、事業所にも多大なご協力をいただくこととなり、同時に、被保険者の方への説明が必要となりました。後期高齢者支援金の減額につながって、最終的には皆さんの保険料の減額につながることをお話しして、健保組合の取り組みへの理解と協力をお願いしています。課題も多く、苦労している部分もありますが、今後も会社と連携してスムーズに進むように努力していきたいと考えています。
──参加者の運動習慣に顕著な改善傾向
株式会社トクヤマ
健康管理センター主任
仲野 雄樹 さん
仲野さん ▶
生活習慣の改善とその定着のための施策の軸として、「トクヤマ健康マイレージ」を2023年度から実施しています。これは、従業員自らが健康目標を設定し、毎月振り返りを行う個人参加型の施策です。喫煙、体重、運動、歯、食事、飲酒、睡眠など10のカテゴリーからなる14の生活習慣目標の中から従業員各自が選択し、毎月の振り返りを通じて、行動変容につなげ、一定の基準を達成した従業員に達成度合に応じたインセンティブを付与しています。
田畑さん ▶
健保組合とのコラボという位置づけになっており、インセンティブは健保組合で運営する個人向けポータルサイトのポイントを付与しています。
仲野さん ▶
達成基準の設定は、健康診断の問診票の項目をベースにしており、例えば、運動では「週2日以上30分の運動」、体重では「BMI18.5〜24.9」などを設定しています。
田畑さん ▶
健診の際の問診票で、できているのか、できていないのかの確認ができるもの、参加者も生活習慣が改善したことを確認できるものとして、基準を設定しています。
仲野さん ▶
初年度の「マイレージ2023」で参加者446人にアンケートした結果、参加者満足度は9割以上、期間中毎月振り返りを行った人は68.4%でした。91.3%が生活習慣や運動に対する意識の変化があった、40.3%が健康状態に変化があったと回答しています。
生活習慣改善効果を分析するため、2023年・2024年ともにトクヤマ本体で健診を受けた従業員を対象に、「マイレージ2023」参加者が選択した目標ごとに、参加前後の生活習慣の変化を、従業員全体と比較してみました。
トクヤマ健保組合事務長
飯山 直子 さん
その結果、マイレージ参加者では全体的に改善していますが、特に「週2日以上30分の運動」は顕著な改善がありました。一方で、「BMI18.5〜24.9」は参加前後で大きな変化がなく、従業員全体と同じ傾向となっています。生活習慣の改善、意識の変化が体重の適正化につながるのには時間がかかるものと受け止めています。
「マイレージ2024」では、初年度の結果も踏まえ、選択する健康目標を2つから1つに絞り、インセンティブ対象範囲の拡大(2025年健診結果における血圧などの数値でも付与)を図るなど改善をしています。参加者は初年度の2.5倍となる1120人となりました。
今後も、2023年度、2024年度の分析結果を基に、生活習慣の改善、意識の向上に資する取り組みを講じていくことで、従業員の皆さんが健康になれるよう支援をしていきたいと思っています。施策を周知することで、今年度も参加者の増加を図っていきたいと考えています。
田畑さん ▶
健保組合の事業として従来ウォーキングイベントを実施していましたが、2021年から会社と健保組合のコラボで「トクヤマウォーク」を年2回(期間は2回合計で3カ月半)実施しています。順位をつけるのではなく、一定の基準をクリアするとインセンティブを付与しており、参加者数、参加者の満足度ともに増加傾向にあります。
──治療と仕事の両立で労務面からの検討を
田畑さん ▶
各種施策の分析と検証が非常に重要だと考えています。健保組合において分析システムを導入して、レセプトや健康診断の結果から得られる情報を基に、今後、健保組合としても、どのような保健事業・施策を推進していくのかを検討していきたいと考えています。
トクヤマ健保組合
酒井 禎浩 さん
酒井さん ▶
健保組合として、保健事業の結果を評価することが非常に難しいと感じています。分析システムを導入することで、今後はある程度的を絞って、結果が期待できるような事業を推進していきたいと思っています。
例えば、健康診断の後の再検査について、健康管理センターへの受診の報告が本当に正しいかどうかは、健保組合のレセプト情報でなければ分かりません。健保組合でレセプト情報から再検査の受診を確認できない場合に、受診勧奨通知を健保組合から出すことができます。健康管理センターと情報連携しながら進めていきたいと考えています。
飯山さん ▶
現在は、健康マイレージの施策対象がトクヤマ本体の従業員だけにとどまっていますので、来年度からはポータルサイトを活用して、健保に加入している全ての事業所が参加できるような形で展開していきたいと考えています。
仲野さん ▶
従業員の皆さんの中で、会社は自分たちが生き生きと仕事をして、健康的な生活をするために積極的に支援してくれていると感じる人の割合をもっと増やしたいと思っています。
これまでの取り組みで、ある程度の成果は上がっていると思いますが、例えば、喫煙率をはじめとして頭打ちになりつつある事項もあります。その要因を分析して、仮説を立て、検証し、必要であれば、新たな取り組みも検討する必要があると考えています。
佐藤さん ▶
われわれの健康経営の取り組みについては、「健康経営優良法人ホワイト500」「健康経営銘柄」に選定していただき、高い評価を得ていると認識をしています。もちろん内部的にも、社員が本当に健康になること、結果として生産性がしっかりと向上することを引き続き目指していきます。
また、健康に対する社員1人ひとりのリテラシーをどう上げていくのかは課題だろうと思っています。健康の大切さをしっかりと発信するよう、さらに積極的に取り組んでいきます。
もう1つは、病気になった時にどう対応するのかです。例えば、従業員の治療の選択肢を増やせるような治療を受ける際の休暇制度といった制度づくりを、労務面において検討すべき時期にきていると思っています。仕事と治療の両立ということについて、研究をしながら、しかし時間をあまりかけずに取り組んでいきたいと考えています。