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健保ニュース 2025年11月中旬号

出産への支援強化を議論
医療保険部会 給付体系の見直しに着手
年内に「骨格」取りまとめ

社会保障審議会医療保険部会(部会長・田辺国昭東京大大学院教授)は10月23日、医療保険制度における出産に対する給付体系の見直しについて議論した。厚生労働省は今後、出産費用に関するさらなるデータとともに「給付体系の骨格」を示して議論を深め、年内の取りまとめを目指すと提案した。議論の進め方や標準的な出産費用の自己負担の無償化の方向性に異論はなかったが、「標準的な出産費用」の範囲の明確化を求める意見や、出産の保険適用に慎重な声が上がった。健保連の佐野雅宏会長代理は「見える化と標準化が最も重要なキーワードだ」と強調し、この考え方を念頭に置いた議論を求めた。

無償化の方向性に異論なし

出産費用については、令和5年末に閣議決定した「こども未来戦略」で、妊婦の経済的負担の軽減に向け、出産費用の見える化とともに、8年度をめどに正常分娩の保険適用の導入を含めた検討を進めるとした。

これを踏まえ、厚労省は全国の出産施設に関する情報を提供するウェブページ「出産なび」を昨年5月に開設し、施設の概要やサービス内容、費用などの情報を公開した。

また、同年6月には「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」を開催し、10回の議論を経て、①費用の見える化を前提とした標準的な出産費用の自己負担無償化と安全で質の高い周産期医療提供体制の確保の両立②希望に応じた出産を行うことのできる環境の整備③妊娠期、産前・産後に関する支援等──を柱とした「議論の整理」を今年5月にまとめた。

①は出産育児一時金の引き上げ後も出産費用が増額していることや、地域差が大きいことを踏まえ、8年度をめどに産科医療機関の経営実態にも十分配慮しながら標準的な出産費用の自己負担無償化に向けた具体的な制度設計を進めるとした。

②は妊婦が十分な情報に基づき出産に関する自己決定や取捨選択ができる環境の整備や、希望する妊婦が安全な無痛分娩を選択できるようにすることなどを盛り込んだ。

③は妊産婦本位の切れ目のない支援体制構築や、国が示す妊婦検診に自己負担が生じないよう、公費負担をさらに推進することなどを打ち出していた。

さらに、6月に閣議決定した骨太の方針には、妊娠・出産・産後の経済的負担の軽減のため、「2026年度をめどに標準的な出産費用の自己負担の無償化に向けた対応を進める」と明記された。

委員からは標準的な出産費用の自己負担の無償化や議論の進め方に異論はなかったが、「標準的な出産費用」の定義について議論を求める意見や、そもそも出産に保険適用はなじまないという声が上がった。

また、専門委員として参加した周産期医療の関係者らは、周産期医療提供体制を維持するために、地域の身近な分娩機関である一次施設の安定した経営が重要だとした。

健保連の佐野会長代理は周産期医療提供体制の確保は重要だとしながらも、「国としての体制の問題ととらえるべきであり、出産に対する給付体系の見直しとは切り離して議論すべきだ」と指摘した。

また、出産にかかるサービスや費用の見える化を一層進めるべきとした上で、「見える化に基づき、標準的な出産費用を検討する必要がある」と述べた。

無痛分娩については、妊婦のニーズが多いが、リスクもあるため、「まずは安全に提供できる体制を整備した上で、保険適用するかどうか慎重に検討すべきだ」とした。

北川博康委員(全国健康保険協会理事長)は「標準的な出産費用」について「保険診療の考え方や保険料を負担する人の納得性などを念頭に議論を深める必要がある」と述べた。

また、自己負担の無償化に向け、公費や保険料負担のあり方も踏まえて議論すべきと主張した。

城守国斗委員(日本医師会常任理事)は出生数が減る一方、里帰り出産や無痛分娩など妊婦の出産に関するニーズの多様化を踏まえ、「ニーズに応じた体制を各地域で整備する必要がある」と述べた。

その上で、「地域の一次医療を担う産科医療機関が撤退することなく、全国どこでも希望に応じて出産できる体制の維持と、妊産婦の経済的な負担も軽減できる見直しを丁寧に議論すべきだ」と主張した。

また、産科医療機関が自由診療の中で必要な人員や体制をそれぞれ整備してきた経緯にも配慮するよう求めた。

島弘志委員(日本病院会副会長)は分娩を扱う一次施設が経営を続けられるような制度設計を求めた。

伊奈川秀和委員(国際医療福祉大教授)は「標準的な費用」について、出産費用の地域差や施設間の差、付加的なサービスなどのデータも見ながら議論する必要があると述べるとともに、出産育児一時金の給付対象についても検討が必要だとした。

正常分娩の平均52万円
厚労省が出産のデータ提示

厚労省はこの日の会議に、出産に関するデータを提示した。6年度の正常分娩の平均費用は51万9805円で、前年度から約1万3000円増加した。

都道府県別にみると、東京が64万8309円で最も高かった。最低は熊本の40万4411円だった。

正常分娩の出産費用が産科医療補償制度の掛け金を除く出産育児一時金の支給額を超えたのは61%だった。

室料差額や産科医療補償制度の掛け金を含めると、8割超の出産で妊婦の合計負担額が一時金の支給額を上回った。

5年度の一時金引き上げ直後は、支給額と出産費用の差が縮小したものの、直近のデータではその差が拡大し、妊婦の経済的負担は増加している。

また、6年の出生数は68万6173人で、過去最少だった。合計特殊出生率は1.15に低下した。

5年度(出生数72万7288人)の出生場所別出生数をみると、病院が約39万人、診療所が約33万人で、全体の99%を医療機関が占めている。

出生数の減少に伴い、分娩機関も減少し、5年は診療所が880件、病院が886件、助産所が338件だった。

分娩を取り扱う医療機関数には地域差があり、5年時点では東京が147施設で最も多く、高知が9施設で最も少なかった。一方、出生1000人あたりの分娩取り扱い医療機関数は、東京が最も少なかった。

分娩を含む入院期間中に分娩に関連した保険診療が行われた異常分娩の割合は46.8%、正常分娩は53.2%だった。

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