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企業・健保訪問シリーズ

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ

古河電気工業株式会社

長年取り組んだ安全衛生活動の経験を健康経営に継承

電線ケーブルや光ファイバーなどの老舗企業である古河電気工業株式会社は、各事業所の産業医や看護職を中心に、労働安全衛生管理活動に取り組んできた歴史がある。労働衛生の課題は時代とともに変化しており、従来の作業管理や作業環境管理を中心とした取り組みから、メンタルヘルス対策や喫煙対策、さらに近年は従業員の高齢化を踏まえた転倒災害防止対策やヘルスリテラシー向上にまで力を入れている。同社のこれまでの取り組みについて、古河電気工業人事部健康推進センター長兼古河電工健康保険組合常務理事・井上正利さん、古河電気工業人事部健康推進センター産業医・幸地勇さん、同主任(保健師)・徳地谷洋子さん、古河電工健康保険組合事務長・伊藤美季さんに話を聞いた。

【古河電気工業株式会社】
設 立:1896年6月25日
本 社: 東京都千代田区丸の内2-2-3
代表取締役社長:小林 敬一
従業員数(連結):52,215人(2019年3月末現在)

──企業理念とこれまでの健康づくりの取り組み


古河電気工業人事部健康推進センター長
兼古河電工健康保険組合常務理事
井上 正利 さん

井上さん ▶

 当社が求める企業のあり方として、人事部門では「皆がいきいきと働き、成長し続け、誇れる企業へ」というスローガンを掲げています。これを支える5本の柱として、「働き方改革」や「ダイバーシティの推進」などとともに、「健康経営の実践」を据えています。

 これまで、従業員の健康づくりに関して特段アピールはしてきませんでしたが、私が入社した約40年前から、主な事業所に専属の産業医を配置するか、各拠点を巡回するかして、全社的に従業員の衛生管理を行ってきました。そうした意味で、労働安全衛生の範囲では長年活動を続けてきた自負があり、社外からもさまざまな評価を受けてきました。今回、「健康経営銘柄2019」に選定されましたが、健康経営はこれまでの活動の延長線上にあると受け止めています。


古河電気工業人事部
健康推進センター主任(保健師)
徳地谷 洋子 さん

徳地谷さん ▶

 当社は製造業のため、健康づくりに向けた活動はやはり労働衛生という切り口から始まっています。長年、作業管理・作業環境管理・健康管理の3管理をきちんと行っていこうという方針で取り組んできました。

井上さん ▶

 メンタルヘルス対策についても、30年ほど前から産業医が新任管理職などの節目の研修時に簡易的なストレスチェックや、社内講話を行うなどの取り組みを続けてきました。そうした中で、2002年度からはメンタルヘルス対策に全社を挙げて取り組むキックオフ宣言を行い、社外向けのサスティナビリティ・レポートでも発信しました。

徳地谷さん ▶

 それまでは、1カ月以上の長期休業者は腰痛を中心とした筋骨格系の疾患が多かったのですが、その頃からメンタルヘルス関連疾患が増加していたのです。


古河電気工業人事部健康推進センター産業医
幸地 勇 さん

幸地さん ▶

 特別な対策を講じてきたというよりは、厚生労働省が提唱する「4つのケア」とストレスチェックを中心に、メンタルヘルスへの対応も可能な産業医や産業保健スタッフがしっかりと関わることを基本に進めてきました。

 1つ特徴的なものとして、ポジティブで充実感を持って仕事に取り組んでいる心理状態を指す「ワーク・エンゲイジメント」について調査し、結果をもとにグループワーク研修を実施しました。研修後、各事業所で「快適職場検討会」を立ち上げ、従業員自身に環境改善を考えてもらっています。

 この研修を行って分かったことは、産業保健スタッフだけがあまり主導的に関わるべきではないということ。つまり、ストレスの原因には「人員が足りない」「業務負荷が大きい」といったこともあり、人事や総務部門も関わらないと解決が難しいということです。産業保健の視点だけでは限界があることがよく分かりました。

──従業員の高齢化に対応

井上さん ▶

 16年度から、転倒災害防止に向けた取り組みを進めています。労働衛生には、われわれ健康推進部門と安全管理部門が連携して取り組んでいますが、安全管理部門から「労働災害で転倒災害が減らないので協力してもらえないか」と要請がありました。背景には製造現場の従業員の高齢化があります。

 そこで、中央労働災害防止協会(中災防)が開発した簡易版体力測定を50歳代以上の社員全員に実施しました。筋力、敏しょう性、バランス感覚などを測定し、今はこれを40歳代以上にまで広げています。また、ある事業所で開発した「転倒予防体操」をビデオに撮り、DVDで全社に配布して始業時にラジオ体操とともに実施しています。

 年を取ると、少しの段差でもつまずきやすくなるとともに、つまずいたときに踏ん張りが利かなくなります。自分で思っている体力と、実際の体力測定の結果にギャップがある人は要注意ですね。

幸地さん ▶

 産業医は、事前の問診で聞いたその人が認識している体力と、体力測定の結果を見える化して返却し、指導に生かしています。医学的に筋力は下肢から衰えるといわれているとおり、高齢化に伴い要注意者は増える傾向にあります。閉眼片足立ちの検査などは、とくにその傾向が顕著です。こうしたことを、個々の従業員にフィードバックするとともに、組織全体の集計結果を示して職場へもフィードバックしています。

──5カ年計画で進める喫煙対策

徳地谷さん ▶

 喫煙対策として、当社では「2020年に敷地内全面禁煙」という目標を掲げ、5カ年計画で進めています。すでに、17年には就業時間内禁煙を達成しました。男性の喫煙率は現在27%ですが、事業所間で17~39%くらいまで幅があります。02年に喫煙対策を始めた当初の喫煙率は53%でした。


2020年度の敷地内全面禁煙実施を告知するポスター。15年に作製し、早くから意識を高めた。

幸地さん ▶

 千葉事業所では、喫煙対策のロードマップを作成しました。今までの取り組みと、今後に向けた施策を一通りまとめ、5カ年計画で進めています。トップダウンが一番良いのでしょうが、それができない中で、複数年計画で進めていく手法です。計画では、喫煙率の年度目標だけでなく、敷地内全面禁煙の日を増やす、屋外喫煙所の設置場所を少しずつ出入り口付近から離す、といった対策を、年度ごとに明記しています。

 この取り組みを日本産業衛生学会で発表したところ、ベストプラクティス賞を受賞し、それが新聞などでも取り上げられ、他の事業所にも波及しました。じつは、この5カ年計画の前に就業時間内禁煙に向けた5カ年計画があり、さらにその前にも3カ年計画があって、中期計画の3つ目でようやく全面禁煙にたどり着きました。


古河電工健康保険組合事務長
伊藤 美季 さん

伊藤さん ▶

 喫煙率にやや下げ止まり感があるため、健保組合でも昨年から遠隔禁煙支援に取り組み始めました。今はこちらが期待するほど参加者が集まっていませんが、「全面禁煙」になるギリギリまで吸って、吸えなくなったら仕方がないからやめるという人もいるので、20年になれば新たな需要が生まれるかもしれないと思っています。

井上さん ▶

 喫煙対策にも通じるのですが、健康への取り組みは従業員自身の意識も重要であり、ヘルスリテラシーを向上させることがここ2、3年の課題となっていました。

 そこで昨年から、各自が健康のために実行したいこと、すべきことを「健康一言宣言」として意思表明を行い、職場で共有する取り組みを進めています。社長や幹部層の宣言を積極的に紹介し、グループ各社にも広めています。

──健保組合との連携・役割分担

井上さん ▶

 健康づくり活動は、全社一斉に1つのことを行うのではなく、各事業所にいる産業保健スタッフや人事・総務部門が企画し、独自性を持って進めてもらうことが中心になります。すると「予算が限られている」「職場の協力がなくて参加者が集まらない」といった悩みが出てきます。

 それに対して私からは、事業所のトップに対し「お金の投資は難しいかもしれないが、時間の投資として勤務時間内に保健事業を実施できるようにしてもらえないか」といった要請をしたり、健保組合として事業所の健康づくり事業に対する補助金の活用を呼びかけたりしています。

 やはり健保組合と事業所のコミュニケーションが重要なので、年1回保健事業検討会を開催し、事業所担当者と意見交換をしています。また、各事業所の産業医が集まる会議に、毎月、私や伊藤事務長が出席し、健保組合が企画している保健事業について意見をもらうこともあります。

伊藤さん ▶

 健保組合は厚労省の管轄なので、これまではまず法律で決められていることや、国庫補助を受けている事業の実施について、しっかり取り組んでいただくよう事業所にお願いをすることが多かったですね。そのため、事業所の方も〝やらされている〟という感覚が強かったのではないかと思います。しかし、事業所によって疾病や生活習慣が異なるので、事業所の声をよく聞き、その事業所がやらなくてはいけないことやできること、従業員のニーズなどを明確にし、そこに健保組合が支援していくようにしました。主体は事業所にあるというスタンスは崩さないようにしたいと思っています。

──今後の課題

徳地谷さん ▶

 当社の健康推進センター長が健保組合の常務理事を兼務していることもあって、会社と健保組合の距離は非常に近いです。定期的に情報交換するようになり、以前と比べて健保組合との接点が多くなりました。これを続けていけば情報共有がしっかりできてくると思います。

伊藤さん ▶

 健保組合はレセプトデータや健診データ、給付データなどのさまざまなデータを持っています。それらを分析し、その結果に基づく事業の提案を積極的にしていきたいですね。

幸地さん ▶

 これまで事業所はリスクマネジメントを基盤とした〝手法〟で各種安全衛生施策に取り組んできました。一方、今求められている健康経営はヘルスプロモーション活動であり、健康課題に優先順位をつけて対策を実行する〝手法〟です。同じ〝手法〟であることから、両者は「別のもの」ではありません。リスクマネジメントとヘルスプロモーションの2つの要素を統合して、全体をひとつの仕組みとしてPDCAを回すことができれば、健康経営もより進んでいくと考えています。

井上さん ▶

 経済産業省が健康経営を広く推奨してくれたことは非常に良いことであり、厚労省の保険局と一緒になってコラボヘルスを提唱していることも納得できます。ただし、事業所ではこれまで労働衛生をベースに取り組んできた歴史もあるので、厚労省の労働衛生部局も巻き込んで健康経営を促進してほしいと思います。

 当社の課題で言えば、社内外に発信する社長の年度方針に、「健康」という言葉がまだ入っていません。また、幹部層の考え方にもバラツキがあるので、事業所ごとの取り組みに差が生じてしまっていることが課題だと感じています。そして喫煙対策でもそうですが、無関心層の意識の底上げが必要であり、ヘルスリテラシーの向上を着実に進めていきたいです。健康一言宣言の実施率が100%になることが、まずは第一歩かと思います。