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健保ニュース 2025年11月下旬号

高齢者医療の「現役並み所得」
基準設定のあり方を見直し
給付費の公費負担も課題

社会保障審議会医療保険部会(部会長・田辺国昭東京大大学院教授)は13日、高齢者医療の負担のあり方について議論した。厚生労働省は「現役並み所得」の基準について、物価や賃金の上昇などを反映した更新のみではなく、設定のあり方そのものを見直す必要があると提起した。併せて、後期高齢者の現役並み所得者の給付費には公費負担がなく、現役並み所得者が増えると、かえって現役世代の負担が増える構造になっているため、「現役世代の支援金と公費の取り扱いのあり方にかかる課題」を踏まえた検討が必要だとした。健保連の佐野雅宏会長代理は、このいびつな負担構造で「現役世代にとって過重な負担になっている」と指摘し、早急な見直しを訴えた。

高齢者医療の現役並み所得の基準額は平成18年8月、協会けんぽの16年度の平均標準報酬月額をもとに算出された「課税所得145万円以上」かつ「年収383万円(複数人世帯は520万円)以上」に設定されて以降、約20年間変わっていない。

この間の協会けんぽの平均総報酬の伸びを踏まえ、18年度と同じ条件で基準額を算出すると、課税所得が150万円に、年収が425万円(複数人世帯は565万円)に引き上げられることになる。

一方、5日に開かれた財政制度等審議会の分科会では、財務省が「ゼロベースでの検討を加え、早急に見直しに着手すべき」という改革の方向性を打ち出していた。

こうしたことから、厚労省は判断基準について、単なる更新だけではなく、設定のあり方そのものの見直しが必要と判断し、論点として提示した。

見直しにあたっては、後期高齢者の現役並み所得者の給付費に公費負担がないことや、高齢者の窓口負担などの増加を課題に挙げ、「高齢者の自己負担のあり方について、どのような対応が考えられるか」も論点に据えた。

また、高齢者の受診状況や経済状況が多様であることから、「どのような見直しが考えられるか」についても委員に意見を求めた。

佐野会長代理は高齢者の就業率の上昇や所得の増加を踏まえ、現役並み所得の対象範囲の拡大を主張した上で、判定基準の見直しはシンプルでわかりやすい設計にすべきとした。

また、後期高齢者の現役並み所得者の給付費について、本来公費で負担すべき金額が5000億円を超えるという試算を示し、「公費の取り扱いについて早急に見直してほしい」と要望した。

高齢者の窓口負担については、高齢者の受診日数の減少や所得の増加などを挙げ、「高齢者像が変わってきている」と指摘し、低所得者に配慮した上で「高齢者の定義や負担割合を見直す時期に来ている」と述べた。

北川博康委員(全国健康保険協会理事長)も「全世代型社会保障の実現の観点から、3割負担の高齢者の範囲を拡大すべき」と主張し、後期高齢者の給付費の公費負担のあり方と併せて検討するよう求めた。

原勝則委員(国民健康保険中央会理事長)は介護保険のサービス利用時の2割負担の判定基準の見直しも議論されていることに触れ、特に85歳以上の高齢者の約6割が医療と介護サービスの両方を利用しているため、「医療と介護を併せて検討する必要がある」と指摘した。

林鉄兵委員(連合副事務局長)に代わり出席した平山参考人も、公費負担のあり方を含めた基準見直しの検討を求めるとともに、「介護保険制度の見直しも含めた高齢者への影響を勘案し議論すべきだ」とした。

藤井隆太委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)は負担の公平性の観点から、現役並み所得の判定基準の見直しが必要だとした上で、「現役並み所得者が増えても現役世代の負担が増えないよう、後期高齢者支援金についても見直しが不可欠だ」と述べた。

城守国斗委員(日本医師会常任理事)は制度の持続性確保に向け、物価と賃金の上昇などを踏まえ、「基準設定などの見直しが必要な時期だ」と理解を示した。

その上で、「仮に基準を見直すと、高齢者の負担が大きく膨らむことも勘案して制度設計しなければならない」と述べた。

また、「将来的には、後期高齢者医療制度の財源構成の見直しについても議論が必要ではないか」と主張した。

島弘志委員(日本病院会副会長)は「基準見直しの目的は現役世代の負担軽減だ」として、「現役世代の負担をどの程度減らすのか。その分を高齢者医療制度の見直しで補う議論をしているが、公費を投入しないとバランスが取れないのではないか」と述べ、議論にあたり負担軽減額の規模と見直しに向けたスケジュールを示すよう求めた。

袖井孝子委員(高齢社会をよくする女性の会理事)は3割負担の後期高齢者が増えると現役世代の支援金負担も増える構造に疑問を呈し、後期高齢者医療制度の検証が必要だと言及した。現役世代の支援金の伸びなどを捉え、「必要がなければ(後期高齢者医療)制度をやめることもあり得る」と述べた。

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